NRI-JHと長期死亡率の関連を観察研究!!~Q・コホート研究~

血液浄化
Association of the nutritional risk index for Japanese hemodialysis patients with long-term mortality: The Q-Cohort Study - Clinical and Experimental Nephrology
Background Protein-energy wasting (PEW) is a risk factor for mortality in patients undergoing hemodialysis. Recently, a ...

 さて、今回は透析における栄養指標シリーズから一歩進んで、それら指標を応用した研究シリーズ?をご紹介したいと思います。

 NRI-JHは日本発の栄養指標であり、また近年登場したばかりという事もあり、報告数は極端に少ないのが現状です。ただ、研究初心者?(研究言うんか?)の筆者にはとっつきやすくていいです。読み込む数が少なくていいので(笑)

 では来ましょう。栄養の世界へようこそ!!

今回のお題論文はこちら

今回のお題論文は「Association of the nutritional risk index for Japanese hemodialysis patients with long-term mortality: The Q-Cohort Study」です。

 日本語訳としては「日本人血液透析患者の栄養リスク指数と長期死亡率との関連: Qコホート研究」となります。なーんのひねりもありません。

 ちなみに、Q-コホート研究の「Q」はKyushu Prospective Cohort Study in Hemodialysis Patientsの意味を込めて「Q」ということで、九州大学外学院医学研究院 病態機能内科学 腎臓研究室が主宰しているようです。

 いやーさすがは国立大ですね。かっこいいっす。

 ではさっそく中身を見てみましょう。

背景と目的

 フレイル・サルコペニア・PEWは血液透析患者の死亡リスク因子である。CKD stageの進行とともにPEWの有病率は上がることも確認されている。この事より、PEWを高確度で診断できる有用なツールの開発は急務であった。

 最近、日本人血液透析患者向けの栄養リスク指数(NRI-JH)がPEWの代替指標として提案された。

本研究の目的は、NRI-JHと長期死亡率の関連を調査し、その妥当性を確認することである。

方法

  • Q-コホート研究に登録された3046人の血液透析患者を10年間追跡調査した。
  • NRI-JHはBMI、血清アルブミン、総コレステロール、クレアチニンに基づいて算出された。
  • 患者をNRI-JHスコアにより4群に分け、全死因、心血管、感染関連死亡リスクとの関連を調査した。

結果

  • 追跡期間中、647人が4年以内に、1503人が10年以内に死亡した。
  • 多変量調整後、NRI-JHスコアが高いほど全死因死亡リスクが増加した。
  • 同様に、心血管死亡と感染関連死亡のリスクもNRI-JHスコアが高いほど増加した。

結論

NRI-JHスコアが高いほど、維持血液透析患者の長期死亡リスクが増加することが示された。

この研究は、NRI-JHが日本人血液透析患者の長期予後予測に有用であることを示唆しています。

Citations:
[1] https://ppl-ai-file-upload.s3.amazonaws.com/web/direct-files/22683929/8fea7fe3-e3b2-4807-a403-27e5fe78e525/Association-of-the-nutritional-risk-index-for-Japanese-hemodialysis-patients-with-long-term-mortality_-The-Q-Cohort-Study.pdf

あとがき

 今回はNRI-JHについて、更に深掘りした研究についてご紹介してみました。といっても、試しにPerplexityに出力させた内容を載せてみましたが、あまりに味気ないので筆者的考察を。

 確かに、CKD stageが進行するほどにフレイル・サルコペニアを総称するPEWの有病率は上がります。ただ、これは今現在、世界的にCKDを発症する年齢が上がっているから。という解釈もできるのではないでしょうか。

 ただ、では高齢だからPEWを放置していいのか?と言えばそうではありません。どこまで健康寿命を延ばせるかは今世界を挙げての命題となっているのです。

 さて、そんな中、アジア人-特に日本人向けに低栄養のリスクを拾い上げるための指標、栄養リスク指標:NRI-JHが開発されました。で、これは筆者の記事でもすでに取り上げています。

