筆者の施設では、透析室だけが異様にインシデントレポートの数が多い。という特異な事態になっています。
さて、ではそもそもインシデントレポートとはなんなのか?もとい、医療安全って何?という根本的な問いかけが発生します。
そんな命題と、インシデント・アクシデントが発生した際に活躍する原因分析ツールについてご紹介したいと思います。
筆者は医療安全は門外漢です。なので、きっとレジェンドのあの人が出てきてくれる・・・!!!と期待しながら記事を進めようと思います。
では行きましょう。医療安全とRCA分析の世界へようこそ。
- 医療安全とは?
- 医療安全の歴史ー切っ掛けとなった医療事故と刑事事件ー
- インシデント・アクシデントレポートとは
- 解析手法ーその原因を探るー
- RCA( Root Cause Analysis ):根本原因分析
- ImSAFER(アイエム セーファー) (Improvement SAFER)
- P-mSHELLモデル
- 4m4e手法
- VA RCA (VA NCPS(Veterans Affairs National Center of Patient Safety) – RCA)
- VTA (Variation Tree Analysis)
- JHPES (Japanese version of Human):Japanese version of Human Performance Enhance System
- FTA (Fault Tree Analysis)
- TapRoot
- あとがき
医療安全とは?
そもそも医療安全とはなんなのか?という問いかけです。
Google検索を掛けた際、Google AIによれば、【医療安全文化とは、「医療に従事する全ての職員が、患者さんの安全を最優先に考え、その実現を目指す態度や考え方、およびそれを可能にする組織のあり方」と定義されています】と出てきます。
ソースとしては日本医療機能評価機構がこのような定義を出しているようですね。
医療安全の歴史ー切っ掛けとなった医療事故と刑事事件ー
日本における医療安全の歴史はそれほど古くはありません。
- 1999年1月:横浜市立大学事件
・肺手術と心臓手術の患者を取り違えて手術。この事件を契機に医療安全についての社会的関心が高まる。(その後、医師4名と看護師2名が業務上過失傷害容疑で起訴された。) - 同年2月:都立広尾病院事件
・看護師が消毒液とヘパリン加生理食塩水を取り違えて静脈内に投与し、患者が死亡。この事件等を契機に医療事故の警察への届出が増加。(その後、医師が医師法21条違反容疑で起訴される等した。)
この2大刑事事件が、日本では実にセンセーショナルに報道されました。その結果は簡単です。日本中の医療不信を招きました。今となっては、安全工学上、これら事案(Incidents)が発生した際に警察が介入することは悪手であること以外の何物でもないのは周知の事実です。
そして、それに呼応する形で、厚生労働大臣から特定機能病院や各医療団体へ向けたメッセージが発布されることになります。これら一連の行動を指して「医療安全元年」とも呼びます。
その後、国を挙げた医療安全の取り組みが始まります。
- 2001年3月:「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動(Patient Safety Action。PSAと略す。)」を厚生労働省が定めます。
- 2001年4月:医療安全推進室の設置
- 2001年5月:医療安全対策検討会議の発足
- 2001年6月:ヒューマンエラー部会及び医薬品・医療用具等対策部会の設置
- 2001年10月:医療安全対策ネットワーク整備事業(ヒヤリ・ハット事例収集等事業)開始
と、物凄いスピード感を伴って厚生労働省は働きかけます。これだけのことが1年以内に立ち上がるのはとても迫力のある事だと思います。
この後も、国は立て続けに医療安全に関する対策室や制度、医療法上の改正などに奔走します。
しかし、そんな中、またしても医療の安全・信頼を脅かす事件が発生します。
- 2006年2月:福島県立大野病院事件
・帝王切開中の出血により妊婦が死亡(平成16年12月)した事例において、産科医が業務上過失致死・医師法第21条違反容疑で逮捕。(その後、起訴され、平成20年9月の地裁判決が確定。)
この事件も、マスコミは実にセンセーショナルに報じます。そして先述した通り、地裁判決が確定。その後に起こったのは全国的な産科医療の縮退でありました。この事件に関しては福島県立大野病院事件としてwikipediaにも掲載されている為、詳細は割愛します。
これを契機に、産科医療補償制度などの制度も発足します(2009年)。
そしてこれら制度などが発足して約15年余りたった今では、病院には当たり前のように医療安全管理委員会や医療安全管理責任者がおかれるようになったのです。
2024年は医療安全元年から数えて四半世紀という年になる訳ですね。
さて、医療安全の歴史編はここら辺で終わりにしましょう。
インシデント・アクシデントレポートとは
さて、今では当然となったインシデント・アクシデントレポートという制度。しかし、ほとんどの施設では懲罰的な意味合いが未だに根強いのではないでしょうか。当院でも同じく懲罰的な意味合いが強く、とても残念且つ嫌な感じです。
では本来の目的はどういったものなのでしょうか?
