おはこんばんちはなら
さてさて、透析の効率については述べた当ブログですが、栄養という名の効率にはスポットを当てていませんでした。
という訳で、今回はその栄養の指標となるnPCR , %CGR , GNRIについて、解説していこうと思います。
筆者も今の職場でデータ管理をするようになり、少しばかり知識の整理が必要かもしれないと感じた次第です。
ではいきましょう。ようこそ栄養の世界へ。
nPCRとは?
さて、初めはnPCRのお話から始めたいと思います。
nPCRとは
normalized Protein Catabolic Rate [g/day/kg]:単位体重当たりの標準化蛋白異化率
と訳されます。
何言ってんねんこいつ?となりますよね。
つまるところ、n-PCRとは、「どれだけタンパク質を摂取し、それをどれだけ代謝出来たか。」という指標です。
nPCRの歴史
ここで昔話を少し。
1980年代初め、全米で透析に関する大規模介入研究が行われました。その研究はNCDS :National Co-operative Dialysis Study と言われるものです。
この研究から判明したのが、上記でも説明した「タンパク質の摂取量に見合ったタンパク質が代謝されて、尿素が生成され、この尿素を除去する事によって、患者はまた同量のタンパク質を摂取できる。」事でした。
つまり、食べるためには十分なBUNの除去が必要になる訳です。
NCDSの結果から、nPCRは尿素の生成速度とは正の相関を示すことが証明されました。
元論文はお馴染みPub Medから閲覧が可能です。が、あまりにも古いため、直接pdfでの閲覧となってしまいます。翻訳は骨の折れる作業ですね。
nPCRの求め方
さて、n-PCRは日本語で「単位体重当たりの標準タンパク質異化率」と言いました。単位は[g/day/kg]です。これは、単位体重当たり、1日に何gのタンパク質を異化(代謝)したかを説明しています。
求め方の前に小言を
求め方はというのは結構シンプル…かと思いきや、めちゃくちゃ面倒臭いです。
これを手計算でやろうとしても無理があります。
実は昔、これをExcelの計算でやろう!とした方が居ました。しかし、関数で行うと日本透析医学会の統計調査で出される結果と大きな誤差が生じる事態が発生した模様。
これは、手入力による関数式か、VBAを組んで行うかによる有効数字の誤差が関係しているのかもしれません。
その為、その方のブログでは「nPCRを求めるには、一番は透析医学会の統計調査シートを使うのが正確」と締めくくっていました。
なるほどな~…と思った次第です。
もしVBAやPythonを組める方がいれば、勉強がてら取り組んでみるのも一興かもしれません。
n-PCRの計算式
では本題、計算式に移りましょう。
$$nPCR=\frac{PCR}{BW}$$
となります。単位体重当たりですからこうなりますね。
では次、PCRの求め方です。
$$PCR=(G+1.2) \times 9.35(g/day)$$
Gは尿素の産生速度です。そこに係数を掛けます。そして1日当たりのタンパク質摂取量?を掛けます。
最後にG:尿素産生速度 の求め方
$$G=(BUN next pre – BUN post)×(\frac{V}{\Delta t})$$
となります。
ここでBUNnext preは次回透析時の透析前BUN濃度、BUNpostは現在の透析後BUN濃度です。Vは体液量、Δtは次回までの透析時間=尿素の産生時間になります。
体液量に関しては、身長HT(cm)を用いて肥満・るいそうの別を考慮した相関式が存在します。
$$男性:V=-14249+196.78HT+295.71BW$$
$$女性:V=-9926+170.03HT+213.71BW$$
これでnPCRを求めることが出来ます。
ただ、元論文にある式ではKt/Vが出てきたり、自然対数が出てきたりとややこしく、また何だか式が違う?ので、恐らく現代の計算式はだいぶ改良された公式なんだろうな~と思っています。
血液浄化療法ハンドブックにもPCRの項はあるのですが、とても短く終わってしまっています。
基準値は?
さて、ここまでnPCRの事を話してきましたが、では活用するための基準値はいくらに設定され、基準値を外れることは何を意味するのでしょか。それが以下になります。
$$基準値:0.9~1.2[g/day/kg]$$
です。基準値内にあるということは、十分量のタンパク質を摂取している。という目安になります。
では基準を外れるとどうなのか?
上限値以上
十二分のタンパク質を摂取していることになります。
BUNやリンの値が高すぎないかをしっかり見守る必要があります。
下限値以下
タンパク質の摂取量が不足している事を示します。
この場合、アルブミンやリンなどを確認するとともに、炎症の有無、透析不足の有無を確認する必要があります。
炎症が存在すると、肝臓でのタンパク合成が減少するため、代謝能が落ちてしまいます。代謝能が落ちることで産生速度も落ちるため、BUNは減少し、結果としてnPCRは低く現れます。
また、透析後BUNが高い状態でも代謝サイクルが維持されないため、透析不足と判断されます。このため、Kt/Vはそれなりに高く維持する必要があるのです。
臨床に活かす
今回は栄養効率に関する記事を書いてみたわけなので、読者の皆様には是非ともこの検査値を基に、患者への栄養指導に活かして頂きたいと思います。
特に、管理栄養士の方々が訪問している透析室に関しては、是非ともDiscussionの材料としていただきたいと思います。
あとがき
今回は栄養の指標の一つ、「nPCR : 標準タンパク質異化率」について書いてみました。
ここ数年、サルコペニア・フレイルについての理解が進む透析医療・高齢者医療ですが、その診療に当たり、何を指標とすればいいのか?は悩みどころです。
その指標の一つとして今回のn-PCRがある訳です。
他にも%CGR(クレアチニンインデックス)、GNRI : Geriatric Nutritional Risk Indexが透析医療での代表的な指標としてありますので、続けて記事の執筆を出来ればと思います。この後もお付き合いいただければと思います。
さ、では長々とお付き合いいただきありがとうございました。
ではまた~
1)FRANK A. GOTCH and JOHN A. SARGENT ; A mechanistic analysis of the National Cooperative Dialysis Study (NCDS) ; Kidney International, Vol. 28 (1985), pp. 526—534
コメント