今回はこちら。
透析液の清浄化。
あまり臨床工学技士以外の方には馴染みがないと思います。
逆に透析に噛んでいる技士でも、「達成しているのが当たり前だろ」と思っている節があると思います。
なので、今回は実際中身がどうなっているのか?どのように達成するのか?について見ていければと思います。
少々マニアックな内容になりますがお付き合いいただければと思います。
では参りましょう。清浄化の世界へ
清浄の歴史
最初の清浄化ガイドラインが示されたのは1995年、日本透析医学会(以後、JSDT)からでした。
それまではガイドラインは策定されておらず、各施設の判断に委ねられていたのです。
遡ること1年前の1994年、九州HDF検討会からオンラインHDFの水質基準が「提言」として出された事を機に、正式にガイドラインが策定されたものと考えられます。
その後も内部濾過推進型透析器(俗にいうハイパフォーマンスメンブランス、以後HPM)登場で1998年にも水質基準が示されました。さらに2005年にはHPMを分離した新たな水質基準も示されました。2008年の水質基準を経て、2023年5月現在、最新版は2016年版透析液水質管理基準が策定されています。
水質基準を策定する理由
現代となってはオンラインHDFは普通の血液浄化療法となりました。
オンラインHDFは患者の血液=体内に直接透析液を入れる為、無菌(≒無菌)状態でなければいけません。それを達成するために水質基準というものはあります。
強いて言えば、表面上はこれだけ答えられれば問題ありません。しかし、背景問題を述べることが出来れば、より理解は深まります。
生体適合性の問題
1980年代、様々な仮説が台頭する中、透析液汚染とダイアライザの生体適合不全がアミロイド症などの長期合併症を発症させる因子として重要であると認識されました。
透析アミロイドーシス
透析アミロイドーシス(以後、HDA)は長期透析患者に現れる全身性の合併症の代表ともいえる疾患でした。また、この中でも高頻度に合併していたのが手根管症候群(carpal tunnel syndrome ;以後、CTS)でした。
1994年にBazらにより透析液エンドトキシン(ET)濃度の低下によるCTS発症率低下が報告され3)、その後、徐々に透析液の清浄化が進み、それに伴うETの低下がHDAの新規発症を抑制する可能性がいくつか報告されるようになりました。現在では、微細なレベルのリポ多糖(以後、LPS)によるET汚染や細菌DNAなどの超微粒子汚染でも生体に炎症反応を惹起しうることが判明しています4)。これは、エンドトキシンフリーの透析液が新規HDA発症抑制の面から必要とされているということです。
では水質基準はどうなっているのか??
度重なる改訂作業を経て、現在は国際標準化機構((International Organization for Standardization,ISO)により水質基準が策定され、2008年にそれに従った生物学的汚染が策定されました。しかし、その時点ではまだ化学的汚染についての基準が無く、日本臨床工学技士会(以後、JACE)からの働き掛けで2016年に化学的汚染を含む、現在の水質管理基準が策定されたのです。
この化学的汚染物質管理の基本は原水、ならびに透析用水作成装置に依存しています。特に透析用水作成装置に関しては、医療機器としての基準が無く、各製造業者に任されることが大でありました5)。
生物学的汚染基準
ここからは実際の基準を、ガイドラインに沿って解説していきたいと思います。
1-1 生物学的汚染基準の到達点
・透析用水
生菌数 100 CFU/mL 未満
ET 0.050 EU/mL 未満
・標準透析液(standard dialysis fluid)
生菌数 100 CFU/mL 未満
ET 0.050 EU/mL 未満
・超純粋透析液(ultra‒pure dialysis fluid)
生菌数 0.1 CFU/mL 未満
ET 0.001 EU/mL 未満(測定感度未満)
注) 上記基準のアクションレベル(汚染が基準値より高度になる傾向を防ぐために,措置を講じる必要がある汚染度)は施設の汚染状況に合わせて設定されるが,本基準では超純粋透析液の ET を除いて上限値の 50%と定める.
