先日執筆した記事の続きに当たるような内容です。
但し、この記事から読んでいただいてもお分かりいただけるよう尽力しようと思います。
ご笑覧頂ければ幸いです。
では行きましょう。その残酷なまでに壮絶な結末を。
高リン血症の何が悪いのか?
これはリン値の患者分布とリン値の全死亡ハザードを調査した文献の図表になります1)。
リン値はどうもJのようなカーブを描き、低くても死亡率が上がり、高くても死亡率が激増するようです。
これを見ただけでも、理由はともかくリンが高い事は悪だ!!というのが分かりますね。1年生の最初の半年はここからスタートでいいとも思います。
高リン血症が持続すると何が悪いのか?
まずリンの代謝経路をおさらい
本来、健常腎であればリンの摂取に伴いリン排泄が促されます。ではそれはどうやって起こるのか?
それが先の記事にも名前だけ登場していたPTH:parathyroid hormone 副甲状腺ホルモンです。
リンは食事より体内に入り腸管から吸収されます。腸管からのリン吸収機構には腸管上皮細胞を介した 1)経細胞輸送(能動輸送)経路と 2)上皮細胞間のタイトジャンクションを介した細胞間隙輸送(受動輸送)経路の二つがあります2)。
腸管から吸収したリンたちの分布は、骨内に85%、軟部組織に14%ほどが、1%以下が細胞外液です。
人間は一日に約1,000mgのリンを摂取しますが、腸管からは800mgが吸収されます。そして糞便中や消化液などから分泌され、差し引き650mが体内へ吸収され無機リンとなります。吸収して増加した無機リンは、尿中から排泄される訳ですが、どのように排泄されるのでしょうか?
それが先にも書いたPTH:副甲状腺ホルモンの働きです。
リンの摂取が促されると、それを排泄しようとFGF23:Fiblobrast Grows facter 23 線維芽細胞増殖因子の分泌が増大します。FGF23の増加は、それ単独でビタミンDの活性化を阻害します。
骨細胞から産生されたFGF23は、腎臓遠位尿細管、副甲状腺などから発現する蛋白であるKlotho(発見者の名前にちなみクロソーとなった。)と結合することによりその働きを活性化させます。Klotho-FGF23結合体は、25(OH)D(活性型ビタミンD前駆体)を活性型ビタミンDへ変換する酵素である1α-水酸化酵素の活性を低下させます。これにより活性型ビタミンDの低下は腸管からのP,Ca+の吸収を低下させます。Caの吸収低下をトリガーとしてPTHが刺激され、分泌が亢進することで、骨細胞からのCa+の遊離とリン酸トランスポーターである腎近位尿細管刷子縁膜に存在するtype Ⅱ a Na/Pi, type Ⅱ c Na/Piからのリン排泄が促され(本来、近位尿細管で80%が再吸収される)、それと共に遠位尿細管でのリン再吸収が阻害されます。このサイクルによりリンの恒常性は維持されると考えられています3)4)。
これにてP,Ca+の代謝に関する項は終わりです。
末期腎不全での作用
上記で説明したように、血中リン濃度の上昇は回りまわってPTHの濃度を上げる方向に作用します。PTHとしては、分泌を亢進させることによりリンの排泄を促進したいわけです。しかし、GFRが低下した腎臓はネフロンの退廃によりKlothoの発現量が減少します。こうなってはFGF23との複合体を作ることは難しくなります。事実、GFRの低下初期からリン負荷上昇に呼応するようにFGF23の血中濃度は上昇を始めます。その為、血清リン濃度はGFR低下初期では上昇が見られないのです。腎臓がリン排泄を促そうと頑張るからですね。
しかし、尿量の減少により血清リン濃度はついに目に見えて上昇を始めます。リンの上昇によりPTHは分泌が亢進し、それが恒常的な状態となります。これを二次性副甲状腺機能亢進症といいますね。
PTHの分泌は、リンの排泄以外にもう一つ、骨からのCaの遊離という作用を有します。
しかしこれはとても都合が悪いことなのです。
(複合体を作ることが出来ない)FGF23は、それ単体で活性化ビタミンDの作成を低下させる作用がありましたね?活性化ビタミンDは腸管からのP,『Ca+』の吸収を促進します。つまり、今は真逆の状況です。
Ca+の吸収量は減っているのに、骨からはどんどんCaが逃げていく。そうなっては骨が脆くなる一方です。これが俗にいう骨粗鬆症です。
これがCKD-MBDでのP,Ca,PTHの(本当に)大まかな機序になります。
そしてリンの高値が持続することによる病態の一側面となります。
あとがき
今回も長文駄文にお付き合いいただき誠にありがとうございました。
CKD-MBDの話はまだまだ終わりません。
しかし、リンがなぜ正常値達成の1st targetなのか。リンがどのように人体に害を為すのか。その入り口だけでも垣間見えたのではないでしょうか。
英語論文を引用文献に出来ていないあたり、まだまだレベルの低い記事ではありますがご了承いただければと思います。
ご意見・ご質問は随時受け付けていますので、何なりとご連絡ください。
ではまたどこかで。
引用・参考文献
1)Taniguchi M, Fukagawa M, Fujii N, Hamano T, Shoji T, Yokoyama K, Nakai S, Shigematsu T, Iseki K, Tsubakihara Y;Committee of Renal Data Registry of the Japanese Society for Dialysis Therapy. Serum phosphate and calcium should be primarily and consistently controlled in prevalent hemodialysis patients. Ther Apher Dial 2013;17(2):221‒228.
2)腸管ナトリウム依存性リン酸トランスポーターのリンセンサーとしての分子動態 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 辰巳 佐和子
3)FGF23とCKD-MBD ,福 本 誠 二,日腎会誌 2014;56(8):1210‒1217.
4)1. リンバランスの調節機構-第49回日本透析医学会シンポジウムより , 瀬川博子 伊藤美紀子 桑波田雅士 宮本賢一 ,透析会誌37 (12): 2043~2045, 2004
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