近年、テレビCMなどで“おうち透析”という言葉を耳にしませんか?けれど実際どんなものか、イメージしづらいかもしれません。本記事ではそんなおうち透析と言われる透析方法について解説できればと思います。
そもそも透析って何?という方も大勢おられるでしょう。そういう方に向けた当ブログの記事は下記をご覧ください!
一般の方にも分かり易く「おうち透析」とは何か?を説明できたらと考えています。
ではお付き合いください。
在宅透析の世界へようこそ!
はじめに
血液透析とは何か?は先述した記事をご覧いただくとしまして、今話題になっているのが「おうち透析」と「通院透析」の2種類があります。
このYouTubeは、株式会社ヴァンティブが広報している血液透析に関するTV CM動画です。
この中で「おうち透析」として【腹膜透析:Peritoneal Dialysis(以後、PD)】と【在宅透析:Home HemoDialysis(以後、HHD)】が紹介されています。
つまり、おうち透析といっても世界には2種類の選択肢があることになります。
腹膜透析と在宅透析って?
さて、おうち透析には2種類の選択肢がありますが、これは何が違うのでしょうか。少しご説明しましょう。
腹膜透析:PD
腹膜透析:PDとは、腸や腹腔臓器とその周り(腹腔)を隔てる腹膜という薄い膜を介して、体の中に溜まった毒素(=尿毒素)を、腹膜の外(お腹の中)に入れた透析液と拡散を通して交換し、取り除く透析方法です。
特徴として、針を刺さず、お腹に設置した管(=カテーテル)を通して行われ、自宅に居ながら、寝ている間も行えるというのがあります。
勿論メリットデメリットはありますが、それはまた機会があれば。
在宅透析:HHD
在宅透析:HHDは、通院して行っている血液透析を、自宅で自分で行う方法です。
通常、通院透析は週3回の血液透析を病院で行います。それに対し、在宅透析はご自身のタイミングで日中や夜間に、好きな時間だけ(最低4時間が望ましい)行うものです。
筆者と長い付き合いがある在宅透析患者さんでは、すでに20年以上血液透析を行っている方もいます(毎日8時間のHHDを就寝中にです)。
ちょっと休憩ーコラムー
HHDは、通院透析とは違う透析指標で透析の効率(=どれだけしっかり血液透析を回せているか)を見ます。その指標のことをHDP:Hemodialysis Productといいます。
特徴としては、針は自分で刺さなければならず、機械のセッティングも自身で行う必要があります。場合により自宅のリフォーム工事が必要ですが、その場合には自治体からの補助が出ることもあるので、通院先の医療ソーシャルワーカー(MSW)と相談してください。
おうち透析としての【在宅透析】
さて、おうち透析としてのPDに関しては、株式会社ヴァンティブがCMをたくさん打っているので、詳細はそちらに譲るとしましょう。
筆者は血液透析を業とする人間なので、ここではHHDのお話を出来ればと思います。
ではまずメリットデメリットをご紹介しましょう。
メリット
HHDの最大のメリットは、透析回数の最大化(長時間頻回透析)になります。
通院透析は週3回、長くても6時間が限界なのに対し、HHDは毎日最低4時間、長ければ就寝中の8時間行うことが出来ます。
血液透析は、より長い時間を掛けて行えば行うほど、尿毒症物質が除去されることが分かっています。また、毎日透析を行うことで、体重増加も少なくなり、より緩徐に水引を行うことで、体重の増減幅を少なくすることが出来るため、心臓への負荷も少なくなります。
体内に溜まる尿毒症物質や不必要に増えた電解質(リンやカリウム)を毎日除去する事で、身体はより健常者に近い状態を維持することが出来るため、より長寿命な人生を透析と共に歩むことが可能となるのです。
また、尿毒素の十分な除去は、服薬数の減少に繋がります。
一般的な透析患者の服薬錠数は20錠前後/日と言われており、この問題を我々透析医療従事者は、「ポリファーマシー問題」として問題視しています。
しかし、上記で紹介した筆者の友人は、逆にリン低下薬などは飲むことなくこの20年以上を過ごしています。どうしても透析だけではカバーすることが出来ない貧血などに関しては別でしょうが、それでも、1日に飲む薬の数が減ることは、患者の負担や国の財政状況に大きく寄与することが出来るため、HHDは期待されているのです。
デメリット
と、いい事ばかり述べましたが、ただし以下の点には注意が必要です。
リスク
まず、在宅透析をするに当たり、独身者を除き、家族の協力がなければなりません。そして、特に本人に対しての徹底したトレーニングが施設で行われることになります。
