先日公開した記事にて、「リポソーバーやレオカーナの使用にはFontaine分類が用いられる。」という文言を織り込みました。
しかし、これまで当ブログでFontaine分類に関しては扱ってきませんでした。
いきなり扱って「なんやこれ?」となっても面白くないからです。
また、長い間日本の下肢虚血臨床でお馴染みだったFontaine分類やRutherford分類に代わり、CLTI:包括的高度慢性下肢虚血という概念と共にWIFI分類という新しい評価スケールが登場しました。
今後は徐々にWIFI分類に評価スケールが取って代わって行くことでしょう。
それを踏まえ、先取りして分類を整理・理解することは、現場で重宝がられ、人事評価にも繋がるでしょう。
筆者も知識の整理がてら、記事を執筆していきたいと思います。
よろしくお願いします。
まずはFontaine分類について
その歴史
時を遡ること1954年、ドイツのR・Fontaineによりこの評価スケールが発表されました1)。
無論、Fontaine分類の名は、著者から取られています。
元文献が古く、またドイツ発ということもあり、PubMedでさえヒットしないあたり歴史を感じますね。
分類について
こちらはまぁまぁ大雑把です。まぁ仕方ありませんよね。1954年の技術ではこれが精いっぱい…というより、それでも分類を作ったフォンテイン医師には敬服です。
簡単に見えました??まぁ簡単ですよね。分類としては4度まで。評価基準もこの4つだけです。
では詳細していきましょう。
I度
I度は下肢動脈の狭窄は認めるものの、歩行に問題はありません。運動や長時間の歩行により、下肢の冷感やしびれが見られることもありますが、比較的短時間で軽快します。
ここで肝なのは「下肢動脈の狭窄は認める」という文言です。検査で言えばどこからが狭窄なのか?ですよね。
ABI:ankle-brachial (pressure) index 足関節上腕血圧比では、1.00~1.40未満を正常値としています。
1.4以上を異常高値とし、0.91~0.99を狭窄疑い、0.9以下を狭窄あり(LEAD)としています3)。
無症候性のLEADも含めれば、ABIの検査値は0.99以下なら1度でもいいかもしれませんね。
II度
II度の間欠性跛行からは、歩行中に下肢に痛みや倦怠感が出現することがあります。但し、歩行を中断すれば ー 要するに休み休み動けば歩行は可能。ということです。痛みや倦怠感の理由は、狭窄や閉塞により末梢に必要な酸素が供給できない事から生じます。
比較的長時間の歩行が可能な場合をIIa(軽度)、短距離で痛みや倦怠感が出現する場合をIIb(中等度~重度)として細分化する場合もあります。
III度
III度は下肢の主幹動脈などの狭窄・閉塞により、安静にしていても下肢の痛みが続きます。
下肢を心臓より下にすると血流が若干改善されるのか、寝る場合に足を下ろしている患者もいるのだとか。
IV度
IV度では重度の狭窄・閉塞が起こっており、些細な傷でも傷の治りが遅い、もしくは感染を起こし壊死が広がり、最悪切断という事態に陥ります
なお、III/IV度はLEADの中でもCLTI:包括的高度慢性下肢虚血になります。ここまで疾患が進行してしまった場合は、カテーテル治療か外科的バイパス術を行う外ありません。放置すれば、先にも述べたように部分は違えど、小切断・大切断となるでしょう4)。
Rutherford分類について
その歴史
一方、Rutherford分類は比較的最近で、1997年の登場です。
こちらがメジャーでない理由としては、客観的基準がしっかりしている分、検査などに手間がかかってしまうためだと思われます。
但し、比較的新しく、まだ客観的事実がはっきりしているということからか、PubMedでの引用数は2023年4月時点で3961紙となっています。凄いですねーほんと。
分類について
打って変わってこちらはとても科学的な見地から虚血を評価しています。科学様様です。
ラザフォード分類は、このように客観的なデータに基づきCLTIを正確に診断しようと試みたようです。
足関節圧(ankle Pressure : AP), 趾動脈圧(Toe Puressure : TP), 肺血管抵抗(Pulumonary Vascular resistance : PVR)、運動負荷試験による歩行距離などの「数値」も加味された客観的な評価が可能です4)。
APでは、ドプラ法とオシロメトリック法の2種類があり、前者では12㎝幅のマンシェットで駆血し、ドプラ聴診器を用いて足背動脈と後脛骨動脈の収縮気圧を測定します。後者では、足首に伝わる動脈拍動をカフ内圧の振動としてとらえ、その強さによって収縮期圧を求めます3)。
TPはSPP(skin perfusion pressure):皮膚組織灌流圧と強い相関がある6)とされているため、現在ではSPPを検査として用いられることが多く、SPPでは、一般に30~40㎜Hg未満では創傷治癒の可能性は低いとされています7)-11)。
PVRはスワンガンツカテーテルで測定する為、下肢の為だけどいう意味では臨床的には非現実的な検査であり、機会があれば記事にしたいと思います。
そしてWIFI分類
歴史
WIFI分類は言うまでもなく最新の虚血・感染・潰瘍に対する評価スケールです12)。
このWIFI分類が登場するまでの臨床上の主役は上記2つの分類でした。しかし、近年発展途上国や先進国を問わず、爆発的な糖尿病の増加により、PADは大きな臨床上の課題となってきています。糖尿病の合併症には末梢神経障害がある訳ですが、血管の狭窄と相まって、虚血による感染や足病変が急増しています。そうした社会の疾病構造の変化に伴って、虚血以外の原因を含んだ包括的な足病変評価方法を必要とする社会的背景がWIFI分類を登場させたと言えるかもしれません12)。
分類について
WIFIという言葉は、”W”はWound つまりは足部創, “I”はIschemia、すなわち虚血重症度、”Fi”はFoot Infectionつまり足部感染の程度を示しています。そしてこの3つの組み合わせでWIFI stageが決定します。
ということで、ここからは3項に分けての解説となります。お付き合いください。
Wound grading
ここでは足部創傷の状態を評価し、各状態にあったグレードを解説していきます。
0~3までの4グレードで創部の状態を評価します。創の評価であり、虚血ではないので、すでにグレード0で安静時疼痛を認めることにも注意が必要です。
また、創の状態が2つの創グレードに跨るような場合には、上記「臨床的描写」が最終的にどちらのグレードに当てはめるかの決め手となります。
