おはこんばんちはなら
今回は透析では必ず使用される各種【抗凝固薬】についてご説明しようと思います。
内容が内容なだけに、今回の記事はどちらかというと医療系学生の低学年向けですかね。
まぁそこら辺はちょっと目を瞑って下さい。
凝固線溶のお話は、順番が前後しますがいずれ時間があればで。
では行きましょう。ようこそ抗凝固薬の世界へ
抗凝固薬って何?
さて、この記事を見ている方々で、臨床家であればこの項は読み飛ばしてください(笑)
【抗凝固】とは、読んで字の如く【凝り固まることに抗う】わけです。
血液というのは外因系と内因系をトリガーとして、血液が固まってしまいます。でなければ出血し続けてしまいますからね。
尚、外因系というのは切り傷などの外傷、内因系は何かしらの内出血やプラークの破綻などで起動します。
出血源を凝固因子たちは必死に塞ぎ、治療に取り掛かります。そして傷が塞ぎ終わり、組織の修復が完了すれば、今度は線溶という、プロセスに取り掛かります。
線溶って?
お次は線溶についてのお話。
組織の修復が完了しました。しかし、凝固因子やそれを助ける補体たちがそのままその箇所に居てもらっては都合が悪い。そこで、身体は凝固因子や補体たちに解散命令を発します。それが線溶プロセスです。
この命令を受けて、傷の周りに集まった因子諸々は解散し、体内をゆらゆらとまた遊走し始め、異常があれば再結集し、傷の修復に取り掛かる。というループを始めます。
なぜ透析で抗凝固剤が必要なのか
先ほども述べたように、凝固トリガーには2種類あります。
うち、血液透析を含む体外循環系の治療というのは、血液が常に異物に接触している状態になるため外因系凝固のトリガーに常に指を掛けている状態になります。
トリガーが引かれてしまっては治療が出来ません。そこで、人為的に凝固を阻止し、治療を継続できるようにしました。
この凝固を阻止するプロセスを起こす薬剤の事を【抗凝固薬】と言います。
めちゃくちゃ簡単に小学生でもわかるような前説を置きまして、では続きまして
抗凝固を起こす薬剤たち
学生であれ臨床家であれ、国家試験や実臨床でお目にかからない日はないのが「ヘパリン」です。
その他に、代表的な薬剤に「低分子ヘパリン(LMWH)」「メシル酸ナファモスタット」「アルガトロバン」があります。
これらはあくまで【抗凝固薬】である点に注意が必要です。なぜわざわざこんな事を言うのか?それは【抗血小板薬】という分類の薬剤も存在するためです。
これらは「血液が固まるのを阻止する」という1点においては共通しますが、作用機序が異なる点に注意しましょう。
では各薬剤の概要に移りたいと思います。
未分画ヘパリン
薬剤名:ヘパリンナトリウム
特徴:透析で最も古くから使われているスタンダードな薬。効果は短時間(半減期約1時間)。モニタリングしやすい(ACTで評価)。
作用
- 1.血中のアンチトロンビン(AT)Ⅲに作用することで、アンチトロンビンの活性部位の高次構造を変化させ、標的酵素との反応性を増強する。
- 2.標的酵素とも結合してATⅢとの接触機会を増加させる(template mechanism:鋳型効果
副作用
- 出血の増悪
- 脂質代謝異常
- 血小板活性化作用(高中性脂肪・アポ蛋白以上・FFA上昇)
- 骨脱灰化作用
- アレルギー
- ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
- 電解質異常(高カリウム血症)(!!)
