今回は少し趣向を変え、臨床に即した指標の使い方と題しましてnPCRの求め方をご説明したいと思います。
純粋なnPCRの求め方については、こちらをご覧ください。
一度は記事にした本話題、何故今更また書くのか?それも踏まえてご説明していければと思います。
では行きましょう。nPCR第2弾へ。
理論的nPCRの求め方
さて、前回のnPCRの記事内でも散々説明した導出式ですが、今一度おさらいしてみましょう。
まずは標準化PCR : nPCRを求める式について
$$nPCR=\frac{PCR}{BW}・・・(1)$$
透析においてBWはDW、もしくは透析後体重(IBW)を用いるのが一般的だと思われます。ここでは一旦この話題はこのくらいにしまして、次はPCRの求め方です。
$$PCR=(G+1.2) \times 9.35(g/day)・・・(2)$$
Gは尿素産生速度です。そこに係数を掛けます。そして1日当たりのタンパク質摂取量を掛けます。
最後にG:尿素産生速度 の求め方
$$G=(BUN next pre – BUN post)×(\frac{V}{\Delta t})・・・(3)$$
となります。
ここでBUNnext preは次回透析時の透析前BUN濃度、BUNpostは現在の透析後BUN濃度です。Vは体液量、Δtは次回までの透析時間=尿素の産生時間になります。
臨床に応用するには?
さて、理論的導出に関してはこの辺りで終わりにしたいと思います。
今回この記事を執筆する切っ掛けになったのは上記(3)式の壁にぶち当たったからです。
実臨床において、第1週採血日の次の透析日に、わざわざBUNの為だけの採血をするでしょうか?恐らくそんな採血を行っている施設はほぼ皆無でしょう。コストやリスクを考えれば無駄としか言えないからです。
ではnPCRを求めることはできないのか?
そんなことはどうもないようです。引用文献1)では、1session中において、前後の採血からPCRを求める方法を考案しており、統計的にも正の相関を示すなど、成績は良好なようです。
では論文中の導出に関して、スポットを当ててみましょう。
血液透析前後の尿素窒素値による蛋白異化率測定
論文中にはlimitationもしっかり書かれているのですが、その点に注意すれば実用に耐えうるのではないでしょうか。
まず、使用するのは1コンパートメントモデルです。
そして、前提条件として
- 1)安定した状態では1週間のN値の変化パターンは一定であり,次週第1回目の透析前BUN値は週第1回目の透析前BUN値と一致する
- 2)尿素は透析問でのみ産生され,透析中の尿素産生は無視できる
- 3)尿素産生速度は一定である
- 4)除水に伴う透析効率は無視できる
- 5)残存腎機能は0とする
- 6)透析条件が変わらなければ除去率は各透析で一定である
- 7)尿素スペースは各透析および透析問で一定であり,基礎体重の60%である
となっています。裏返せば、これがLimitationです。
週第1回目、2回目、3回目の透析前後のBUN値をそれぞれC1~C6 mg/dLとし、総体液量(V)はここでは基礎体重(BW)となっています。
条件7より
$$V=0.6 × BW$$
となります。
条件6より
$$\frac{(C_1-C_2)}{C_1}=\frac{(C_3-C_4)}{C_3}=\frac{(C_5-C_6)}{C_5}=一定$$
この式を変形させると、
$$\frac{(C_2)}{C_1}=\frac{(C_4)}{C_3}=\frac{(C_6)}{C_5}=一定=K$$
さらにこの式は
$$C_2=KC_1,C_4=KC_3,C_6=KC_5$$
となります。
透析時間をT時間とすると、1回目から2回目の透析前までの時間は48-T時間であり、この間に産生される尿素量は、尿素産生速度をGu(mg BUN/min)とすると、Gu×(48-T)×60となります。以上から、週第2回目の透析前では次式が成り立ちます。
$$C_3=C_2+Gu×(48-T)×\frac {60}{V×10}$$
となります。この式は条件7より
$$C_3=C_2+Gu×(48-T)×\frac {10}{BW}$$
次週第1回目の透析前では
$$C_1=C_6+Gu×(72-T)×\frac {10}{BW}$$
が成り立ちます。
次週第1回目の透析前の式に各々の式を代入すると、Guを求める次式を得ます。
$$Gu=(C_1-K^2×C_2)×\frac {BW}{(K^2×(48-T)+K×(48-T)+(72-T))×10}$$
Guより、PCR(g/day)は次式によって求められます。
$$PCR=(Gu+1.2)×9.35$$
蛋白異化率の導出としてはここで終了になります。
しかし、ここまで実際に計算をした方は違和感に気付くかもしれません。PCRの数値がとてつもなく大きなことを。
そう。これの単位が【g/day】な為です。
なので、標準化蛋白異化率【g/day/kg】へと変換する必要があります。
なので、本来の導出式である
$$nPCR=\frac{PCR}{BW}・・・(1)$$
へと代入する必要が出てきます。
これで漸く私たちが見慣れた数値:nPCRへと変換される訳です。
基準値は?
さてさて、ここまで導出について長々と説明してきた訳ですが、では基準値をおさらいしてみましょう。
$$基準値:0.9~1.2[g/day/kg]$$
詳細は先の記事に譲りますが、基準値だけはしっかりと押さえておきましょう。
筆者の活用方法
これを実臨床に応用すべくExcelと格闘していた筆者ですが、最初はPCRを求めてしまったがために「偉い数字だなんだこりゃ!?」と一人ビックリしていました。ですが、トリックに気付けば何のその。訂正していつも通りの数値に落ち着き、事なきを得ました。ではその数式を披露したいと思います。

セルの解説ですが、B列には透析前BUN、C列には透析後BUN、D列には透析時間[H]、F列に尿素産生速度、G列に蛋白異化率、H列に標準化蛋白異化率を設定しています。
尿素産生速度 : Guに関する関数式は上記図の通りです。内容については先の導出式を参照ください(決してセルの説明が面倒とかじゃないですよ??)。
続いてPCRですが、

と、まぁ大きな数字になります。で、最後にnPCRを求める関数式です。

筆者は念のため、透析後体重 : IBWでnPCRを算出するようにしています。毎回DWを達成できるのであればいいですが、現実はそうでもないですからね。
テストデータを用いて、とりあえず計算してみましたが、参考値としては悪くないのではないでしょうか。
日機装FNWでのnPCRの出し方
筆者施設では2024年2月現在、日機装社製透析部門システム、Future Net Web(以下、FNW)を用いて透析室運営を行っています。なので、必要なデータに関してもFNWから出力することになります。
で、どの項目が必要で、どう出すのか?ですが、まずはシステム権限のアカウントが必要となります。
必要項目は
- BUN(前)
- BUN(後)
- 透析時間
- 透析後体重
以上4つになります。で、意外にというか、問題になるのが出力された数値。透析時間が分単位で出されるんです(例えば4時間は240分として)。なので、実際には出力された値を60で割るという作業列が追加されます。そして、その時間列に対して関数を動かします。
これだけのデータを揃えることが出来れば、あとは関数で半自動化ですね。
コピペの手間はありますが、きっとその価値はあるでしょう。
あとがき
今回の記事は、より臨床に寄り添ったパラメータの出し方に注力した内容とさせていただきました。原先生には、この場を借りて心よりお礼申し上げます。
これで臨床工学技士の業務範囲が少しで広がり、患者管理の視点が広く深くなればいいな。と考えます。
では今回は栄養指標シリーズの番外編となりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。
ではまた~
1)原 道顕 ; 血液透析前後の尿素窒素値による蛋白異化率測定の試み ; 透析会誌33 (5): 347~352, 2000
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