HDFにおける至適な置換量とは?

栄養関係

 

おはこんばんちわなら

 さて、つい先日X(旧Twitter)上で、若干ですがOHDFに対する至適置換量はいくらなのか?という話題が上がりました。

 エビデンスというものは薄弱な話題です。なので、筆者の主観も大いに入ってしまう記事となることをご承知おきください。

 では行きましょう、HDFの世界へようこそ。

まずHDFがどういうものなのかを理解する

 さて、まずは基礎の基にあたるお話をしようと思います。

 こちらの記事でも解説していますので、ご興味のある方は一度ご参照ください。

 HDFは血液透析:HDと血液ろ過:HFの合わせ技です。上記の記事でも説明していますが、HD/HFはそれぞれターゲットとする尿毒症性物質が違います。

 上記の図はよく用いられる除去される分子量とクリアランスの関係を表した図です。

 HDは小分子量物質の除去効率がとてもよく、逆に大分子量物質の除去は不得手とします。除去効率を上げるには、血流量を増やす。そして次に透析液流量を増やすという順番になります。

 HFはHDとは逆で、大分子量物質のクリアランスには優れますが、小分子量物質のクリアランスはHDには及びません。但し、置換液量を増やすことで、小分子量クリアランスを底上げすることは可能です。

 ではHDFはどうなのか??それが上記の図に破線で描かれているクリアランス曲線になります。小分子量~大分子量までを満遍なく除去する事が出来、置換量を増やすことでそのクリアランスを底上げすることが可能です。

HDFの置換方法

 HDFの置換方法には3種類あります。

  • 前希釈On-Line HDF(pre-OHDF)
  • 後希釈On-Line or Off-Line HDF(Post OHDF)
  • 間歇補液HDF(iHDF)

 2022年末現在、最も行われている治療法はPreOHDF、その次にiHDF、そして極端に少ないのがPost OHDFになります。

前希釈オンライン血液透析濾過

Pre-OHDFの実施図は下記のようになります。

 

 この図では、Aチャンバー直上から透析液を置換しています。これが前希釈と言われる所以です。希釈された血液から、補液した分の水分+本来の目的である除水分の血漿成分が濾過され、ヘモダイアフィルターを通過後は、通常のHt値を呈する血液として人体へ回収されます。

後希釈オンライン血液透析濾過

 では続いてPost-OHDFの実施図です。

 こちらは先ほどとは逆であるVチャンバーからの置換になります。ヘモダイアフィルター内を未希釈の血液が通過、濃縮しきった血液に対して置換する形になります。濃縮しきった血液に対して置換するので、血液の組成は通常のボリュームとなります。ヘモダイアフィルター通過直後はHt値は高値を呈する事でしょう(そんな血液を採血したことはないのであくまで推測です。まぁ自明でしょうけど)。

間歇補液血液透析濾過

 最後にiHDF : 間歇補液血液透析濾過 の説明です。

 iHDFの基本は、30分毎に50~200mL/sessionの補液を行うというものです。
 ひとつはPre-OHDFの様な回路構成において、間歇的=数十分に一回の頻度で補液を行う方法です。回路図は前述の通りなので省略させてください。

 この方式でのiHDFが可能なメーカーは日機装、ニプロの2社です

 もう一つは逆濾過補液で補液を行う方法です。

 これはヘモダイアフィルターを介して置換を行います。

 この方式は、ダブルチャンバ方式と呼ばれる透析液ポンプを搭載した機種のみで可能です。チャンバ内には常に片側に新鮮透析液が充填される為、その透析液を用いてヘモダイアフィルターへ逆濾過補液を送り出します。

 廃液側を完全に締め切ることで、ヘモダイアフィルターの中空糸に圧力を掛け、逆濾過を起こし血液側に透析液を補充するという方式です。

 今現在、日本で逆濾過補液のiHDFが行えるのは東レとJMSの2社です。

置換方法による置換量の差異

 HDFには3種類の実施法があることは先述した通りです。ではなぜそのような違いがあるのでしょうか?

 それはずばり、目的とする除去物質の分子量にあります。

 前希釈の場合、置換量により除去物質の除去量をコントロールします。多くの置換量を用いることでα1-ミクログロブリン、β2-ミクログロブリンの除去量を上げることが可能です。但し、これら中大分子量物質は小分子量タンパク質であるアルブミン近傍の分子量であるため、必然的にアルブミンの漏出量も増加することになります。その点に注視する必要があります。

 後希釈の場合、ヘモダイアフィルター内の血液は希釈される事なく通過します。つまり、血漿中の水分は除水量以上に限外濾過を受けることになります。これは血漿中の様々な分子量領域に対し、問答無用で濾過圧を掛ける事になるので、とても強力に除去を行えることになります。但し、濾過の掛け過ぎは過濃縮を引き起こす為、回路内凝固のリスクと隣り合わせだということを意識する必要があります。この回路内凝固を回避するために、Qb:300mL/minなどの高速な血流量が必要になるのです※1(当院の看護師はここが理解できていない為、とても苦労しています)。
 置換量に関しては、直接血漿を濾過するため前希釈に比べて少ない置換量で済ませることが出来、経済的であるという側面が存在します。しかし、日本人の体格でQB : 300mL/minの達成は難しい(と思われている)為、後希釈OHDFが普及しない理由となっています。

