さてさて、皆さんは日頃、何を思いながら血液浄化業務を熟しているでしょうか。
患者さんの為?病院の為?自分の為?考えることは様々でしょう。
そんな中、ある疑問を解消するためのトライアルが組まれました。それは「SONG」です。
今回はこのSONGについて、少しだけ解説していこうと思います。
では前置きはこのくらいにして、いざ行きましょう。SONGの世界へようこそ。
そもそものきっかけは、認識の相違から・・・
SONG Initiativが始まった切っ掛けは、そもそもが医療者と患者とのギャップ(認識の相違)からでした。
医療者というのは、どうしても患者の予後(死亡)や成績(心血管疾患などの合併症の有無)、QoLに焦点を当てて臨床試験を組んでしまいます(介入試験326報を調べると、臨床評価項目で最も多かったのは「死亡」(20%)、次いで「心血管疾患」(12%)、「QOL」(9%)である1))。確かに。それは医療において、人を生かすという点においては重要です。しかし、生かされた側である患者は、果たしてそれを望んでいるのでしょうか?生きるのであれば、もっと人生に意味を持たせた生を謳歌したい。と思うのが人間かもしれませんね。
SONG(Standardized Outcome in Nephrology) Initiativeとは?
そんなギャップを埋めるべく考案されたのが、SONG(Standardized Outcome in Nephrology) Initiative(腎症における標準評価項目イニチアチブ)であります。
2024年8月現在、このSONG Initiativは腎疾患における8分野で行われています(https://songinitiative.org/)。この中で、先陣を切って行われている研究がSONG-HDです。これは医療従事者と患者が、双方にとって意味のある評価項目を確立すべくコラボレーションを探る研究です。
“The whole thing comes down to lifestyle. I just want to remain as active as possible.” – patient on haemodialysis
これはSONG-HD Initiativのページの最初にある、透析患者の言葉です。
“すべてはライフスタイルの問題だ。 できるだけ活動的でいたいんです”
とあります。
このように、医療者が掲げるアウトカムよりも、患者が求めるアウトカムはより生活に沿ったもの(=ADLを維持、上昇させる。QoLを維持、上昇させる)であることが、この一文からでも分かります。
SONG-HDで重要視されたアウトカムは何か
SONG-HD(https://songinitiative.org/projects/song-hd/)に掲載されているアウトカムは3段階に分かれており、その中で中核となるアウトカム(=コアアウトカム)が以下の4項目になります。
- 倦怠感
- 心血管疾患
- バスキュラーアクセス関連
- 死亡率
これらは、患者が重視するもの。医療者が重視するもの。そして、両者ともに重視するもの。として位置づけられています。
他にも、2次アウトカムには
- 旅行へ行きたい
- 仕事がしたい
- 貧血について
- 血圧治療について
- 鬱(精神疾患)
- 適正透析について
- 非透析日の時間
- 血圧の低下
- 入院
- 家族/友人への影響
- 感染症/免疫
- 活動性
- 疼痛
- カリウム管理
- 適正DWについて
3次アウトカムとしては
- 不安/ストレス
- 骨の健康
- カルシウム管理
- 認知症
- 痙攣
- 財務上の影響(=医療費)
- 食の楽しみ
- 痒み
- 吐き気/嘔吐
- 甲状腺ホルモン管理
- リン値管理
- RSL(Restless Leg Syndrome:むずむず脚症候群)
- 睡眠の質
となっており、重要度がランキングされています。
これらアウトカムの解消が、いわば患者の望むもの。ということであります。
本邦ではどうなのか
さて、これまでご紹介した研究というのは外国での報告です。では本邦ではどうなのでしょう。
本邦でも、日本透析医学会より「透析患者QoL向上のための重要アウトカムを巡る患者と医師の意識調査」2)という、腎不全総合対策委員会報告が上がっています。
内容としてはSONGの日本版といった感じで、あまり相違はありません。ただ、アンケート回収率の医師の回収率の低さには少しガッカリしてしまいますね。もう少し患者や透析医療と真摯に向き合っては如何でしょうか(少なくとも弊社の透析担当医は)。
本邦の報告の締めくくりでも、要旨の部分では「これらの症状は,患者QoL向上のうえで集学的に取り組むべき重要な課題と考える.」となっています。
あとがき
さて、今回は数年遅れで本邦で話題?となっているSONG:腎症における標準評価項目について解説してみました。
至適透析を実施するうえで、それが医療者のエゴとなっていないか?等はしっかりと考えなければなりません。
しかし、筆者の施設で中等~重症の透析掻痒症の患者1名に対し、試験的にではありますがPre-OHDF 60L/sessionを行っている現在、少なくとも透析中の掻痒感についてはほぼといって良いほど軽快しました。
これを以てしてOHDFを推奨するのも乱暴かもしれませんが、少なくとも患者のQoL向上には役立っているのではないでしょか。
多くの領域の物質除去が可能であるOHDFが、これからも更に発展し、透析医療に寄与することを切に願います3)。
では今回はここらへんで。まったね~ノシ
1)Bénédicte Sautenet;Scope and Consistency of Outcomes Reported in Randomized Trials Conducted in Adults Receiving Hemodialysis: A Systematic Review;et al. AJKD. 2018;72:62-74.
2)中 山 昌 明 , 宮 澤 優 介 , 深 川 雅 史 ; 透析患者QoL向上のための重要アウトカムを巡る患者と医師の意識調査 ; 透析会誌55(11):613~625,2022
3)櫻井 健治 ; 9.オンライン HDF の適応 ; 臨牀透析 39巻5号 pp.524-531
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