 NRI-JH開発当初は、短期予後(1年予後)を推測するツールとしての使用を想定していました。しかし、開発当初、統計解析にも耐えうる指標ではあったものの、果たしてどこまでの予後を予測できるのかは未知数でした。

 そこで、Q-コホート研究では、当初の4群から点数配分を変え、多変量解析を加えHRを出しました。

 研究の目的としては二つ。一つはNRI-JHが栄養リスクのサロゲートマーカーとして有用かどうか。二つ目は、この指標がどこまで長期予後を見通すことが出来るのか。ということでした。

 10年の追跡期間を経て、最初の4年間に647例が死亡し、10年以内に1503例が死亡しました。この死亡例と生存例をカプランマイヤー曲線などを描くことで解析したところ、驚くべきことに、有意差は1年予後を占った当初の指標と変わりなかったのです。

 NRI-JH Scoreの高値である患者群は、特徴として (1)高齢、(2)BMI中央値が低い、(3)糖尿病性腎症、心血管イベント、脳卒中、骨折の有病率が高い、(4)透析年数の中央値が短い、(5)血中ヘモグロビン値が低い、(6)CRPとALPの血清値が高い; (7)アルブミン、クレアチニン、尿素窒素、総コレステロール、リン酸塩、PTHの血清値が低いこと、(8)赤血球造血刺激薬の使用頻度が高いこと、(9)リン酸結合剤とビタミンD受容体活性化剤の使用頻度が低いことが示されたそうです。

 具体的には、4年全死亡の多変量調整HR(95%CI)は、G2群、G3群、G4群でそれぞれ1.93(1.57-2.38)、2.68(2.05-3.50)、3.16(2.40-4.16)とありました。これは実に驚くべき数字と言えます。4年心血管死と感染関連死のCox比例ハザードモデルのHRと95%CIにおいては、 NRI-JHスコア最低群(G1)と比較して、4年心血管死に対する多変量調整HR(95%CI)は1.80(1.29-2.52)、1.94(1.21-3.11)、3.37(2.15-5.30)、4年感染関連死のHRはG2群、G3群、G4群でそれぞれ2.47(1.57-3.87)、4.03(2.33-6.96)、4.56(2.58-8.06)であったとあります。

 当初、HRI-JHは心血管死や感染症などの解析はされず、1年予後の全死亡について解析されていた為、ここまで詳細に、またHRにしっかりと差が付いた解析はある意味インパクトのある結果となりました。

 これらの結果を携えて、HRI-JHは日本人においては妥当性のある、また短期~長期の予後を推察するに耐えうるツールとしての地位を確立したといっても過言ではないのかもしれません。

 4年10年の予後は、死因の関係になくNRI-JHが高スコアであるほど悪い事が一貫していた点にも注目です。また、半年後から血清アルブミン値が上昇した場合においても、予後が改善していることも注意が必要と思われます。

 これらの結果より、NRI-JHはPEWスクリーニングにおいて大変有用である。という結果となっています。

 但し、これが予後改善などにどれだけ寄与できるかは、これからの大規模研究次第と締めくくられている為、解釈には注意が必要となります。

 さ、以上が今回のお題論文の筆者考察?感想?になります。

 従来はLow,middle,Highの3分類でのリスク分類でしたが、今回解析をするうえで新たに4分類にリスク分けされました。また、予後も1年からバリエーションが増え、4年と10年が仲間入りです。

 そこに注意して今後はデータ解析に勤しみたいと思いますカシコ

 というわけで、あとがきがこれまで史上最長になってしまったのでいい加減〆ようと思います。

 今回はありがとうございました!!というわけでばいちゃ~~ノシ

論文翻訳全文

要旨
背景

 タンパク質エネルギー消耗症(PEW)は、血液透析を受けている患者の死亡率の危険因子である。 近年、PEWの代用指標として日本人血液透析患者の栄養リスク指標(NRI-JH)が提唱されている。 しかし、NRI-JHと血液透析患者の長期死亡率との関連を明らかにした研究はない。さらに、NRI-JHの妥当性は確認されていない。