・透析液由来オンライン調整透析液(オンライン補充液,online prepared substitution fluid)無菌かつ無発熱物質(無エンドトキシン)
言わずもがな、ETの測定基準です。
全ての基準が「以下」ではなく「未満」な点が注意が必要ですね。また、超純水透析液(以下、ウルトラピュア)では、生菌数が0.1CFU未満、ET0.001EU/mLと大変厳しくなっています。もちろん理由は先に述べた通りです。ETに関しては検出感度未満を目指しています。少しでも出ればアウトです。
また、JACE:日本臨床工学会から出ているガイドラインは目標値をこれよりさらに厳しく策定しています。
4-2-2 透析用水生物学的汚染管理基準
ET活性値:0.01EU/mL未満 目標値 0.001 EU/mL未満
生菌数: 1 CFU/mL未満 目標値 0.1CFU/mL未満
検体採取量:1mL~100mL
測定頻度:月1回以上測定4-2-3 A溶解装置、B溶解装置(透析用水)
ET活性値:0.001EU/mL未満
生菌数: 1 CFU/mL未満 目標値 0.1CFU/mL未満
検体採取量:1mL~100mL
測定頻度:多人数用透析液供給装置の透析液が基準値以上の場合に実施する。4-2-4 個人用オンラインHDF/HF装置(透析用水)
ET活性値:0.001EU/mL未満
生菌数: 1 CFU/mL未満 検体採取量:1mL~100mL
測定頻度:メーカの添付文書に記載された管理基準に準ずる。4-3 透析液生物学的汚染管理基準
4-3-1 多人数用透析液供給装置
ET活性値:0.001EU/mL未満
生菌数: 1 CFU/mL未満 目標値 0.1CFU/mL未満
検体採取量:1mL~100mL
測定頻度:月1回以上測定4-3-2 透析用監視装置
ET活性値:0.001EU/mL未満
生菌数: 0.1 CFU/mL未満
検体採取量:10mL~100mL
測定頻度:月1回以上測定、一年で全台実施することが望ましい。4-3-3 透析液応用全自動装置
ET活性値:0.001EU/mL未満
生菌数: 0.1 CFU/mL未満(装置流入部は 1 CFU/mL未満)
検体採取量:10mL~100mL
測定頻度:メーカの添付文書に記載された管理基準に準ずる。4-3-4-1 オンラインHDF/HF装置(流入部)
ET活性値:0.001EU/mL未満
生菌数: 1 CFU/mL未満 検体採取量:1mL~100mL
測定頻度:メーカの添付文書に記載された管理基準に準ずる。4-3-4-2 オンラインHDF/HF装置(オンライン補充液)
透析液清浄化ガイドライン Ver. 2.01 より抜粋
ET活性値:0.001EU/mL未満
生菌数: 10-6 CFU/mL未満(not detectedで管理)
検体採取量:10mL~100mL
測定頻度:メーカの添付文書に記載された管理基準に準ずる。
言い方は棘がありますが、臨床工学技士の業務の8割を占める透析業務ですからね。ここまで細かく策定するのも当然と言えば当然かもしれません。
全台がウルトラピュアの達成を当然として策定されています。
また、オンライン補充液は生菌数が10-6(not detected)となっています(ガイドラインには単位が記載されていますが、JSDTでは単位がありません)。これには訳があります。
10-6というのは事実上1tの水を検査しろ!という文言です。そのような検査は現場では不可能なので、事実上検出不可能をnot detectedとして記載しています。概念上の数値なので、50mLの採取液からは確かに検出不可能ですよね。そのような経緯があります。
1‒2.測定方法
ET:リムルス試験法.同等の感度を有すると証明されたものについて使用可能である.
生菌検出:R2A(Reasonerʼs Agar No2)と TGEA(Tryptone Glucose Extract Agar)寒天平板培地を基本とするが,同等の感度を有すると証明されたものについては培養法に限らず使用可能である.
培養条件:R2A と TGEA を用いる場合には 17~23℃,7 日間
ETは採取直後、すぐに自施設にて測定できない場合は冷蔵保存するように定められています。
また、測定は出来る限り自施設で行うようにとありますが、もちろん設備のない施設では、外注検査も可能としています。
本来であればA液、B液は採取対象外です。但し、ETや生菌が検出され、原因特定の為に採取する場合においては、両液共に希釈後に出口部で採取することが推奨されています。
1‒3.採取部位
続いて生菌・ETの採取部位になります。
・透析用水:透析用水作製装置の出口後
・透析液:透析器入口
・オンライン補充液:補充液抽出部位
最低限これだけは採取しましょう。という風になっています。
しかし、臨床現場ではこれより多い事の方が多いのではないでしょうか。実際にはROタンク水の採取、多人数用透析液供給装置の出口、多人数用透析液供給装置出口からコンソールに行くまでの間で、微量ET補足フィルタが噛まれている場合があるので、その前後でも取る施設があるかと思われます。
この様に、ガイドライン上と実臨床では違いがあります。その施設毎の規定はあると思いますが、最低限は守るようにしましょう。
1‒4.採取日:消毒の影響による水質の過大評価を避けるために,薬液消毒・熱水消毒などの工程から最大間隔をあけ,最も汚染リスクが高いと思われるタイミングに行う.