まず腎不全とは何か。血液透析とは何をするのか?を座学で習った後、簡単なテストを実施します。それが修了すると、今後は実際に機器の操作方法やセッティング(血液回路の組み立てや洗浄)を学び、トラブルシューティングについて学習します。
最終段階は、自己穿刺と言われる、自分で自分の血管に針を刺すトレーニングを開始します。安定して針を刺す行為が出来るようになってくれば、あとは施設で少しの間、スタッフ見守りの下、実際に透析を行い、トラブルに対処できるかなどを経過観察し、最終的な判断を医師が行いGOサインとなります。
ここまでを最低3カ月、標準的には約半年を掛けて行います。もし手技的な部分や知識が不足している。家族の協力が得られない。という判断が下った場合には、HHDを行うことは出来ません。
ここまでは患者自身の事について述べました。次は自宅環境です。
準備
透析装置の設置。透析に使用する綺麗な水を作成する装置の設置、そして透析液や薬剤、人工腎臓(ダイアライザーと言います)を設置する場所の確保が必要となります。
その為、電気容量の格上げを電気会社へ依頼することや、資材置き場や機器置き場の確保のためのリフォーム工事が必要な場合が多々あります。お金は掛かりますが、この場合のリフォーム資金は、自治体によっては補助を受けることも可能です。
費用
実際にHHDを始めた場合、今度は水道代がとてつもなくかかる筈です。これについても、補助はあると思いますので、始める場合はお住みの自治体へお問い合わせください。
ながながとデメリットを書きました。
しかし、長期間に及ぶこれら訓練は、必ずや患者さん本人の命を救ってくれます。その為にも、挫折を経験しながらでも、身に着けてください。その先に待つのは、より自由な生活が待っているはずです。
HHDの現状について
さて、お次はHHDの現状についてです。
2023年末時点で、日本の透析患者数は343,508人です。これに対し、在宅透析の患者数は799人です1)
単純計算で0.002%という割合になります。
この割合の低さの原因に、一つは対応施設の少なさがあります。
これら知識や手技を、何の予備知識もない一般人に教育する側にも教育が必要ですが、その経験の無さや責任の所在、トラブル対応の為の人員確保(自宅訪問)が施設側の課題として持ち上がります。その為、中々HHDの普及には至りません。
二つ目は、導入患者の高齢化が挙げられます。
2023年末時点で、日本の透析導入患者の導入平均年齢は71.59歳2)と高齢化しており、ここまで高齢化した患者に対して、上記の様な知識とトレーニングを積むことは現実的ではありません。患者の高齢化ということは、同居する家族も高齢化しているということであり、家族の協力を得るのは難しくその点も患者数の増加を抑制している原因の一つと言えるでしょう。
上記二つの課題をクリアすることが出来れば、あとは患者自身の自助努力により、どうにでもなる。ということです。
最後に
さて、おうち透析としての在宅透析について長々とお届けしてきましたがいかがでしたでしょうか。
HHDを実施することは、並大抵の努力ではありません。
しかし、その壁を乗り越えた先には、通院透析では見ることのできない景色が広がっている事も事実です。
通院による時間的拘束や就業制限、そして食事飲水制限と、血液透析には制限が付き物なイメージですが、在宅透析はそのありとあらゆる制限を取っ払う事が可能となる、唯一といって良い治療方法です。
壁はありますが、選択肢として知っておいてほしい方法です。主治医や臨床工学技士に相談してみましょう!
あとがき
さてさて、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
おうち透析について、少しはイメージが湧いたでしょうか。
先にも述べた通り、おうち透析(PDやHHD)を実施している施設というのは極少数というのが現実です。しかし、患者側からプッシュすることで、医療を変えていけることは可能です(勿論、感染など諸々のメリットデメリットを理解している事は必要ですが)。
また、ポリファーマシー問題に絡み、処方数や合併症の減少は、結局は日本の社会保障費の負担軽減につながることも事実であり、これは現役世代の負担軽減にも繋がります。
このためにも、おうち透析の実施を推し進めることは必要と考えます。
我々透析医療従事者も、これらに対して真摯に向き合っていかなければいけませんね。
では長々と書いてもキリがないので今回はこの辺で。
ではまた!!
1)第1章2023年慢性透析療法の現況 , 2023年末の慢性透析患者に関する集計 , 日本透析医学会
2)第3章2023年透析導入患者の動態 , 2023年末の慢性透析患者に関する集計 , 日本透析医学会






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