方法

 Qコホート研究(Q-Cohort Study)に登録された血液透析患者3046人を10年間追跡調査した。
NRI-JHは、肥満度と血清中のアルブミン、総コレステロール、クレアチニン値に基づいて算出した。NRI-JHのスコアによって患者を4群に分けた: 0-3(G1、n=1343)、4-7(G2、n=1136)、8-10(G3, n=321)、11-13(G4, n=246)である。 Cox比例ハザードモデルを用いて、NRI-JHと全死因死亡、心血管系死亡、感染症関連死亡の4年および10年リスクとの関連を検討した。

結果

 追跡期間中、最初の4年間に647例が死亡し、10年以内に1503例が死亡した。4年予後を解析し、NRI-JHスコアが最も低い群と比較した。 全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は、G2、G3、G4群でそれぞれ1.93(1.57-2.38)、2.68(2.05-3.50)、3.16(2.40-4.16)であった。 同様に、NRI-JHスコアが高いほど、心血管および感染症関連死のリスクが高いことと関連していた。

結論

維持血液透析を受けている患者において、NRI-JHスコアが高いほど長期死亡リスクが高いことと関連していた。

キーワード
日本人血液透析患者の栄養リスク指数 – NRI-JH – タンパク質エネルギー消耗症 – 血液透析 – 全死亡

はじめに
代謝障害および栄養障害は、慢性腎臓病(CKD)患者における有害な臨床転帰を引き起こす危険因子の1つである[1] 。 透析前および透析依存型CKD患者における栄養障害の説明には、さまざまな用語が用いられているが、International Society of Renal Nutrition and Metabolism (ISRNM)の専門家委員会は、最近、CKD患者における栄養不良およびタンパク質・エネルギー貯蔵の減少を表す用語として「タンパク質・エネルギー消耗症(protein-energy wasting:PEW)」を提唱した [2] 。 PEWという用語は広まり、PEWの有病率はCKDステージの進行とともに増加することが以前の報告で示されている[3]。また、維持血液透析を受けている患者では、PEWの頻度が高い。最近の分析では、血液透析を受けている患者におけるPEWの有病率は28%~54%であることが示されている[4]。 蓄積された、栄養障害がしばしば、有害な臨床転帰につながることが示されているため[1、5、6]、PEW患者の早期発見、栄養状態を改善し、運動習慣を指導することが重要である。したがって、維持血液透析を受けている患者において低栄養を検出できる簡単で客観的なツールを開発することが急務である。ISRNMによって提唱されたPEWの診断基準は、以下の4つのカテゴリーで構成されている:(1)生化学的基準;(2)低体重、総体脂肪の減少、または体重の減少;(3)筋肉量の減少;(4)低タンパク質または低エネルギー摂取量[2]。 これらの基準は世界的に妥当なものであるが、日本人以外の患者を対象とした研究によって決定されたものである。したがって、これらの基準を日本人患者に直接採用し、適用することは不適切である。 日本の血液透析患者にオリジナルのPEW基準を適用することの潜在的な限界を克服するために、日本人の血液透析患者のデータセットを作成した。最近、日本透析医学会(Japanese Society for Dialysis Therapy)および腎データ登録(Renal Data Registry)によって作成された日本人血液透析患者のデータセットを使用して、新しい栄養リスク指標であるNRI-JH(Nutritional Risk Index for Japanese Hemodialysis Patients)が作成され、検証された。NRI-JHは、もともと維持血液透析を受けている患者の1年全死亡リスクを評価するために開発された栄養指標である[7]。 NR-IJHは、日常的に測定される次の4つの因子に基づいて計算される:肥満度指数(BMI)、血清アルブミン、総コレステロール、クレアチニン値。 重要なことは、年齢と性別を考慮してカットオフ値が決定されたことである。 著者らによって提案されたように、NRI-JHの主な利点は、計算が簡単で(各カテゴリーのスコアを加算することによって)、直感的であり、PEWを有する患者のスクリーニングに有用であることである。 NRI-JHは、栄養不良の患者をスクリーニングするための、栄養介入が必要な、有用な指標と思われるが、もともとは血液透析患者の1年予後、リスク推定に基づいて開発された。 このインデックスが、維持血液透析を受けている患者における長期死亡率の予測に有用であるかどうかは依然として不明である。本研究の目的は2つあった。 第一の目的は、新たに開発したNRI-JHスコアリングシステムを、NRI-JHスコアの作成に使用した派生コホートとは独立した、栄養サロゲートとして私たちの日本人血液透析コホートに、このスコアを適用して検証することであった[7]。 第二の目的は、NRI-JHスコアが維持血液透析を受けている患者における長期的な死亡率を予測できるかどうかを検討することであった。これら2つの目的を達成するために、維持血液透析を受けている日本人患者を対象とした多施設、縦断的、観察的研究であるQ-Cohort Studyデータセットを用いた[8, 9]。