自施設がどのタイミングでどのような洗浄の仕方をしているかをしっかり把握する必要があります。
オプションでRO装置に微量次亜塩素酸での洗浄を行っている施設もあると思います。それが行われている場合には、そこから1週間後が最も汚染リスクが高く、現実に即した水質という事になるでしょう。
1‒5.測定頻度(ET,生菌)
・透析用水:3 か月ごと(基準値を遵守している場合),基準を満たしていない場合は 1 か月ごと.
・ 標準透析液:毎月,少なくとも末端透析装置 1 基以上が試験され各装置が少なくとも年 1 回試験されるように装置を順番に測定する.
・ 超純粋透析液:透析装置製造業者によってバリデーションされた機器を使用する場合には,その使用基準に従う.さらにオンライン補充液を作製する透析液では ET,生菌はシステムが安定するまでは 2 週間ごと,透析機器安全管理委員会によってシステムが安定されたと判断された後は,毎月少なくとも末端透析装置1基以上が試験され各装置が少なくとも年 1 回試験されるように装置を順番に測定する.
・ オンライン補充液:透析装置製造業者によってバリデーションされた機器を使用し,その管理基準に従わなければならない.さらにオンライン補充液を作製する透析液は超純粋透析液基準に従う.
ET:オンライン補充液はシステムが安定するまでは 2 週間ごと,透析機器安全管理委員会によってシステムが安定されたと判断された後は毎月少なくとも末端透析装置のオンライン補充液が 1 基以上試験され各装置が少なくとも年 1 回試験されるように装置を順番に測定する.
生菌:10-6測定は不可能である.
こちらは測定頻度の項目です。
透析用水、つまりはRO水な訳ですが、こちらは3カ月に一度ですが、もし生菌やETが基準値を上回るようなことがあった場合、1カ月に一度になっているのに注意が必要です(基準を上回らなくとも、検出した時点で対策を講じ、翌月検査する施設もあると思います。筆者の1施設目がそうでした)。
また、計画的にすべてのコンソールが最低年に1回、水質検査を受けるように計画しなければなりません。
コンソールの買い替えなどを行った場合には、2週間後の検査を行い、その上で未検出の場合にオンライン補充液を用いることが出来る。とされています。注意が必要ですね。
1‒6.各透析液基準の適応される透析条件
・標準透析液
血液透析を行う場合の最低限の水質である.
・超純粋透析液
オンライン補充液を作製する透析液
逆濾過透析液を積極的に用いる透析装置(全自動透析装置など)
プッシュアンドプル HDF 透析装置
内部濾過促進型透析
基本的にすべての血液透析療法に推奨される.
・オンライン補充液
オンライン HDF/HF
こちらは治療に用いれる水質の条件を明示した項になっています。
明示されている通り、オンラインHDF/HFにはウルトラピュアしか用いてはいけませんし、理論的背景からも、ウルトラピュアが推奨されるとなっています。
1‒7.エンドトキシン捕捉フィルタ(Endotoxin retentivefilter:ETRF)管理基準
・ETRF は 2011 年版日本透析医学会「エンドトキシン捕捉フィルタ(ETRF)管理基準」に従う.
こちらはまた別記事でご紹介できればと思います。
1‒8.安全対策
透析液ならびに透析装置の管理は適切な管理マニュアルに基づいて行われなければならない.そのため医療機器安全管理責任者は自己の施設の透析装置のバリデーションを行う必要がある.その上で,以下の整備を行う(図 1).
1)透析教育修練カリキュラムの整備
2)透析液管理マニュアルの完備
3) 管理記録,測定記録を作成,診療録に準じて保管する.関係文書は作成の日から 3 年間または有効期間に加え 1 年間は保存されなければならない.
4) 透析装置および透析液水質管理のために医療機器安全管理責任者の下に透析機器安全管理委員会を設置し以下を行う.
・透析装置の管理計画を立て,適切な保守管理を実施し報告書を管理保管する.
・職員への適正使用のための研修会を開催する.
・関連医療情報の一元管理と使用者への周知徹底し,またアクシデント情報を管理者へ報告する.
5) オンライン補充液は透析液製造者によってバリデートされた装置においてのみ使用可能である.さらに上記委員会による安全性の保証の下で使用される必要がある.
