アルブミンは透析での栄養指標になりえるのかーその是非を問うー

栄養関係

 さてさて、今回は久しぶりに栄養関連の記事を執筆しようと思います。

 筆者の施設では、毎月第一回採血をした翌週に、技士だけで透析条件を考えるプチカンファ的なことをしています。

 ただこのプチカンファ、カンファと言うなの上司のおもちゃとかしていて、まず意見は通りません。

 挙句、「この人アルブミン3.3mg/dLもありますし、OHDFに変えませんか?」と発言しても、「いやーアルブミン低いしな。それはないわー。」という始末。あまりにも知識が無さ過ぎますね。

 でもまず、本当に当人たちの主張が正しいのか?という部分にスポットライトを当てていこうかとも思います。

 では行きましょう。いざ、アルブミンの世界へ!!

そもそもアルブミンの生理学上の役割は?

 さて、実はこのタイトルに関する記事、前にも書いているんですね。

 それは以下の記事です。

 まぁこの記事内でも散々書いてはいるんですが、アルブミンというのは膠質浸透圧の維持や物質の運搬に一役買っている血漿タンパク質になります。

 その生理学的生産周期は約17~20日とされている為、採血日から約20日前の体内の状態を推察する…とでもいいましょか。少なくとも、炎症(風邪やケガ)などのイベントがあったからと言って、すぐさまに下がる訳ではありません。

 で、酸化型還元型sAlbの是非に話は移りますが、酸化型Albが人体にとって有害である。というのは既知の事実です。が、これが漏出しているのか、それとも還元型が漏出しているのかを見分ける方法は、2024年現在存在しません。してもコストも掛かることでしょう。

ではアルブミン値が低いの事の弊害は?

 上でも説明した通り、Albは膠質浸透圧の維持物質です。

 膠質浸透圧についてはつい先日解説しましたので、詳細はそちらに譲りたいと思います。

 で、記事中では紹介し忘れているのです(本当は別記事にしようと思ってました)が、Albをはじめとする膠質浸透圧物質が減少すると、末梢血管での諸々の物質交換が出来なくなってしまいます。

 なぜ出来なくなるのかというのは簡単で、血中の膠質浸透圧が減少するために、血管外(間質や細胞内)へ水分や栄養素などが漏れ出てしまうからです。水分などが動脈側で間質や細胞内へ取られても、静脈側の膠質浸透圧が低いために、間質から水分などを押し戻す仕事が出来なくなり、結果として浮腫を来たします。なので、低アルブミン血症の患者というのは概して浮腫が凄いのです。

 簡単に説明してしまいましたが、Albが低値であることの主だった弊害は以上です。

本題:透析において、アルブミンは栄養状態の指標となり得るのか。

 さて、本題はここからです。

 恐らく筆者以外に施設でも、アルブミンをある程度の栄養指標として見ている施設は多いのではないでしょうか。

 確かに、健常人と透析患者ではアルブミンの考え方・正常値は異なります。

 ナース専科のページにも記述がある通り、ほんの10年前までは3.5mg/dLを切る場合、死亡率は上昇する。という研究結果があったのも事実です。

 しかし、OHDFが普及し、そして後期高齢者が増加したことも一因としてでしょう。JRDAでのアルブミン値というのは年々減少傾向にあるようです(いずれ下げ止まりはするでしょうが)。

 透析患者のアルブミン測定は、基本的に透析前を基準とします。その値が生活を送っている際の値だということですからね。

 しかし、ここで留意しなければならないのは、透析患者の前データというのは、体液が希釈された、つまりは低く出る値だということです。なら後データでアルブミンを見ればいいではないか。ともなりそうですが、まぁそこは置いておきましょう(除水残りや不適切DWなど、要因は様々です)。

 そして希釈されたアルブミンは、健常人や腎不全・心不全患者以外の疾患患者では当てにならない。ということがすでに2011年にエビデンスとして報告されています。

Evidence that albumin is not a suitable marker of body composition-related nutritional status in elderly patients( PMID: 20418059

 上記の論文では、強烈に最初の一語で「Evidence」とう単語が使われていますね。では内容を見てみましょう。

Evidence that albumin is not a suitable marker of body composition-related nutritional status in elderly patients ver . Chat-GPT 3.0

 さて、この論文をChat-GPT 3.5で要約解説して頂きました。内容としてはこのようになっています。

アルブミンの血中濃度はしばしば栄養状態の指標として使用されますが、高齢者、特に慢性疾患や虚弱を抱える患者において、アルブミンだけで栄養状態や体組成を正確に反映することは困難です。以下の理由から、高齢者患者においてアルブミンは適切な指標ではないと言えます。