資料と方法
研究デザインと対象

 Q-コホート研究は、日本で血液透析を受けている末期腎臓疾患患者を対象とした多施設共同、縦断的、観察研究である[10-13]。2006年12月31日から2007年12月31日までに、39の透析施設で、血液透析を受けている18歳以上の外来患者3598人を募集した。 患者は2016年12月31日まで1つ以上のベースライン特性についてのデータがない患者(n = 92)、または身長がなくBMI計算ができない患者(n = 460)は除外した。 したがって、、残りの3046人の患者のデータを分析した。試験実施計画書は、九州大学臨床研究倫理委員会 の承認を受け(承認番号:20-31)、大学病院医療情報ネットワーク (UMIN)の臨床試験登録(UMIN ID:000000556)に登録された。 臨床研究の倫理(ヘルシンキ宣言)に従って実施された本試験の開始時に、全患者から書面によるインフォームド・コンセントを得た。 全参加施設の倫理委員会は、本研究の遡及的な性質を理由に、2011年から2016年までの追跡調査の追加について、書面によるインフォームド・コンセントの要件を免除することを承認した。

転帰と共変量
主要転帰は全死亡であった。 副次的アウトカムは心血管死と感染関連死であった。NRI-JHスコアとアウトカムとの長期的関連を検討するため、4年生存リスクと10年生存リスクを推定した。
心血管死は、冠動脈性心疾患、心臓弁膜症、大動脈解離、脳卒中、くも膜下出血、突然死、心不全、末梢動脈疾患など、心血管系疾患による死亡と定義した。 冠動脈疾患は、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、および/または、冠動脈インターベンション(冠動脈バイパス手術
、または血管形成術)と定義した[11]。 感染症関連死は、敗血症、呼吸器感染症、尿路感染症、腸管感染症、心臓感染症、神経学的感染症、血管アクセス関連感染症を含む感染症による死亡と定義された[12]。 登録患者の健康状態は、各血液透析施設の地域医師によって毎年確認され、本研究の協力者がいない他の血液透析施設に移動した患者については、郵便または電話によって確認された。イベントは、患者の医療記録に基づいて決定された。

