さてさて、今回は「CKD・HD患者への腎性貧血治療薬~適正な選択について考察する~」という勉強会を受けてきたのですが、そこで思い浮かんだ貧血管理の疑問について、記事を書いていこうと思います。
勉強会メインテーマとしてはHIF-PH阻害薬のダーブロックについてのコマーシャル勉強会です。
ただ、この記事は勉強会の内容ではなく、そこから派生した筆者の疑問と、それに対するある程度のアンサーになる予定です。
では行きましょう。腎性貧血の世界へようこそ。
腎性貧血の復習
まずは基本のキ。腎性貧血の病態についておさらいしてみましょう。


腎臓の役割の一つに【造血機能】があります。
透析だけでは造血機能を代行することは出来ません。その為、ESA製剤やHIF-PH阻害薬といった薬剤を使用し、貧血を是正することになります。
貧血管理の目標
保存期CKDと血液透析を受けているESRD患者では貧血管理の考え方が若干異なりますが、目標値は同じでHb : 10.0~12.0 mg/dLと日本透析医学会と日本腎臓学会ガイドラインは提唱しています。
また、数値目標だけでなく、貧血としての症状緩和も重要となります。
当然と言えばそうですが、症状を改善・緩和することにより、患者QoLの向上を目指すことになるのです。
貧血管理における鉄の役割
最初にも説明しましたが、腎臓には造血機能があります。
腎機能の低下とともにエリスロポエチンの分泌は減少し、貧血を呈することになります。
ただ、エリスロポエチンの不足だけでは鉄は必要になりませんよね。
ではなぜ鉄が重要になるのかというと、透析患者は慢性的な炎症状態や低栄養にあるからなんです。
鉄の利用障害
さて、勘の鋭い読者の方であればお気付きかもしれませんが、「なんで炎症や低栄養が鉄の利用障害に繋がるんだ?」と思った読者もいるでしょう。
まず鉄の利用障害がなんなのかを解説しましょう。
貧血の血色素量管理目標は先ほど述べたように、Hb 10.0~12.0 mg/dLです。
しかし、鉄の管理目標というのが別に定められています。ここで鉄の管理目標は
- 100<フェリチン<300 ng/mL
- TSAT>20%
と提唱されています(2026年現在)。
機能的鉄欠乏と絶対的鉄欠乏
鉄欠乏には2種類あります。その説明を軽くしましょう。
機能的鉄欠乏
機能的鉄欠乏とは、体内に鉄はあるにも関わらず正しく利用することが出来ず、結果として貧血が進行する状態の事を指します。この状態を鉄の利用障害といいます。
検査としては、TSAT<20%がこれに該当します。
絶対的鉄欠乏
上記とは違い、絶対的鉄欠乏は体の中の鉄総量自体が減少しており、使いたくても鉄を使えず、造血が出来ない状態を指します。
これはフェリチンもTSATも目標値を下回っている状態を指します。
炎症と低栄養
さて、話を鉄の利用障害に戻して、なぜ利用できないのかの原因を探ってみましょう。
血清鉄=Feは実際に利用されている鉄であるのに対し、フェリチンは貯蔵鉄と言われ、肝臓に蓄えられている鉄の量を指します。
TSATはトランスフェリンと言われる鉄の運搬タンパク質に対して、どれだけ血清鉄が結合しているかを表わしています。結合している血清鉄の量が多いほど、鉄は多く運搬されていることになり、鉄の利用が促進されているというわけです。
ただ、鉄がトランスフェリンに結合するには肝臓から血中に鉄が出ていく必要であります。
その鉄の出納を担っているのがフェロポエチンと言われるシステム系です。鉄はフェロポエチンを通って血中に放出されます。
そして今回の主役がHepcidin(ヘプシジン)-25と言われるホルモンです。
Hepcidin-25とは
実はHepcidin-25についてはすでに別記事で詳細に論じています。

Hepcidin-25は余剰鉄に反応して産生され、フェロポエチンの数を抑制することで、鉄を細胞中に貯め置きます。放出を抑制されたトランスフェリンは、結果として運搬先に運べる鉄が少なくなります。そうなると、造血に使える鉄が少なくなり、貧血が進行してしまうわけです。
さて、ここで問題となるのが「どうすれはHepcidin-25は産生されるのか」です。
ちょっと矛盾してますよね。さっき「余剰鉄に反応して産生され」ると説明したばかりです。
人間の鉄代謝系は半閉鎖系なため、実は鉄の吸収も排出もほぼありません。
ではどこで余剰鉄が発生するのか?それが透析では静注鉄である「フェジン」なんです。
なので、フェジンが投与されなければ鉄過剰にはなりません(遺伝疾患は除く)。
フェジン以外でHepcidin-25が産生される原因はなんでしょう?
ここからようやく炎症と低栄養の話に戻ります。
下の図は、Chat-GPTで作成した腎性貧血に陥るまでのフローチャートです。

中央右に「低栄養/PEW」という項目があります。
この項目から、【免疫脆弱化】と【アルブミン、トランスフェリン低下】という流れが出ています。ちょっと論理の飛躍感は否めませんが、実際には低栄養やPEWによるエネルギー不足からくるMIA症候群様状態を経て、【免疫脆弱化】が起こります。

MIA症候群の話はまた別でするとしまして。
炎症性サイトカイン血症による慢性炎症の遷延によりHepcidin-25が産生されます。Hepcidin-25はフェロポエチンの数を減らす方へ制御し、結果として貯蔵鉄であるフェリチンが増加します。
臨床所見として
TSAT<20% かつ フェリチン>100 ng/mL(JSDT貧血ガイドライン)
により、何かしらの炎症状態にある。と判断できます。
低栄養を是正するのが先か、貧血を是正するのが先か
やっとここまで来たな。という感じです。
さて、Hepcidin-25が産生されると、結果として鉄の利用障害になることは説明しました。
HIF-PH阻害薬は、このHepcidin-25を減少させることで鉄の代謝を促し、造血を促すという働きを持ちます。

HIF-PH阻害薬の詳細に関しては上記の記事をご参照ください。
さて、HIF-PH阻害薬はHepcidin-25を抑制することでフェロポエチンを活性化させ、鉄の放出を促進、トランスフェリンによる鉄の運搬を増やし、TSATの上昇を起こします。
ここで問題というか疑問なのが、低栄養や炎症を無視して貧血を治療してもいいのか?というものです。
これまでは問題意識なく「貧血を治療するのはいい事だ」と思っていましたが、Hb cyclingがあり、且つERIが高いからとHIF-PH阻害薬に変更する事は、対症療法としてはいいですが、根本的な問題の解決にはなっていませんよね。
どちらを先に是正すべきなのでしょう。
貧血を是正すれば栄養状態や炎症、フレイル・サルコペニアが改善するのであればいいですが、そのような報告を筆者は聴いたことがありません。
ある意味面白いテーマではあるんですが、とりあえずこれが今回筆者が勉強会を聴いていて浮かんだ疑問です。
あとがき
さてさて、今回はちょっとだらだらと筆者の脳内を垂れ流す記事にしてみました。
HIF-PH阻害薬自体はとてもいい薬剤だと思います。Hbの急上昇が起こる訳でもなく、Hb Cyclingも是正でき、予後改善には一役買っていると言えます。
但し、KDIGO2026では薬剤費抑制もあるのか、エビデンスの蓄積という観点からESA>HIF-PHiという推奨になっている事にも注意が必要です。
なかなか選択が難しいというか、一長一短な貧血の世界ですね。
では今回はこの辺で。またね~

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