1. **炎症**: アルブミンは負の急性相タンパク質であり、炎症や感染があるとその濃度は低下します。高齢者は年齢に伴う免疫機能の低下や慢性疾患、さらには薬剤の影響で慢性的な炎症を経験することが多いため、実際には栄養状態が良好であってもアルブミンの値が低くなることがあります。

2. **体液貯留**: 特に心不全や腎疾患を持つ高齢者は体液貯留が起こりやすく、これにより血中のアルブミン濃度が希釈されることがあります。その結果、栄養不良や体組成の変化があってもアルブミン濃度が正常範囲内に見えることがあります。

3. **筋肉量**: アルブミンは主に肝臓で合成され、半減期は約20日です。アルブミンは筋肉量を直接反映するものではありません。高齢者は加齢に伴い筋肉量が減少する傾向があり(サルコペニア)、アルブミン濃度が正常範囲内であっても、実際には筋肉量が低下している可能性があります。このため、アルブミンだけでは筋肉関連の栄養状態を評価するには不十分です。

4. **他の栄養指標**: アルブミンはよく使用される指標の一つですが、栄養状態を評価するためには他の指標も考慮する必要があります。例えば、半減期が短く、栄養状態の変化により速く反応するプレアルブミン(トランスサイレチン)などです。また、体組成や栄養状態をより直接的に評価するために、BMI(体格指数)、生体インピーダンス分析(BIA)、二重エネルギーX線吸収法(DEXA)などの指標が用いられます。

5. **機能的状態**: 高齢者患者においては、機能的状態と全体的な健康状態が栄養健康の重要な指標となります。日常生活動作(ADLs)、握力、移動能力などを評価することにより、栄養指標と併せて高齢者患者の栄養状態を総合的に把握することができます。

結論として、アルブミン濃度は栄養状態を示す一つの指標として有用ですが、高齢者患者においては慎重に解釈する必要があり、他の評価方法を併用することで、より包括的な栄養状態と体組成の評価が可能となります。

 と締めくくられています。

では何を以って栄養状態を評価すればいいのか

 さて、「こんなこと言われても、これまでアルブミンを頼りに透析してきたのに、どうすればいいんだ!!」と思われる方や初学者の方も多いことでしょう。

 ではどうすればいいのでしょうか。

 そこで開発されたのが「NRI-JH」です。

 このNRI-JHについても、漏れずに記事にしているので、ご興味のある方はご参照ください。

 NRI-JHは日本透析医学会栄養ワーキンググループにより開発された指標で、この指標は1年間の短期生命予後を表します。

 評価項目は「アルブミン値」「血清クレアチニン値」「総コレステロール値」「BMI」となっています。

 また、男性女性の別と、年齢別でも基準値は分別されています。

 「これ栄養と関係ある??」とか思った方も居るかもしれませんが、つまりは筋肉量と肝機能、そして筋肉を維持できるだけの体格があるかどうかを見ているのです。腎機能は退廃している為、すでに評価機能としての意味を失っています。

 上記の論文でもある通り、アルブミン値が決して栄養の指標にならないとは言っていません。しかし、アルブミンだけで透析患者や心不全患者の栄養状態を評価することは愚である。という事を言っているのです。

 しっかりと患者データを精査し、そしてADLを確認し、患者の背後にある生活様式(運動の具合はどうか。食生活は偏食になっていないか)などを考慮する必要がある。といっているのです。

実臨床での透析における低アルブミン血症。X界隈はどう思っているのか

 さて、上記にも出しましたが、3.5mg/dL以下では教科書的には低アルブミン血症ということになります。

 しかしまぁ不思議なもので、リアルワールドーもとい肌感では皆さん別と考えています。

 ではいくらなら低アルブミン血症と見ているのでしょか。それがこのポストです。筆者の中ではなかなか突出した投票数なので、いろんな意味でお気に入りです。

 さて、という訳で、X(旧Twitter)界隈の透析に関わる医師・看護師・臨床工学技士の方の大多数は3.0mg/dL以下からが低アルブミン血症として診てもいいのではないか?と考えているようですね。

 となると、筆者の施設がどれだけガラパゴスなことを言っているか。そして患者への機会損失を生み出しているかを確認できたと思います。

 3.3mg/dLもAlbがあるのであれば、積極的に高置換Pre-OHDFを実施すべきでしょう。

 さて、本記事の主内容としてはここで終わりです。

 以下は筆者の戯言ですが、良ければお付き合いください。

筆者の私見

 さて、筆者の私見のコーナーがやって参りました。主観バリバリです。

 筆者としては、3.0mg/dL以上あるのであれば、Pre-OHDFは10L以上でスタートしてもいいのではないか?と考えています。最新の発表(2024年5月現在、未論文化)では、やはり予後を伸ばすという意味でも、ハザード比が下がるのは50L/sessionという発表内容になっています。なので、出来るのであれば、50L以上の高置換でPre-OHDFに臨むべきなのでしょう。