統計解析

 連続変数は中央値(四分位範囲)、カテゴリーデータは百分率で示した。 NRI-JHスコア群で層別化したベースライン特性の分布は、以下の傾向分析を用いて比較した:カテゴリー変数と連続変数にはそれぞれCochran-Armitage検定とJonckheere-Terpstra検定を用いた。 10年間の観察期間における転帰の生存率はKaplan-Meier法で描出し、log-rank検定で比較した。 転帰のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定するために、未調整および多変量調整Cox比例ハザードモデルを用いた。比例ハザードの仮定は、シェーンフェルド残差分析を用いて検証され、それに続いて4年生存率分析が行われた。 しかし、10年生存率はその仮定を完全には認めなかった。 したがって、Cox比例ハザード回帰分析による10年死亡率の結果を補足資料として提供した。 多変量調整モデルには共変量、すなわち前述の潜在的交絡因子を含めた。 サブグループ解析として、患者を透析歴に応じて3群(3年未満、3~9年、9年以上)に分けた後、NRI-JHと転帰との関連を検討した。 全死亡のリスク層別化のためにNRI-JHスコアがより有用なグループ分けが可能かどうかを検討するために、感度分析を行った。 すなわち、患者をNRI-JHスコアに従って以下の4群に分けた:g1(0-2)、g2(3-6)、g3(7-10)、g4(11-13);新たに分けたNRI-JH群と10年全死因死亡率との関連を解析した。 さらに、特定の死因(例、敗血症)に対するNRI-JHの影響も明らかにした。 NRI-JHスコアと特定の死因との関連を解析するための統計的方法は補足資料に記載されている。 すべての解析において両側P値<0.05を統計的に有意とみなした。 すべての統計解析は、Rバージョン3.5.2(www.r- proje ct.org)のグラフィカルユーザーインターフェイスであるEZR(自治医科大学附属さいたま医療センター、日本、埼玉)を用いて行った[16]。 連続変数は中央値(四分位範囲)、カテゴリーデータは百分率で示した。 NRI-JHスコア群で層別化したベースライン特性の分布は、以下の傾向分析を用いて比較した。

結果

NRI-JHによるベースラインの特徴

 3046人の患者の年齢中央値は64.3歳で、59.4%が男性であった。 NRI-JHスコアの分布を図1に示す。 NRI-JHスコア群で層別化したQ-コホート研究集団のベースライン特性を表1に示す。 NRI-JHスコアの高い患者は以下のような特徴を示した: (1)高齢、(2)BMI中央値が低い、(3)糖尿病性腎症、心血管イベント、脳卒中、骨折の有病率が高い、(4)透析年数の中央値が短い、(5)血中ヘモグロビン値が低い、(6)CRPとALPの血清値が高い; (7)アルブミン、クレアチニン、尿素窒素、総コレステロール、リン酸塩、PTHの血清値が低いこと、(8)赤血球造血刺激薬の使用頻度が高いこと、(9)リン酸結合剤とビタミンD受容体活性化剤の使用頻度が低いこと。

NRI-JHは全死亡リスクと関連している。

 観察期間中央値8.7年(四分位範囲4.1-10.0年)の間に、647人の患者が最初の4年間に死亡し、1503人の患者が10年以内に死亡した。 各NRI-JHスコア群別の生存率を図2に示す。 10年生存率はNRI-JHスコアが高い群で有意に低かった(P < 0.001;logrank検定)。 NRI-JHスコアと全死亡の4年および10年リスクとの関連をさらに明らかにするために、多変量解析を行った。 4年全死亡に対するCox比例ハザードモデルのHRと95%CIを表2に示す。 NRI-JHスコアが最も低い群(G1)と比較して、4年全死亡の多変量調整HR(95%CI)は、G2群、G3群、G4群でそれぞれ1.93(1.57-2.38)、2.68(2.05-3.50)、3.16(2.40-4.16)であった。 同様に、NRI-JHスコアが高いほど、10年全死亡のリスクは増加し、有意に関連していた(補足表1)。 さらに、透析歴に基づいて患者を3群に分けた場合、透析歴にかかわらず、NRI-JHスコアが高いほど10年全死亡のリスクは一貫して高かった(補足表2および補足図1)。 さらに、NRI-JHスコアに基づく異なるグループ分けを患者に適用しても、全体的な結果は提唱者によるオリジナルのNRI-JHグループ分けで得られた結果と一致していた(補足表3および補足図2)。

