おはこんばんちはなら
さてさて、前回までの3記事は栄養指標シリーズと題してお送りしました。
今回はそれとは対極に位置する「栄養障害」にスポットを当てて解説出来ればと思います。
高齢者医療に直面してしまう今、栄養障害は切っても切れない課題です。
それは透析医療でも当てはまります。導入年齢は上がり、透析年数は伸び、透析人口全体の年齢は押しあがり…と、理由を上げればきりがありません。
さて、では参りましょう。
栄養障害の世界へようこそ。
フレイルとは?
さて、フレイルとはそもそも何なのか?という話から始めましょう。
そもそも、フレイルとは日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、
Frailty : (虚弱)
の日本語訳です。
概念なため、これに対する定量的な評価というのは難しいかもしれませんが、それでも「こうなったらフレイルだよ」というのはあります。
どういう状態がフレイル?
フレイルとはずばり、要介護へと突入する前の健康から一歩悪化した状態を指します。
具体的には、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。
フレイルの原因
フレイルの原因というのは複雑で、様々な側面の要因が絡み合って起こります。
これ単一でフレイルだ!!というのは難しいのかもしれません。
というのも、フレイルは様々な要因が重なり発症するとされているからです。
具体的には
- 社会的要素:孤立、孤食、筋力低下e.t.c.
- 身体的要素:低栄養、口腔機能障害、運動器障害e.t.c.
- 精神・心理的要素:軽度認知障害、うつ、認知症e.t.c.
これら3つの要因が重なり、結果としてADLの低下や生活機能障害を引き起こし、フレイルとして現れるのです。
フレイルの診断
フレイルは上記でも説明したように、単一の原因で診断される訳ではありません。しかし、何かしら定量的な評価基準がない事には対策のしようがないのも事実です。そこで様々な診断基準が作られました。
そのうちの一つにFriedが提唱した診断基準があります。
- 体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
- 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
- 歩行速度の低下
- 握力の低下
- 身体活動量の低下
上記5項目の内、3項目以上が当てはまった場合をフレイル、2項目以下の場合をプレフレイルとして診断する。というものです。
また、国際フレイル・サルコペニア研究会議(ICFSR)により、国際的な定義と管理基準も設けられているようです2)。ガイドラインなだけあって、体系的にまとめられており、機械翻訳だけでも十分に耐えれる文章なのではないでしょうか。
但し、ガイドラインのlimitationには、健常者とプレフレイル、フレイル、を比較検討したRCTの数の少なさや被験者(特にフレイル患者)の離脱の多さに言及しており、その点においてエビデンスが低い事が強調されています。その点で、ガイドラインの取り扱いには注意が必要です。
透析とフレイル
透析とフレイル(虚弱)は切っても切れない関係にあるようで、その問題は世界的な規模にまで拡大しています3)。
Anaら3)によると、CKD患者では年齢に関係なく、すでにフレイル、プレフレイルの状態にあるとし、ESRDの患者では、実に2/3がフレイルであるとしています。その為、フレイルに対する対策は急務であるとしており、フレイルの対策は、ひいては医療従事者の負担軽減にもなるとしています。
透析患者の年齢別に関しても、40歳未満の患者の44.4%から80歳以上の患者の78.8%まで増加した。とあります。
フレイル状態の透析患者は、地域における高齢者と比較しても有病率が有意に高い(30~42%)とされており、入院や死亡リスクの増加とも関連しています。
透析と運動療法
透析界隈では最近話題になりつつある運動療法。そのきっかけとなったのは2022年の診療報酬改定での【透析時運動指導等加算】新設です。
この加算では、次のような運用をするよう診療報酬に記載されています。
J038 人工腎臓
注14
人工腎臓を実施している患者に対して、医師、看護師、理学療法士又は作業療法士が、療養上必要な訓練等について指導を行った場合には、透析時運動指導等加算として、当該指導を開始した日から起算して90日を限度として、75点を所定点数に加算する。
これの実施要綱としては、J038の通知(25)に詳しい記載があります。
(25) 「注 14」に掲げる透析時運動指導等加算については、透析患者の運動指導に係る研修を受講した医師、理学療法士、作業療法士又は医師に具体的指示を受けた当該研修を受講した看護師が1回の血液透析中に、連続して 20分以上患者の病状及び療養環境等を踏まえ療養上必要な指導等を実施した場合に算定できる。実施した指導等の内容を実施した医師本人又は指導等を実施した理学療法士等から報告を受けた医師が診療録に記録すること。なお、入院中の患者については、当該療法を担当する医師、理学療法士又は作業療法士の1人当たりの患者数は1回 15人程度、当該療法を担当する看護師の1人当たりの患者数は1回5人程度を上限とし、入院中の患者以外の患者については、それぞれ、1回 20人程度、1回8人程度を上限とする。
と、中々に運用のハードルは高く、また講習を受講しなければならなかったりと結構面倒な側面もあります。しかし、フレイルの予防は医療従事者の負担軽減になるだけでなく、患者の予後を大きく左右するものであることも忘れてはいけません。
あとがき
今回は栄養障害シリーズと題して、第1弾にフレイルをご紹介しました。
ただ、意外にも勉強をしだすと沼りだす恐れが出てきたので、そこら辺は自己判断でお願いいたします(笑)
次回の栄養障害シリーズは、サルコペニアについてをご紹介出来ればと思っています…が、いつになるやら…
さて、では今回はこの辺でお暇致します。
また次の記事で~
1)アクティブシニア「食と栄養」研究会 ; フレイル
2)E. Dent , J. E. Morley , A. J. Cruz-Jentoft , L. Woodhouse , L. Rodríguez-Mañas , L. P. Fried , J. Woo , I. Aprahamian , A. Sanford , J. Lundy , F. Landi , J. Beilby , F. C. Martin , J. M. Bauer , L. Ferrucci , R. A. Merchant , B. Dong , H. Arai , E. O. Hoogendijk , C. W. Won , A. Abbatecola ,T. Cederholm ,T. Strandberg ,L. M. Gutiérrez Robledo , L. Flicker ,S. Bhasin , M. Aubertin-Leheudre , H. A. Bischoff-Ferrari, J. M. Guralnik ,J. Muscedere , M. Pahor , J. Ruiz , A. M. Negm , J. Y. Reginster , D. L. Waters , and B. Vellas ; Physical Frailty: ICFSR International Clinical Practice Guidelines for Identification and Management ; J Nutr Health Aging. 2019; 23(9): 771–787.
3)Ana Pereira , Luís Midão , Marta Almada , Elísio Costa ; Pre-Frailty and Frailty in Dialysis and Pre-Dialysis Patients: A Systematic Review of Clinical and Biochemical Markers ; Int J Environ Res Public Health. 2021 Sep 11;18(18):9579.
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