低分子ヘパリン(LMWH)
薬剤名:ダルテパリン、エノキサパリン
特徴:分子量2,000~8,000(約5,000前後)のヘパリンで、抗FXaが主(抗FXa活性を示す抗Xa/トロンビン比は2~5:1)である。半減期はダルテパリンが1.5~2時間、エノキサパリンは3.5~4時間とヘパリンに比べて長時間である。前者はDICに対する持続点滴投与、後者は深部静脈血栓症予防のために皮下注射2回/日である。
作用
- 抗FXa作用が主である
副作用
- ヘパリンと比較し、各種副作用の頻度が低い事が挙げられる。
メシル酸ナファモスタット(NM)
薬剤名:メシル酸ナファモスタット(フサン®)
特徴:半減期は8分と短く、分子量も500MWと小さいため、透析で除去されるので、体外循環時のみで効果を有し、体内では速やかに失活する。
作用
- セリンタンパク分解酵素阻害薬で、トリプシン、ホスホリパーゼA2、トロンビン、FXIIa、FXa、カリクレイン・プラスミンなどに対し、強い阻害作用を有す。また、血液凝固だけの抑制だけでなく血小板抑制作用も有している。
副作用
- アナフィラキシーショックなどのアレルギー
- NM自体が陽性荷電であるため、強い陰性荷電を持つPAN膜(積層型)では吸着・除去を起こし、回路凝固のリスクが高まるため禁忌である。
アルガトロバン
薬剤名:アルガトロバン(スロンノン®)
特徴:分子量530MWの小分子からなる合成抗トロンビン薬である。半減期は30~40分程度。FDAではHIT患者への治療薬または体外循環時の抗凝固薬として承認されている。
作用
- ATⅢ非依存性にトロンビンの活性部位を選択的に結合し、フィブリン生成、FXII、血小板凝集促進を抑制する。
副作用
- 出血を助長するため、出血病変がある場合や術後は使用できない。
- ショック、アナフィラキシーが現れることがある
- 肝障害を有する患者では減量が必要
クエン酸ナトリウム
作用
- 動脈側回路から持続注入することで、血液中のカルシウムイオンをキレートすることにより、血液凝固に必要なイオン化カルシウム濃度を低下させて、凝固・血小板・補体を抑制する。血液中のクエン酸カルシウム複合体は、ダイアライザを通して除去される。
副作用
- クエン酸ナトリウム液の不足により、回路内凝固が生じることがある。
- 過量だと低カルシウム血症が生じることがある
- ダイアライザを通過したカルシウムの量により、低カルシウム血症、高カルシウム血症、高ナトリウム血症、代謝性アルカローシスを起こすことがある。
- 現実的には日本では適当なクエン酸ナトリウム溶液、無カルシウム透析液が市販されていない為、容易ではない
以上が本邦で使用されている体外循環に用いられる抗凝固薬になります。
使用に際する注意点
ヘパリンやメシル酸ナファモスタットにおいては、機序は別々にしても高カリウム血症を発症する可能性がある。という事を念頭に治療にあたるべきかもしれません。
また、ヘパリンと低分子ヘパリンはヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の恐れがります。そうなった場合の対処プロトコルも必要となるでしょう。
筆者も一症例だけ経験がありますが、メシル酸ナファモスタットを積層型患者に使ったことがあります。幸い回路凝固はありませんでしたが、運用に際しては細心の注意が必要ですね。
低分子ヘパリンに関してですが、ダルテパリンとエノキサパリンで半減期が違います。自施設で使用している低分子ヘパリンがどちらなのかを把握する必要があります。また、ショットだけで運用している施設もあるかもしれませんが、患者の感染や風邪などの体調不良は凝固能を亢進させる一因となるため、筆者としては万が一を考え、持続投与も併用することを推奨します。
あとがき
今回は学生向けというか、初学者向けな感じの記事になってしまいましたね。
ただ、この時期だからこそ需要がある・・・と信じまして、記事を上げたいと思います(笑)
抗凝固に関しては、勉強会資料を執筆?してほしいという依頼もあったので、その下地の為にもこの記事を書きました。なので、今度はスライドの作成に取り掛かりたいと思います。
では今回はこの辺で。
まったね~ノシ
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