透析は緩和ケア足りえるのかー積極的生の全うー

血液浄化

 さてさて、皆さんは「緩和ケア」についてご存知でしょうか。

 「死ぬ直前の患者が行くところ」「一度入れば出てこれない」等など…もしかしたら、これら偏見に満ちた言説を唱える医療従事者も居るかもしれません。

 しかし、実際はそうではない。という事も織り交ぜ、透析と緩和ケアについて、筆者の考えや社会情勢を解説出来ればと思います。

 ただ、筆者も仕事は臨床工学技士。実際には門外漢です。なので、有識者の方からご指摘があるかもしれません。

 できるだけ資料を引用しながら、忠実に、しかし私見を混ぜながら書いていきたいと思います。

 では行きましょう。緩和ケアの世界へようこそ

緩和ケアってそもそも何?

 緩和ケアとは、生命を脅かす疾患、特にがんなどによる問題に直面している患者とその家族の生活の質(QOL)を改善するためのアプローチです。これは、疾患の進行に伴う身体的、心理的、社会的、スピリチュアルな苦痛を早期に発見し、適切に評価し、対処することで、苦しみを和らげることを目的としています

緩和ケアの目的と内容

 それでは緩和ケアのケア内容について概説したいと思います。

身体的苦痛の緩和:

 がん患者は痛みや倦怠感などの身体的症状に苦しむことが多いです。緩和ケアはこれらの症状を和らげるための治療を提供します

精神的苦痛の緩和:

 患者は落ち込みや悲しみ、死への恐怖などの精神的な苦痛を経験します。緩和ケアはこれらの精神的な問題にも対応します

スピリチュアルケア:

 患者が抱えるスピリチュアルな問題、例えば人生の意味に関する問いや霊的な苦痛にも配慮します

家族のサポート:

 患者の家族もまた、精神的・社会的な負担を感じることが多いため、緩和ケアは家族に対するサポートも提供します

緩和ケアの提供場所

 緩和ケアは、病院の緩和ケア病棟やホスピス、自宅での在宅療養など、さまざまな場所で受けることができます。専門の医師や看護師、その他の職種からなるチームが支援します

誤解と現実

 緩和ケアは終末期ケアと誤解されることがありますが、実際には診断の早期から始めるべきケアです。がん治療中でも緩和ケアを受けることが推奨されています。緩和ケアは、患者とその家族の生活の質を向上させるための重要な医療アプローチであり、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな側面を総合的にサポートします。

緩和ケアの適応は?

 さて、上記でも述べられていますが、緩和ケアの適応には、一つは各種悪性新生物=所謂がんが適応となっています。しかし、ここ数年でその適応は拡大を見せました。その一つに「心不全」があります。

 なぜ心不全が緩和ケアの適応となったのか?それには下記の様な経緯があります。

心不全パンデミックの到来

 パンデミックとは、日本語では「広範囲に及ぶ流行病」と訳されます。そして心不全パンデミックとは、その名の通り「爆発的に心不全患者の患者数が増加する」ことを指します。

 日本では高齢化に伴い、心不全患者数が毎年約1万人ずつ増加しています。そして、2030年には心不全患者数が130万人に達すると推計されています1)

 心不全という病態は、急性増悪を繰り返しながら徐々に悪化し、予後予測が極めて困難な疾患です。

 また、急激な患者数の増加は社会保障費の莫大な増加や入院病床の逼迫を意味し、日本の医療を更に逼迫した状況へ追いやります。

高い発症リスクと死亡率:

 40歳以上の人の5人に1人が心不全を発症するリスクがあります(←出典がクリニックしか見付けられなかったです。すみません。)。

 心機能低下と診断されてから5年以内の死亡率は、およそ50%にも上ることが報告されており、心不全に対する対策は急務となっています2)

心不全と慢性腎臓病

 さて、若干一足飛びな感じもしますが、ここにきて我々臨床工学技士のフィールドワークでもある慢性腎臓病のお話をしましょう。

 近年、心腎連関として話題である心不全と慢性腎臓病。この言葉の通り、二つの疾患は切っても切れない関係にあります。以下にその相互影響を概説します。

 心不全が腎臓に与える影響

  1. 腎血流の低下:
    心不全により心拍出量が減少すると、腎臓への血流が減少し、腎機能が低下します。
  2. 静脈うっ血:
    心不全による静脈圧の上昇は、腎臓の静脈うっ血を引き起こし、腎機能をさらに悪化させます。
  3. 神経内分泌系の活性化:
    心不全時に活性化されるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)は、腎機能に悪影響を与えます。

慢性腎臓病が心臓に与える影響

  1. 体液量の増加:
    腎機能低下により体液貯留が起こり、心臓への負荷が増加します。
  2. 電解質異常:
    特にカリウムの異常は不整脈のリスクを高めます。
  3. 動脈硬化の促進:
    慢性腎臓病は動脈硬化を促進し、冠動脈疾患のリスクを高めます。

心腎連関の臨床的重要性

早期診断の重要性:
腎機能低下の早期診断と治療により、心機能の改善も期待できます。

予後への影響:
心不全患者の2-3割に急性腎障害が発生し、これは予後不良因子となります。

治療の複雑化:
心不全と腎機能低下の両方を考慮した治療が必要となり、薬物療法の調整が複雑になります。

心不全に対する緩和ケア

 これまでにも述べたように、心不全に対する対策は、心不全パンデミックを目の前にして急務であります。しかし、そのコントロールの複雑さや急性増悪などの繰り返しにより、介入は困難を極めます。