Ischemia grading
こちらは下肢虚血に対する4グレードです。これまでの評価を踏襲したものではありますが、ABI≧0.80からスタートしている点に注意が必要です。日本ではこれまで0.90≧が狭窄、閉塞の診断基準となっていました。最重症がABI≦0.39という数字ですが…想像するだけでぞっとしますね。果たして四肢は温存されているのでしょうか。
Foot Infection Grading
こちらは下肢の感染状況を客観的に判断するためのスケールで、4グレードとなっています。
虚血はそれ自体が感染を複雑にしたり重症化したりすることがあります。全身性感染は、時に上記とは異なる兆候、即ち血圧低下、錯乱、嘔吐、あるいはアシドーシスや低血糖、高窒素血症などの代謝異常などとして症状を表します。
総合的に診ると
上記は包括的高度慢性下肢虚血の診療に関するGlobal Vascular Guidlinesポケットガイド日本語訳版13)から引用しています。根拠部分にもある通り、創の重症度が増す毎に切断のリスクは高まり、しいては全身の予後にも関わってきます。
3要素がグレード毎に色付けされており、重なる部分で重症度、および予後が変わってきます。
透析患者は非透析患者と比して、その予後は尚の事悪いことは周知の事実であります。その為、足病変の発見は予後を伸ばすことにつながるため、フットケアは重要視されています。
あとがき
以上、さわりだけですがFontaine , Rutherford , そしてWIFI分類を説明してきました。
WIFI分類は3要素を絡めて的確に予後を示すため、臨朱現場では大変重宝するものと思われます。
また、透析患者に下肢虚血はつきものであり、SPPを技士が測定している施設も多いのではないでしょうか。
その為、ABIやSPPの値を把握し、日常診療に繋げることが出来ればと思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
1)Fontaine R, Kim M, Kieny R: Die chirurgische Behandlung der peripheren Durchblutungsstorungen. Helv Chir Acta 21: 499-533, 1954
2)Rutherford RB, Baker JD, Ernst C, et al : Recommended standards for reports dealing with lower extremity ischemia: revised version. J Vasc Surg 1997;26(3): 517 – 38.
3)循環器病ガイドラインシリーズ(2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン))
4)木村眞樹子、 Fontaine(フォンテイン)分類 、ナース専科
5)木村眞樹子 , Rutherford分類(ラザフォード分類), ナース専科
6)Tsai FW, Tulsyan N, Jones DN et al: Skin perfusion pressure of the foot is a good substitute for toe pressure in the assessment of limb ischemia. J Vasc Surg, 2000, 32: 32–36.
7)Suzuki K, Birnbaum Z, Lockhart R. Skin Perfusion Pressure and Wound Closure Time in Lower Extremity Wounds. J Am Coll Clin Wound Spec 2017; 9: 14-18. PMID: 30591896
8)Kimura T, Watanabe Y, Tokuoka S, et al. Utility of skin perfusion pressure values with the Society for Vascular Surgery Wound, Ischemia, and foot Infection classification system. J Vasc Surg 2019; 70: 1308-1317. PMID: 31113720
9)Castronuovo JJ Jr, Adera HM, Smiell JM, et al. Skin perfusion pressure measurement is valuable in the diagnosis of critical limb ischemia. J Vasc Surg 1997; 26: 629-637. PMID: 9357464
10)Yamada T, Ohta T, Ishibashi H, et al. Clinical reliability and utility of skin perfusion pressure measurement in ischemic limbs ̶Comparison with other noninvasive diagnostic methods. J Vasc Surg 2008; 47: 318-323. PMID: 18241755
11)Pan X, You C, Chen G, et al. Skin perfusion pressure for the prediction of wound healing in critical limb ischemia: a meta-analysis. Arch Med Sci 2018; 14: 481-487. PMID: 29765431
12)Mills JL Sr ,Conte MS ,Armstrong DG. et al. The Society for Vascular Surgery lower extremity threatened limb classification system : risk stratification based on wound , ischemia , and foot infection (Wlfl).J Vasc Surg.2014;59:220-34.
13)包括的高度慢性下肢虚血の診療に関するGlobal Vascular Guidlinesポケットガイド日本語訳版
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