 ここで気を付けなければいけないのは、1sessionだということです。透析時間は関係ありません。どれだけ中大分子量物質を濾過出来たか?が予後に関わってくるということです。

 先日、大先輩とも大論争になった除去効率についてですが、腎機能が完全に退廃していないCKDの場合、ネフロンは120%の仕事をしようと頑張ってしまう訳です。

 つまりは細胞1つ当たりが過濾過を起こしてしまい、それはひいては繊維化を起こし、腎機能が完全に退廃してしまうわけです。

 ただここで問題になるのは、腎臓で濾過される物質は何なのか?を推し量ることであると筆者は考えます。

 腎臓はろ過と再吸収を繰り返す臓器群です。その為、ネフロンを長持ちさせるには100%、もしくは80%ほどの仕事量に落としてやる必要があるのでしょう。筆者がまだ20代前半だったかの時代に聞いたのは、「腎機能のある=自尿の出る患者には、除水をし過ぎてはいけない。」という話です。濾過という意味で、自尿の作成は欠かせません。しかし、当時の筆者は「除水をし過ぎてしまうと、腎臓が仕事をさぼるから除水をし過ぎてはいけない。」と解釈していました。けど当たり前ですが、理論立てて考えるとこの言説は間違いだと分かります。

 除水を進めることで、交感神経は優位になり、血圧は上昇を始めます。その為、輸入細動脈などの末梢動脈は締まり、腎性高血圧を引き起こします。腎臓自体が高血圧となることで、やはり腎実質はダメージを負ってしまうため、臓器には負担が掛かります。腎臓の繊維化などがより早く進行してしまいます。なので自尿がある患者に対しての過除水はいけないのです。この匙加減はとても難しいと思います。CTRやBNP,FGF-23など、様々な側面から考える必要があるでしょう。

 で、脱線しましたが、そもそも120%の仕事をしているであろうネフロンたちに、中大分子量物質の濾過を任せてもいいのか?という問題が発生します。女性などは特に、手根管症候群のハイリスク群なため、早期から中大分子量物質の除去は必要ではないかと考えます。

 性別の別や年齢、生活様式など、様々な背景を考慮し透析条件を組むことが必要である。つまりはテーラーメイドなメディカルが必要であると考えます。しかし、最新のデータから導入時からHDとPre-OHDFをしている群では、1年の生命予後でも差がついてしまった以上、HDで導入する。という選択肢はないのではないでしょうか。となると、残すは置換量をいくらで実施するか?になります。ここでも最新のデータがモノを言います。

 ハザード比(HR)で50L以上を置換する群では、それ以下と比べHRが1未満となります。つまりは予後が伸びるわけです。となれば、やはり導入初期からPre-OHDF、CV:50L以上を目標とした方がいいのではないでしょうか。但し、重度の低栄養状態であれば積層型であったり、OHDFであっても特にAlbが抜けないClearumを用いるなどの工夫は必要です。そこがテーラーメイドだということです。

 先日、SGLT2阻害薬は平均して透析導入を6年遅らせる。という報告がありました。これは驚きです。

 では次に、医療経済として考えた場合、次のステージである我々血液浄化に従事する人間は何をすべきか。それはより良い=合併症の少ない透析人生を送ってもらう。という点にあると思います。

 合併症が少ないということは、それだけ一人当たりにかかる社会保障費も少なく済むわけですから、そこを長い目で見なければなりません。

 と、下手したら本編より長い私見でしたが、ここら辺で終わらせたいと思います。

 お付き合いいただきありがとうございました。

あとがき

 さてさて、という訳で、今回は透析における栄養指標としてのアルブミンの是非について論じる記事を書いてみました。

 エビデンスを以って、「アルブミン値だけで透析を論ずるな!!」というには十分なペーパーではないでしょうか。

 何も栄養指標はアルブミンだけに非ず、MLT-50やInBodyなどのBIA法、そしてPEWなどの評価、筋肉量の推定のためのsCr、総コレステロールによる食事や肝機能の推定などの重要である。ということがNRI-JHにより分かっていただけると思います。

 また、アルブミン値によるOHDF実施の是非についても私見ですが言及しました。こういう言語化はたまには必要ですね。御批判はご尤もです。

 というわけで、今回はここら辺で。

 ではまたね~

Amazon.co.jp

コメント

タイトルとURLをコピーしました