 このような状態の中、着実に進行する心不全症状に対し、少しでも患者の苦痛を緩和することを目的として、心不全緩和ケアが提唱されました。

 しかし、先に述べたように、心腎連関や高血圧、糖尿病など、基礎疾患は多岐に渡ります。

 これら併存疾患の管理も行いながら、心不全の緩和ケアも行うことになります。

透析は緩和ケア足りえるのか

 ここで我々の本懐の一つである血液浄化ー血液透析の登場です。

 慢性腎臓病のラストはESRD-腎不全です。説明するまでもないですが、腎不全では無尿状態のため、体液過剰が発生し、徐々にですが心不全が進行します。溢水などにならないよう、DWの設定や毎透析の除水が大切となってくるわけです。

 透析における身体的苦痛の緩和としては、例えばリドカインテープやエムラクリームの処方による穿刺痛の軽減であったり、芍薬甘草湯や柴胡桂枝湯による下肢痙攣の予防、適切な除水速度の設定による血圧の管理、透析掻痒症による不眠などへの適切な透析条件の設定があります。

 精神的苦痛の緩和としては、食事制限によるストレスへの傾聴、透析による先の見えない人生への不安の軽減の為の傾聴などがあります。

透析におけるスピリチュアルケア

 スピリチュアルケアというのは特別で、人間の精神的・霊的な側面に焦点を当てたケアのことです。具体的には以下のような特徴があります:

生きる意味や人生の価値を見出すサポート:

 スピリチュアルケアは、人生の意味や目的を見つけ直すことを助け、人生のあらゆる事象に価値を見出すよう導きます

全ての人に必要なケア:

 特定の宗教に限らず、全ての人間に適用されるケアです。健康な時でも、特に病気や困難に直面した時により必要とされます

スピリチュアルペインへの対応:

 「なぜ自分だけがこんな目に遭うのか」「人生の意味は何か」といった深い苦悩(スピリチュアルペイン)に寄り添い、共に考えることが重要です

人間対人間の関わり:

 特別な技術よりも、患者を一人の人間として尊重し、共感的に接することが重要です

多職種による包括的なアプローチ:

 医療従事者、家族、宗教家など、患者に関わる全ての人との関係性を通じて行われます

自律性の尊重:

 患者自身の選択や決定を尊重し、自己存在の価値を再確認することを助けます

 スピリチュアルケアは、単なる宗教的ケアではなく、人間の尊厳や生きる意味に関わる包括的なケアとして理解されています。現代医療においても、患者の全人的なケアの一環として重要視されています

 これら3つの柱を持ち合わせ、緩和ケアにおける透析としていくわけです。

緩和ケアー心不全ー透析

 さて、あまり話が纏まっていませんが、もう少々お付き合いください。

 今、制度上緩和ケアの適応になっているのはがんと心不全です。

 何度も述べたように、心不全と透析は切っても切れない関係にあります。

 そして、透析は透析の見合わせをしない限り、基本的には亡くなるまでしなければならない延命治療です。透析を中止すれば、食事や飲水の制限を厳にしなければ、溢水や肺水腫、全身の浮腫、尿毒症症状に苦しまされることになります。その為、これらを緩和する処置が必要になります。

 今現在、血液透析は「生命維持管理装置」という位置付けなため、透析をしながら緩和ケア病棟に入院することはできません。それはがんを患っていようと、末期心不全だろうとです。

 しかし、筆者は「透析は苦痛を緩和するための処置なのではないか?」と考えるため、この制度設計には疑問符が付きます。

 毎回の穿刺が趣旨に反する?4時間拘束が趣旨に反する?どこら辺がダメなんでしょうね。

 透析は尿毒症や心不全症状を緩和するための治療・処置である。という筆者は考えです。

 透析治療における苦痛(身体的・精神的・スピリチュアル的)を緩和するためにも、適正透析というのは必要なのではないか?と筆者は考えます。

 そのために、最低でもKt/Vは1.4を、カリウム濃度は6meq/l以下を、Pは5.5以下を目指すべきなのでしょう。ここを達成できて、ようやく議論になります。ここを達成できずに、患者の意思も確認せず「別に患者は透析したいと思ってないから~」などという弊社技士部は、軒並み技士免許は返納すべきである。とも筆者は考えます。医療従事者の風上にも置けません。

 以上より、【緩和ケアにおける透析】とは、如何に適正な透析を行えるかである。と筆者は考えます。

あとがき

 ここまでの駄文長文を書けるのも、もしかしたら才能かも!?!?←んなわけあるかい

 とおふざけ入れたりしますが、僕は真面目に透析医療に向き合いたい一心で今回も記事を書いてみました。

 ただ、現実としてここまで大真面目に透析をとらえている医療従事者は極々一部なのかもしれませんね。

 もっとこの考え方が浸透してくれることを望みます。

 さ、では今回もこの辺で。まったね~ノシ

1)Okura Y, et al : Impending epidemic : future projection of heart failure in Japan to the year 2055. Circ J 72 : 489―491, 2008.

2)慢性心不全の疫学;中医学社

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