さてさて、今回はちょいとマニアック?なアルブミンのお話。
少し前にX(旧Twitter)でも突っ込まれたので、記事にしてみようと思いました。
先日、第29回日本血液透析濾過医学会学術集会・総会に参加した際、この話題が頻出したという事も関係しています。
さてさて、前置きはこのくらいにしておきましょう。
では行きましょう。大切なアルブミンの世界へ
アルブミンの姿について
さてさて、透析診療でたびたび物議をかもすアルブミン。
その姿について今一度おさらいをしておきましょう。
分子量:66,000Da
構成要素:20種類のアミノ酸
血漿タンパク質の約60%をアルブミンが占めます。
血液に占めるアルブミンの割合
とても分かりやすい図を見つけたので引用したいともいます。
上記の図の通り、アルブミンは全体から見れでば極少量しか存在していません。
アルブミンの検査単位は「mg/dL」で表現されますし、実際に透析廃液でのカウントも「g」で表現されます。それくらい存在量は少ないのです。
アルブミンの生理的意義
アルブミンは全血漿蛋白質の50~60%を占める最も豊富なたんぱく質として存在しています。2)その為、電解質のNaと同様に浸透圧調節に重要な役割を果たしています。その浸透圧調節力は強力で、1gあたり20mLの水分を保持することが出来ます。この浸透圧のおかげで血管内ボリュームを維持することが出来るわけです。
アルブミンの働き
- 浸透圧の維持
浸透圧は、単位容積(たとえば1mm3)にある溶質(たとえばアルブミン)の個数によって決まります。溶質が小さければ小さいほど、またたくさんあればあるほど高い浸透圧が得られます。アルブミンは、主な血漿タンパク中最小で、最も多くありますので、浸透圧が最も強く出ます。アルブミンは1gで20mLの水を保つことができます。アルブミン製剤はいろいろな病態に適応されますが、それはアルブミンの浸透圧作用に基づくものです。アルブミンは、血液の膠質浸透圧〔こうしつしんとうあつ〕の維持に中心的な役割を担います。(膠質浸透圧の約80%を担います)1)
- 結合と運搬
血漿に存在する脂肪酸やビリルビン、無機イオンあるいは酸性薬物などの外来物質を吸着する(一方血漿中の塩基性薬物は主としてα1-酸性糖タンパク質と結合する)。低分子物質は、各種臓器に取り込まれて代謝・排泄されるが、アルブミンに結合した物質は臓器に取り込まれず、血中を循環することができる。薬剤の臓器移行性に大きな影響を及ぼす。ワルファリンやトルブタミドなどは特にアルブミンとの結合性が高く、これらと結合が競合するような薬剤を併用した場合、予想以上に組織中薬物濃度が上昇することが知られている。
この他のアルブミンの機能として
- pH緩衝作用
- 各組織へのアミノ酸供給
- 抗酸化作用
を有します。
本題:抗酸化作用について
ヒト血清アルブミン(以下、HSA)は健常人において、血清中の総HSAは70-80%は酸化を受けていない還元型HSAとして存在しています。一方,20~30%はCys34※が可逆的に酸化を受け,Cysやホモシステイン及びグルタチオン等のチオール基を有する小分子と共有結合した状態にあります。さらに,約5%程度はCys34が不可逆的に酸化を受けたスルフォン酸及びスルフィン酸として存在しています。
※HSAは585個のアミノ酸から成る糖鎖を有さない単純蛋白質であり,分子内に17個のジスルフィド結合を有HSAがします。有する35個のシステイン残基の中でも,唯一遊離型のチオール基を有するCys34は,HSAの抗酸化機能の主な活性部位であると考えられています。
さらに,約5%程度はCys34が不可逆的に酸化を受けたスルフォン酸及びスルフィン酸として存在しています。
では透析患者ではどうなのか?
透析患者は常日頃から様々な酸化ストレスや炎症に晒されています。
さて、ではこの酸化ストレスに対して、人体はどのように反応するのでしょうか。
Terawakiら3)は腎不全患者のHSAの状態を評価する中で、CCrの増加と酸化型HSAが相関することを発見しました。酸化する機序は未だ不明確な点や意見が分かれることが多いようですが、透析前の腎不全患者では心血管イベント(以後、CVD)が健常者と比して高い事、そして抗酸化治療を行うことでこれらが下がることを実証しており、これらの結果から、酸化型HSAは腎不全の進行やCVDの悪化に寄与しているものであり、将来的に透析導入を防ぐための抗酸化治療が推奨される。と締めくくっています。
血液透析において、Albの漏出というのは賛成派・反対派と意見の分かれるところであり、また漏出を許すにしても、では何gの漏出ならいいのか?など、分派してしまうのが実情だと思います。
上記の記事でも解説していますが、Albの漏出量というのTMPに依存するところがあります。また、前後どちらの希釈方法によってかも、漏出具合が変わってきます。
α1,β2ーMGの除去も必要ですが、この記事での本題は還元型・酸化型Albの漏出の是非に関してです。
しかし、今のところ漏出したAlbが還元型か、酸化型かを見分ける方法はありません(参考文献4ではESI-TOFMS法という方法を用いていますが、一般的ではないようです。少なくともJSHDF総会での発表では、現時点で見分ける方法はない。ということでした)。
これをもってしてAlbの漏出を是とする事
さて、この結論を用いてAlbの漏出を是としていいのでしょうか。
それに関しては一定の課題をクリアするべきだと筆者は考えます。
まずは漏出するAlbの種類についての鑑別が必要であると考えます。酸化型Albが漏出することが本当に有意差を付けて予後を伸ばすのかも明確にさせる必要があるでしょう。
となれば、どのように選択的に漏出させるべきなのか?などまで考える必要があると思います。
その為、この結論を用いてAlbの漏出を是とするのは些か早計である。というのが持論です。
あとがき
今回はAlbの還元型・酸化型について解説してみました。
色々と調べた結果として、酸化型Albは下げるに越したことはない。というものでした。しかし、還元型も同時に漏出してしまう危険があるため、漏出の是非に関しては皆さんに委ねるという形を取らせていただきました。
今一度皆さんの施設でもAlb漏出の是非について議論してみてはいかがでしょうか。
それでは、今回はこの辺にしたいと思います。
お疲れ様でした~。
1)血液製剤について , 日本血液製剤協会
2)寺脇 博之 , 柳沼 善樹 , アルブミン/標準化蛋白異化率(nPCR)/Kt/Vの解説&患者指導 ,透析ケア 2022 vol.28 no.7
3)Terawaki H, Yoshimura K, Hasegawa T, et al. Oxidative stress is enhanced in correlation with renal dysfunction: Examination with the redox state of albumin. Kidney Int. 2004;66:1988–1993.
4)渡邊博志,今福匡司,丸山 徹 ; 酸化ストレス関連疾患における酸化型・還元型アルブミンモニタリングと臨床的有用性 ; Proteome Letters 2019;4:9-17 Doi:10.14889/jpros.4.1_9
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