実はインシデントレポートの内容や目的って、厚生労働省に公式にUPされているんです。それがこちら。さすがは国の機関です。
というわけで、インシデントレポートの定義は以下の通りです。
インシデントレポートは事故当事者の個人的責任を追及するのもではなく、収集した情報を分析し、医療事故防止の改善策を検討し実施する目的に使用する
というのが本来のインシデントレポートの在り方です。インシデントレポートは発見者が当事者などに聞き取りをし、状況を整理し、そして報告書として病院に上げるのが本来の役割です。
しかし、ほとんどの施設では、発見者ではなく当事者が書くシステムになっていると思われます。
反省や振り返りは必要ですが、懲罰的意味合いは実に残念なシステムと言わざるを得ませんね。
解析手法ーその原因を探るー
事故(Accident)や事案(Incident)には必ず何かしらの原因があります。
その原因を炙り出し、そしてそれに対して対策を行い、今後同じようなAccidentやIncidentを起こさないようにする。というのが医療安全です。
ではその解析手法にはどのようなものがあるのでしょうか。それをご紹介します。
RCA( Root Cause Analysis ):根本原因分析
インシデントやアクシデントの根本原因を分析して再発を防止することを目的としており、医療安全においてポピュラーな分析方法です。但し、これは1手法を指すのではなく、原因解析全般を指す言葉です。RCAとは、表層的なヒューマンエラーだけでなく、その背後に潜む環境・システム要因等をきちんと探ったうえで対策を講じる、分析手法の総称のこと。
定義としては
事故などのある出来事が発生した際に、その根本的な原因、背後要因・寄与因子を同定し、その根本的な原因、背後要因 寄与因子を同定し、対策を立案・実施して、同様の出来事が発生することを予防するプロセスの総称である」とを予防するプロセスの総称である
自治医科大学医学部メディカルシミュレーションセンターセンター長医療安全学教授 河野龍太郎
ImSAFER(アイエム セーファー) (Improvement SAFER)
ヒューマンファクター工学に基づいて医療現場で発生するインシデント・アクシデント事象を分析する手法です。Medical SAFER を拡張し、「なぜなぜ分析」、VA-RACAの考え方を含んだものに改良。体系的なヒューマンエラー事象分析方法。原因追究と対策立案を支援するだけ。見方・考え方を理解していないと失敗する。医療現場で利用することを主目的としたもの。分析手法を手順化。目的に応じた分析レベル。
P-mSHELLモデル
P-mSHELLモデルは、SHELLモデルに「P(Paitient:患者)」「M(Management:管理)」を加えた医療に特化した分析方法で、複数の分析手法を組み合わせることでインシデントを多角的に理解し、改善策を策定することができます。
4m4e手法
事故の具体的な要因と対応策をマトリックス表に示す手法です
VA RCA (VA NCPS(Veterans Affairs National Center of Patient Safety) – RCA)
米国退役軍人病院(VA)の患者安全センタ(NCPS)で開発された手法・出来事流れ図を作成し、出来事背後を「なぜ?な出来事流れ図を作成し、出来事背後を なぜ?なぜ?」と掘り下げていく。この作業を進める手助けとして、RCA質問カードを用いるのが特徴です。
VTA (Variation Tree Analysis)
ラプラスとJ.ラスムッセンが最初に提唱した分析手法。事象の連鎖のなかで正常状態からのvariation(変事象の連鎖のなかで正常状態からのvariation(変化)に着目して分析。日本では最初、建設業界で普及しました。宇宙開発事業団(NASDA)(現在のJAXA)でもヒューマンエラー分析に利用。背後要因はm-SHELを利用して探る。
JHPES (Japanese version of Human):Japanese version of Human Performance Enhance System
米国の原子力発電運転協会が開発したHPESを(財)電力中央研究所が日本の原子力発電所の実情に合わせて開発。 ①事象の把握、②状況分析、③原因分析、④対策立案の順で分析。分析のためのフレームがあり、それに基づく緻密なヒューマンファクターの分析が特徴。
FTA (Fault Tree Analysis)
もともとは宇宙ロケットの安全性解析のために開発された分析手法。ヒューマンエラー分析の応用としては関西電力(株)のものがある。定式化されたFT(faulttree)図に、抽出された問題点を記載しながら、要因を探るのが特徴。防止対策は、エラープルーフの原則に基づいて発想し、効果やコストなどで総合的な評価を行い決定。
TapRoot
元デュポン社の事故調査担当のM. ラディが改良を続けている分析手法。時系列の事象関連図を作成。Yes/No形式の質問で事故要因を特定し、調査員の違いやあいまいさを排除することが試みられている。データベースを前提とした分析手法データベースを前提とした分析手法。
と、探せば結構キリがない状態となりました。ので、ここで終わりにしたいと思います。
あとがき
今回はさらっと医療安全とは何か?そしてその原因分析にはどのような手法があるのか?について、色々とご紹介してみました。
職場で「RCA分析するから!」とか言われたので調べましたけど、「これ、余計わかんないやつじゃん・・・」となった感じです。
足並み揃えるどころか、ぐっちゃぐちゃになるやつだなーとか思いながら書きました。
もし次回医療安全について書くとなれば、各分析手法について、になりそうですが…これは骨が折れるぞ・・・
さ、では今回はこの辺で。
ばいちゃ~~
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