NRI-JHは心血管系および感染症関連死のリスクと関連している

 次に、NRI-JHスコアと原因別死亡リスクとの関連を調べた。 最初の4年間で、229人が心血管系疾患で死亡し、156人が感染症で死亡した。 さらに、10年以内に538人が心血管系疾患で死亡し、386人が感染症で死亡した。 各NRI-JHスコア群別の心血管系および感染症関連死の生存率を図3に示す。 10年生存率は、NRI-JHスコアが高い群で有意に低かった(心血管死、P< 0.001;感染関連死、P< 0.001;ログランク検定)。 4年心血管死と感染関連死のCox比例ハザードモデルのHRと95%CIを表3に示す。 NRI-JHスコア最低群(G1)と比較して、4年心血管死に対する多変量調整HR(95%CI)は1.80(1.29-2.52)、1.94(1.21-3.11)、3.37(2.15-5.30)、4年感染関連死のHRはG2群、G3群、G4群でそれぞれ2.47(1.57-3.87)、4.03(2.33-6.96)、4.56(2.58-8.06)であった。 同様に、NRI-JHスコアが高いほど、10年間の心血管系死亡および感染症関連死亡のリスクが増加することと漸増的かつ有意に関連していた(補足表1)。 さらに、NRI-JHスコアと特定の死因との関連を検討したところ、敗血症を除き、NRI-JHスコアの高値は死亡リスクの上昇と有意に関連していた(補足表4)。

ディスカッション:考察

 維持血液透析を受けている患者を対象としたこの縦断的コホート研究において、NRI-JHスコアが高いほど長期死亡リスクが高いことが示された。 この関係は、死因(すなわち、心血管系または感染関連)にかかわらず一定であった。 さらに、我々の結果は、独立した日本人血液透析コホートを用いることにより、NRI-JHの外部妥当性を確認した。 全体として、我々の結果は、もともと維持血液透析を受けている患者の1年死亡リスクを評価するための栄養指標として開発されたNRI-JHが、PEWリスクのある血液透析患者を層別化するための有効なツールであり、短期および長期の生存を予測するために使用できる可能性があることを示唆している。 PEWは、複数の栄養および異化の変化を指し、CKD患者の罹患率および死亡率と関連している[17] 。 食欲不振や食事制限による食事摂取量の不足はPEWの主な原因の1つであるが、その他にも安静時エネルギー消費量の増加、持続性炎症、代謝性アシドーシス、複数の内分泌疾患、透析療法そのものなど、多くの要因が関与している [17, 18]。 PEWがどのようにして臨床的に不利な結果をもたらすかを、単一の包括的な病態生理学的機序で説明することは困難であるが、考えられる機序は提案されている [19]。 第一に、PEW患者は十分な食事摂取ができず、アミノ酸(アルギニン、グルタミン)、微量元素(亜鉛)、ビタミン(C、B6)などの栄養素が不足している可能性があり、これが免疫反応の障害につながる可能性がある。 免疫の異常は宿主の抵抗力に影響し、持続的な炎症の一因ともなりうる。 第二に、PEWで観察される筋肉量の減少は、骨格筋、呼吸筋、心筋の機能低下につながり、日常生活の障害や低下につながる可能性がある。 さらに、筋肉から放出される生理活性物質であるマイオカインが、疾患や死亡のリスク低下に関与していることが知られており[20]、筋肉量の減少が不利な臨床転帰をもたらす理由のひとつと考えられている。 最後に、PEWが内分泌機能に及ぼす影響も重要である。 脂肪組織の減少はアディポネクチンの減少につながり、インスリン抵抗性と動脈硬化を引き起こす。 胃から分泌されるペプチドホルモンであるグレリンの減少は、PEW患者の予後悪化と関連することが報告されており [21] 、グレリン受容体作動薬の使用はPEWに対する治療介入として検証されている [22] 。 本研究では、NRI-JHスコアが高いほど、心血管死よりも感染関連死に強く影響した。 上記の機序のうち、免疫異常による宿主抵抗力の低下が、特定の死因に対するNRI-JHの影響の違いを説明しているのかもしれない。 先行研究では、栄養失調-炎症スコア(MIS)やNRI-JHなどの栄養指標は、心血管イベントよりも感染症のハザード比が高いことが報告されており [7, 23] 、本研究の結果と類似している。 NRI-JHの選択された4つのパラメータの臨床的関連性と妥当性について議論すべきである。 血液透析を受けている患者において、BMIの低値、アルブミン、総コレステロール、および筋肉量の間接的指標として用いられる透析前のクレアチニンの血清レベルの低値が、死亡リスクの上昇と独立して関連していることが、多くの証拠によって示されている [24-28] 。 注目すべきは、6ヵ月後の血清アルブミン値の上昇が死亡リスクの低下と関連していることである [25] 。 したがって、血清アルブミン値の低下だけでなく、その後の血清アルブミン値の変化にも注意すべきである。 血清総コレステロール値が低い場合とは異なり、血清総コレステロール値が高い場合は死亡率との関連は明らかではない。 以前の報告では、血清総コレステロール値200〜219mg/dLが最も良好な生存率と関連しており、心血管死亡は血清総コレステロール値が最も高い群(220mg/dL以上)で最も高かった [26] 。 さらに、われわれのグループはごく最近、血液透析患者の全死亡リスクは血清総コレステロール値が179mg/dLの患者で最も低いことを証明した[13]。 これらを総合すると、血液透析患者の全体的な栄養状態を適切に表すNRI-JHの構成要素として、これら4因子を採用することは妥当であろう。

