おはこんばんちはなら~。
さてさて、怒涛の骨代謝回転シリーズが終了?したところではありますが、そんな中筆者に執筆依頼が舞い込んできました。
骨代謝回転に関係する因子として存在する「Fetuin-A」について、その役割や骨への取り込み、CPPと血管炎の関連などについて記事にしてほしいな~…と。
筆者もFutuin-Aの存在は名前くらいは知っていましたが、その役割とかについては知る由もありませんでした。
これはいい勉強材料だ!!と思った筆者は、早速飛びつくことにしました。
さぁ!では行きましょう!いざFutuin-Aの世界へ!!
Fetuin-Aとは?──透析とCKD-MBDにおける意外なキープレイヤー
読者の皆さんは「Fetuin-A(フェトゥインA)」という名前を聞いたことがあるでしょうか?
少しマニアックですが、実は透析医療やCKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)の理解に欠かせない重要なタンパク質です。今日はその基本的な性質を、なるべく噛み砕いて解説します。
カルシウムとリンの吸着を防ぐ
Fetuin-Aは肝臓で産生され、血液中に豊富に存在する約54KDaの糖タンパク質です。
最大の特徴は「カルシウムやリンの沈着を防ぐ」こと。血液中にカルシウムやリンが遊離すると、本来は骨に使われるはずのミネラルが血管や軟部組織に沈着し、いわゆる「血管石灰化」を引き起こしてしまいます。
そこでFetuin-Aは、カルシウムとリンを“カルシプロテイン粒子(CPP)”という形に包み込んで、血管壁に沈着するのを防ぐ役割を果たしています。言わば、血管を守る石灰化ストッパーなのです。CPPについては、別記事として紹介しているので、そちらをごらんください!!
炎症で減少する“負の急性期タンパク”
もう一つの特徴が、「炎症が起こると減少する」こと。
Fetuin-AはCRPと逆に動く負の急性期タンパクで、慢性炎症や低栄養状態では血中濃度が下がります。
透析患者では、慢性炎症や栄養不良がしばしば見られるため、Fetuin-Aの低下が進みやすくなります。
CKD-MBDとFetuin-Aの関係
CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)では、リンやカルシウムの異常だけでなく、石灰化抑制因子の欠乏も進行します。
Fetuin-Aはその代表的な分子であり、次のように作用します。
| 影響領域 | Fetuin-Aが十分なとき | Fetuin-Aが低下したとき |
|---|---|---|
| 血管 | 石灰化を防ぎ、柔軟性を維持 | 動脈壁にカルシウムが沈着しやすくなる |
| 骨 | 適度な石灰化を助ける | 骨密度が低下、骨折リスクが上昇 |
| 予後 | 心血管リスク低下、生命予後良好 | CVD・骨折・全死亡率が上昇傾向 |
透析患者での研究エビデンス
複数の臨床研究から、透析患者におけるFetuin-A低値は予後不良のサインであることがわかっています。
- 血管石灰化との関連:
- Cozzolino ら(Am J Nephrol, 2006)は、維持透析患者においてFetuin-A低値群で冠動脈および大動脈石灰化が有意に多いことを報告。
- (Cozzolino M, et al. Am J Nephrol. 2006;26(1):42–49.)
- 死亡率との関連:
- Ketteler ら(Lancet, 2003)は312名の透析患者を対象に、低Fetuin-Aが心血管死亡および全死亡の独立した予測因子であることを示しました。
- (Ketteler M, et al. Lancet. 2003;361(9360):827–833.)
- 骨折との関連:
- Chen ら(PLoS ONE, 2016)は685名の透析患者を3.4年間追跡し、Fetuin-A高値群では骨折リスクが約70%低下することを報告。
- (Chen HY, et al. PLoS ONE. 2016;11(5):e0153781.)
これらはすべて、**「Fetuin-A=血管と骨のバランス調整役」**という考え方を支持しています。
ガイドラインとの関係
KDIGO 2017 や日本透析医学会ガイドラインでは、Fetuin-A測定はまだルーチン化されていません。
しかし、次のような管理はFetuin-Aを間接的に守る戦略と考えられます。
- 血清リン・カルシウムの適正管理
- 炎症源(透析膜、感染など)のコントロール
- 栄養状態(アルブミン、nPCRなど)の維持
これらは結果的にFetuin-Aの低下を防ぎ、血管石灰化の抑制にもつながります。
透析患者での基準値について
これは報告に拠って若干の違いがありますが、大まかな基準値としては
400 μg/mL
とされています。但し、これより多い/少ないからといって、急激に石灰化が進行するというのはどうやら別のようです。
まとめ:Fetuin-Aを意識したCKD-MBD管理へ
- Fetuin-Aは肝臓由来の石灰化抑制タンパク
- 炎症・低栄養で低下しやすく、透析患者で顕著
- 低値は血管石灰化、骨折、CVD死亡のリスク上昇と関連
- 日常診療では、「Fetuin-Aを守る生活習慣・治療戦略」を意識することが大切
Fetuin-Aを直接測る機会は少なくても、
「炎症を抑える」「リンを抑える」「栄養を維持する」ことが、
この小さなタンパクを守り、血管と骨の健康を守ることにつながります。
あとがき
さて、ここまで長丁場お疲れ様でした。
今回は執筆依頼ーというか、話題を提供して頂き、このテーマとさせていただきました。いかがだったでしょうか。
いくつか参考文献もヒットしたので、出来ればその内、論文紹介も出来れば面白いと思っています(そっちの方が勉強になりますしね)。
次はテーマが突然変わりまして、糖尿病治療薬のGLP1阻害薬を掛けたらな~…とか思ってますが、果たしてどうなるのか!!こうご期待!!
では今日はこの辺で!!まったね~!!
参考文献(修正版)
- Ketteler M, et al. Association of low fetuin-A (AHSG) concentrations in serum with cardiovascular mortality in patients on dialysis: a cross-sectional study. Lancet. 2003;361(9360):827–833.
- Cozzolino M, et al. Serum fetuin-A levels link inflammation and cardiovascular calcification in hemodialysis patients. Am J Nephrol. 2006;26(1):42–49.
- Chen HY, et al. Serum fetuin-A and risk of bone fracture in patients on maintenance hemodialysis. PLoS ONE. 2016;11(5):e0153781.
- Moe SM, Drüeke TB, et al. KDIGO 2017 Clinical Practice Guideline Update for the Diagnosis, Evaluation, Prevention, and Treatment of CKD–MBD. Kidney Int Suppl. 2017;7(1):1–59.
- 日本透析医学会. 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)診療ガイドライン. 透析会誌. 2012;45(4):301–356.(2020年改訂案参照)



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