さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
今回は鎮静のスケールであるRASSと組み合わせて使えるスケールである「CAM-ICU」を取り扱おうと思います。
RASSについての記事はこちら
ICUなどの重症ユニットや人工呼吸器を取り扱う病棟で、せん妄は付き物です。
しかし、「これせん妄?」「そもそもせん妄ってどういう状態?」という方もいるでしょう。
その様な方々に届けばいいなーと思いながら筆を執っています。
では参りましょう。ようこそせん妄の世界へ。
1️⃣ はじめに
人工呼吸器管理では、鎮静の深さをRASSで評価するのが基本です。
しかし——RASSだけでは「覚醒後に何が起きているか」を見逃してしまうことがあります。
そう、「せん妄(delirium)」です。
覚醒したはずの患者が混乱し、点滴を抜いたり、呼吸器を嫌がったり…。
これは決して“性格”の問題ではなく、脳の急性機能障害。
そして、その早期発見に使えるのが「CAM-ICU」です。
2️⃣ CAM-ICUとは?
CAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)は、
せん妄を定量的に評価するために開発されたツールです。
看護師・医師・臨床工学技士など、誰が使っても再現性が高いのが特徴。
🔸開発:Ely EWら(JAMA 2001)
🔸評価対象:ICU入室中の成人患者
🔸目的:せん妄の有無を簡便に、客観的に判定すること
3️⃣ CAM-ICUの評価項目(4ステップ)
| 項目 | 内容 | 判定の目安 |
|---|---|---|
| ① 急性発症または経過の変動 | 意識レベルや注意が急に変化 | 過去24時間で変化あり? |
| ② 注意力の障害 | 例えば「A」と言ったら手を挙げる課題など | 途中で集中が切れる? |
| ③ 思考過程の乱れ | 質問に対する返答が的外れ | 論理が飛ぶ?話がつながらない? |
| ④ 意識レベルの異常(RASS) | RASS ≠ 0(過鎮静または興奮) | 意識障害ありと判断 |
5️⃣ 臨床での使い方例
ケース:RASS −2(軽鎮静)→呼びかけに開眼
CAM-ICU評価で注意散漫・発言混乱あり → せん妄陽性
この場合、鎮静をさらに浅くするより、
環境調整(昼夜の区別・家族面会・光環境)や睡眠サポートが重要になります。
薬剤ではデクスメデトミジンの持続投与が効果的な場合もあります1)2)3)4)5)。
6️⃣ よくある誤りと注意点
- 鎮静が深いのにCAM-ICUを実施(誤判定)
- 鎮痛不足による興奮を“せん妄”と誤認
- 高齢者では反応が鈍く、陰性と判定しやすい
7️⃣ ガイドラインでの位置づけ
SCCM PADIS 2018では、
「ICUではRASSまたはSASで鎮静評価し、CAM-ICUまたはICDSCでせん妄評価を行う」
ことが**強く推奨(Grade 1B)**されています3)。
8️⃣ 臨床工学技士としての応用
RASSとCAM-ICUを定期的に評価できれば、
・人工呼吸器離脱時の安全性向上
・過鎮静/覚醒遅延の防止
・せん妄発生率と薬剤使用量の関連分析
といった研究テーマにも発展可能です。
「鎮静は機械を扱うことではなく、“脳を守る行為”である」
──この視点を持てるかどうかで、臨床の質が変わります。
9️⃣ まとめ
| 評価 | 意味 | 主な活用 |
|---|---|---|
| RASS | 鎮静の深さを評価 | 鎮静薬の調整・人工呼吸器管理 |
| CAM-ICU | 意識の質を評価 | せん妄の早期発見・認知評価 |
あとがき
さて、随分と久しぶりに呼吸器看護の事を書きましたが、いかがだったでしょうか。
今現在、日本の診療報酬制度的には、チーム医療としてRST:呼吸器サポートチームが組まれているのが随分と日常になりましたね。
そのメンバーに臨床工学技士が入ることも珍しくなくなりました。
そのため、こういった鎮静や専門の評価が出来る技士が、一人くらいいてもいいのではないでしょうか。と筆者は思います。
色々と文献を探っていくうえで、薬剤の絡みも嫌でも出ますが、そこはしかたありませんね(笑)一緒に勉強していきましょう!!
さ、ではでは今日もこの辺で!
またねー!!
📚 参考文献・エビデンス
Su X, Meng ZT, Wu XH, et al.
1)Effect of Dexmedetomidine on Delirium and Mortality in Critically Ill Patients: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2016;315(14):1460–1468.
▶ 論文を読む
デクスメデトミジン群ではせん妄発症率が有意に低下。
Pandharipande PP, Pun BT, Herr DL, et al.
2)Effect of Sedation With Dexmedetomidine vs Lorazepam on Acute Brain Dysfunction in Mechanically Ventilated PatientsThe MENDS Randomized Controlled Trial
JAMA.2007;298;(22):2644-2653.
▶ 論文を読む(JAMA)
ロラゼパム群に比べ、デクスメデトミジン群ではせん妄期間が短縮。
Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al.
3)Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU(PADIS 2018).
Crit Care Med. 2018;46(9):e825–e873.
▶ SCCM PADISガイドライン(LWW)
鎮静薬としてベンゾジアゼピンよりもプロポフォールまたはデクスメデトミジンを推奨。
Chen C, Zhang Z, Chen Q, et al.
4)Dexmedetomidine vs other sedatives in critically ill mechanically ventilated adults: a systematic review and meta-analysis of randomized trials
Int Care Med. Volume 48, pages 811–840, (2022)
▶ Meta-analysis(Critical Care)
18試験・3,624例を統合解析。Dexmedetomidineはせん妄発症リスクを約30%低減。
Ely EW, Margolin R, Francis J, et al.
5)Evaluation of Delirium in Critically ill Patients: Validation of the Confusion Assessment Method for the ICU (CAM-ICU).
Crit Care Med. 2001;29(7):1370–1379.
▶ CAM-ICU原著論文
CAM-ICUの妥当性を示した原著論文。RASSとの併用が推奨されている。



コメント