安全対策の項では、自院でやるべき対策や勉強会の計画、作成した計画書の保存期間が示されています。保存期間は法令で3年、関連文書は4年となっています。そのことに注意していきたいところです。
化学的汚染基準
こちらは2016年版から新規追加された化学的汚染基準です。
こちらは新設された項目という事もあるのか、専門臨床工学技士の問題で頻出される項目なので細かく見ていきたいと思います。
まずこれらの基準が、ISO13959を根拠として設定されていることに注目です。
第1・2グループは毒性が報告、もしくは疑われている為に測定項目に加えられています。しかし、第3グループに関してはアメリカの法律が根拠でISOに載っているだけで、その化学的根拠は乏しく、そのほとんどがRO装置で阻止される為、10項目が測定項目から除外されています。
因みに、策定年は2004年です。最新版透析液用水ISOは2011年にISO23500が策定されていることにも注目です。
また、水道法では総塩素・カリウム基準値がありません。ISOでは基準が設定されていることが問題として出しやすいようですので、注意が必要です。
他の数値基準に関しては暗記するしかありません(そんな無茶な)。水道法は50項目、透析用水価額基準物質は22項目ということだけでも覚えておいて損はないかもしれません。
2‒2.化学的汚染物質の管理:透析用水作製装置設置時
1.供給水源(水道事業または専用水道)の公表値もしくは測定値を確認する.
2.原水の化学的汚染物質を測定し,水道水質基準に合致していることを確認する.
3.透析用水の化学的汚染物質を測定し,化学的汚染基準未満であることを確認する注 1).
4. 透析用水で化学的汚染基準以上の化学的汚染物質が検出された場合には透析用水作製装置の点検が必要であり,基準未満になるまで装置の再構成を検討する.
5. 透析用水の化学的汚染物質が化学的汚染基準未満であっても,原水注 2)の化学的汚染物質が化学的汚染基準以上の場合は,今後年 1 回程度,透析用水の当該化学的汚染物質の濃度を測定することが望まれる.
注 1) 化学的汚染物質の濃度が判明するまでに数日要することがあるため,透析機器安全管理委員会の管理の下に設置直後より装置の稼働は可能である.
注 2)補足表 1「水および機器・ユニットの管理基準」に該当する物質は除外する.
表2は2021年に出題されたことがあるので載せました。透析用水の水質項目はISOに則り12項目ですが、その前の供給水源は水道法に則り51項目になっていることに注意が必要です。また、原水は水道水基準にも拘らず12項目な点にも注意が必要です。ローカルかインターナショナルかの違いは大きいですね。
また、万が一透析用水が化学的汚染基準を上回る場合には、RO装置を疑うようにとも書かれています。
残留塩素濃度測定について
1.塩素濃度測定は総残留塩素(遊離塩素と結合塩素(クロラミン)の合計)測定を推奨する.
2.総残留塩素(総塩素)は 0.1 mg/L 未満
3.補足表 1「水および機器・ユニットの管理基準」を参考として管理を行う.
4. 災害時・緊急時には原水中の塩素濃度が上昇する可能性があるので,安定時における活性炭ろ過装置等の管理が必要である.
4.に関しては実際に、1996年の阪神淡路大震災で経験がある施設も多い事と思います。水道管の消毒の為に高濃度の次亜塩素酸ナトリウムが放流されたため、RO膜が使えなくなったと聞いています。その為、地震大国であるわが国では注意が必要なのです。
供給水源によってはアンモニア態窒素が含まれることがある.アンモニア態窒素と消毒用の遊離塩素が結合し結合塩素(クロラミン)が生成される.
ここも化学としては問題に出しやすいかもしれませんね。要注意です。
あとがき
中途半端と感じる記事構成かもしれませんが、今回はこの辺で(これ以上はあまりにも長くなって読むのも大変ですから・・・)。
今回は水質管理とそれに付随する残留塩素の項にて終了にさせていただきました。
次回はこれに関した装置の管理方法、その次はETRFの記事を執筆できればと思っています。
長丁場になりますが、どうかお付き合いいただければと思います。
ではでは~~
1)Henerson LW, Koch KM, Dinarello CA, Shaldon S: Hemodialysis hypotension : the interleukin-1 hypothesis. Blood Purif 1:3-8, 1983
2)Stenvinkel P : Inflammatory and atherosclerotic interactions in the depleted uremic patient. Blood Purif19:53-61, 2001
3)Baz M, Durand C, et al. Using ultrapure water in hemodialysis delays carpal tunnel syndrome. Int. J. Artif. Organs. 1991; 14: 681-685.
4)Schindler R, Beck W, Deppisch R, et al. Short bacterial DNA fragments: detection in dialysate and induction of cytokines. J. Am. Soc. Nephrol. 2004; 15: 3207-3214.
5)峰島 三千男 , 川西 秀樹 , 阿瀬 智暢 , 川崎 忠行, 友 雅司, 中元 秀友 ; 2016 年版 透析液水質基準 ; 透析会誌 49(11):697~725,2016
6)(公社)日本臨床工学技士会 透析液等安全委員会 ; 透析液清浄化ガイドライン Ver. 2.01
7)編著 公益社団法人日本臨床工学技士会 監修 一般社団法人日本透析医学会 ; 2016年版透析液水質基準達成のための手順書 Ver 1.01
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