※1:回路内凝固を避けるために高速な流量が必要な理由ですが、これはヘモダイアフィルター内に血液が滞留する時間を短縮することを目的としています。200mL/minなどのトロトロとした勢いでは、その間に血漿成分が限外濾過を受けすぎてカラカラになってしまいます。その為、回路内凝固が発生してしまうのです。しかし、1.5倍速である300mL/minであれば、時間当たりに受ける限外濾過量も少なく済むため、回路内凝固を予防できる。というわけです。

ex)東レ社製ヘモダイアフィルター NVF-21Pの場合

$$フィルター血液充填量:130mL$$

$$QB:200mL/min→3.33mL/s$$

$$\frac{130mL}{3.33\frac{mL}{s}}≒39sec$$


つまり、一本のヘモダイアフィルターを通過するのにQB:200mL/minでは39秒かかります。
  しかし、QB : 300mL/minでは?

$$QB:300mL/min→5.0mL/s$$

$$\frac{130mL}{5.0 \frac{mL}{s}}≒26s$$


なんと!!26秒で通過出来てしまうんですね。13秒も違います。

 また、血漿成分量に対する濾過量と割合も考えましょう。

ex2)Post-OHDF 12L/session , QB : 200mL/min , UFR : 0mL/H の症例です。

$$12L/4H → 50mL/min$$

 200mL/minの血液中、血漿成分は約55%,110mLとなります。
 では一体何割が限外濾過されることになるでしょうか。単純に引き算なので残りは60mLとなります。これは

$$\frac{50}{110}≒45%$$

 つまり、45%もの限外濾過を受けてしまうのです。一般的に限外濾過率が30%を超えると凝固が起きるとされています。これは由々しき事態です。
 ではQB : 300mL/minの場合はどうでしょうか?300mL中、血漿成分は55%=165mLとなります。

$$\frac{50}{165}≒30%$$

 これで漸く過凝固を阻止できるラインである30%に到達しました。

 これらをもって高速な血流量が必要な理由がお分かりいただけたでしょうか??

 もし分からん!!という方が居ればコメントや問い合わせを下されば対応いたします。

では、最後に間歇補液血液透析濾過の置換量についてです。

 この治療法が登場した当初、補液量は200mL/sessionなため、1回のiHDFで可能な置換量は1.4L程度でした。しかし、研究が進むにつれて、どのような背景の患者に適応があるのか。どのような合併症があれば、補液量はいくらになるのか。などの理解が進みました。

 今現在は理解が進み、50mL/sessionからスタートすることが多く、極々少量置換のHDFとして機能しています。
 iHDFの効果は、先述した2方式とは違い、循環動態の維持や血圧低下の予防に焦点が当てられており、中大分子量の除去をメインとした療法ではない事に注意が必要です。

では置換量はどう決まればいいのか?

 ようやく今回の本題である置換量の話題へ駒を進めることが出来ました。

 巻頭でも述べた通り、置換量に対するエビデンスはとても薄弱なものです。その理由としては、組まれたRCT:ランダム化無作為試験が1報しかないことにあります。

 それが最近透析界隈を賑わかしている「CONVINCE Study」です。

 これについての(雑な)翻訳記事は当ブログでも掲載しているので、お時間のある方は一度ご覧ください。

 さて、この研究ではHDとHDFのどちらが予後がいいか。そしてHDFでは少量置換と大量置換のどちらが予後を伸ばすのかについての検討がなされました。

 結果として、最も予後を伸ばしたのは大量置換Post-HDFという事でありました。その置換量、なんと24L以上。驚異的な置換量です。

 日本でも後ろ向き研究でHDFに関して論文が発表されています。

 さて、この結果から導かれた補液量として、指標が3つ発表されました。

  • 体表面積より推測する方法 : 33.3 L/m2 (95% CI: 27.0 ~ 41.0 L/m2)
  • BMIより推測する方法 : 2.4 L/kg/m2 (95% CI: 1.95 ~ 2.85 L/kg/m2)
  • 体重より推測する方法:0.85 L/kg (95%CI: 0.77 ~ 0.97 L/m2/ kg)

これらを指標に置換量を決めるのがいいのではないか。という話です。下記の図はその置換量を推定するのに用いられたHR比です。

 漠然と補液量を40L以上であればいいのではないか?と考えている施設が多いのではないでしょうか。

 しかし、一つ道標が示された事で、治療方針が立てやすくなったのではないでしょうか。

 これが今回のテーマとなった至適置換量についてです。

 これらを用いてOHDFを実施するのも一つの考えではないでしょうか。

あとがき

 今回は若干問題のあるリプに巻き込まれたことから書くこととなった、HDFにおける至適置換量問題に関して、一つの答えを示させていただきました。

 筆者の施設ではなんちゃってHDFが多いため、至適置換量からは大きくズレた少量置換が設定されています。

 今はこれを是正すべく、色々な資料や勉強会等に参加し、レポートの提出をしている最中です。

 目指すは透析室の健全な運営と経営です。Let’s ReBuild!!

 とまぁまた透析室をオーバーホールしないように注意しながら仕事に取り組んでいる最中です。

 さ、では今回はこの辺で。

 ではまた~

Bitly

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