 その結果、NRI-JHは、栄養状態に関連する4つのカテゴリーのサブスコアを合計するシンプルな採点システムを備えた優れた栄養評価ツールであることが確認された。 NRI-JHはわずか14の尺度で表され、直感的に理解できるため、高度な計算を必要とする他の複合栄養指標と比較して、ベッドサイドでのPEWスクリーニングに適している。 我々は、NRI-JHはPEW患者の早期発見に使用でき、その結果、栄養補給や透析内運動などの治療介入の開始を促進できると考えている [18, 29]。 とはいえ、NRI-JHの4つのカテゴリーすべてに採点システムのカットオフ値があるため、この指標は、患者の値が各カテゴリーのカットオフ値より低いか高い場合にのみ、栄養状態の改善または悪化を検出できる。 したがって、NRI-JHは、いくつかの病状のような栄養状態の微細な変化の検出には適していない可能性がある。 本研究にはいくつかの限界があった。 第1に、BMIとアルブミン、総コレステロール、クレアチニンの血清値を含む血液検査データは、ベースライン時に1回しか測定できなかったため、NRI-JHの各カテゴリーにおける連続的な変化は考慮されず、患者の誤分類につながった可能性がある。 第2に、スタチンや腸管コレステロール輸送阻害剤などの脂質異常症の治療に関する情報は得られなかった。 血清総コレステロール値はコレステロール低下薬によっても変化するため、誤分類のもう一つの原因となる。 第3に、この研究では透析患者の年代が異なっていた。 すなわち、われわれの研究集団は、偶発的な血液透析患者を募集していなかった。 したがって、透析治療期間が栄養状態に影響を及ぼす可能性は否定できず、そのために誤分類が生じ、観察結果に偏りが生じる可能性がある。 しかし、サブグループ解析で示されたように、NRI-JHスコアと転帰との関連は透析年代間で一貫していたことから、NRI-JHは多様な透析歴を有する患者にも適用可能であることが示唆された。 最後に、既知および未知の残留交絡因子が帰無仮説を導く可能性がある。 これらの限界にもかかわらず、今回の観察研究により、栄養不良のメカニズムに関するより深い洞察が得られただけでなく、血液透析患者の栄養状態の管理に有用な知見が得られたと考えられる。

結論

 われわれは、維持血液透析を受けている患者において、NRI-JHスコアが高いほど長期死亡リスクが高いことを証明した。 栄養不良に対する治療的介入が維持血液透析を受けている患者の生存予後を改善するかどうかを決定するためには、さらなる研究が必要である。

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