プラズマリフィリングとは?~体内の水分移動~

循環器

 さてさて、今回は久しぶりに代謝分野に関しての記事を書いていこうと思います。

 先日、Xでフォロワーさんと話をしていた際に「プラズマリフィリングの水分移動がなんで起こるのかが分からない!!」という話題になりました。

 確かに。筆者もこの話題について、そこまで深くは考えたことがありませんでした。

 ただ単純に「細胞内→間質→血管内」の順番で水分は移動するんだなーと。

 なので、今回はそこら辺を少し深く掘り下げて解説出来たらいいなーと思っております。

 では行きましょう!いざプラズマリフィリングの世界へ

そもそもプラズマリフィリングって何だっけ?

 さてさて、初学者の方のためにプラズマリフィリングってなんぞや?という所から復習を。

 そもそも生物は、「細胞内液」「細胞外液」「間質」という3つの空間を有します。勿論人間も例外ではありません。

 まぁ空間というと少し語弊があるかもしれません。別に空気がある訳ではないですからね。ただ、この3つの細胞の間を、人体のあらゆる物質は行ったり来たりするわけです。

 この3つの空間をどのように利用しているかというと、序文や上でも述べたように、血漿成分や代謝物質、薬剤が行ったり来たりするわけです。

 血漿成分の構成比率というのは、生理学の教科書にもある通り、水分が約91%、タンパク質が約9%、無機塩類、糖質、脂質、酵素などが少量含まれています。タンパク質には、アルブミン(約60%)、免疫グロブリン(抗体)、血液凝固因子などがあります。

 なので、移動する物質のほとんどは、血漿成分としては水分という事になります。

 代謝産物としての代表格は尿素窒素:BUNです。この物質は血中の浸透圧物質としても働くため、実は地味に仕事をしています(浸透圧についての解説は後程。。。気力があれば)。BUNはとても小さな物質なので、細胞内外を好き勝手に行き来します。その為、浸透圧物質としての仕事があるのでしょうね。

 薬剤に関しては、タンパク結合と非結合の物質があるため、移動の仕方も少々違うことでしょう。ここら辺はちょっと門外漢なので、調べるよう余裕があれば解説します。長くなるなら割愛で。

 と、随分前置きが長くなりましたが、上記3項目が細胞内から間質を通って細胞外ーつまりは血管内へ出入りするわけです。

 ちなみにプラズマリフィリング、日本語でいうと何というのか調べてみました。

plasma:血漿

Refilling : 再充填、補充

 という意味で、どちらかというと血管の立場に立った考え方ですね。血管へ血漿(主に水分)を再充填するということです。

浸透圧って何?

 さて、お次は浸透圧という現象について。

 そもそも圧力ってなんだ?という基礎物理なお話から始めるべきか迷いました。が、まぁ数式とか出ても嫌なので軽く日本語で。

 圧力もそれを表す単位(mmHgとかPaとか)によって扱いが変わりますが、要は物を押す力です。よく物理では仕事量なんて言い方もします(F=maですね)。

 血圧なんかはmmHgで表示されます。よくみんな単位端折って数字だけ言いますが、実は重要です。

 1気圧(atm)=760mmHg

 なんていうのは基本中の基本です。

 この基本を発見したのはイタリアの物理学者 エヴァンジェリスタ・トリチェリ(1608年〜1647年)です。

 トリチェリは下図のような実験を行い,空気が水銀面に及ぼす圧力,大気圧を測定しました。

  • ①水銀を満たした管を水銀の入った器に立てます。
  • ②ふたをとると,管の中の水銀は下がっていきますが,器の水銀面からの高さが 760 mm760 mm になったところで止まります。管を上下させても水銀面から測った水銀柱の高さは変わりません。このことから,器の水銀面では,大気圧と 760 mmの水銀柱による圧力がつり合っていることになります。
    つまり,大気圧は 760 mmHgとわかります。
大日本図書(https://www.dainippon-tosho.co.jp/unit/list/mmHg.html)より引用

 昔の血圧が水銀血圧計だったのも、心臓が押し出す力を水銀がどこで押し返されるか。を見ていたという事です。押し返した部分が収縮期血圧です。そして水銀が動かなくなった位置を拡張期血圧としてみていました。

 圧力の解説が長くなってしまいましたが、これはまた別の記事にでもしましょう。

 さて、浸透圧というのは書いて字の如く「染み込む圧力」です。では何がどこに何によって染み込んでいくのでしょうか。

 まず「何が」についてですが、これは先ほどから言っている血漿成分の内の水分、もしくは代謝産物であるBUNです。

 次に「どこへ」ですが、これは組織中、つまりは間質や細胞内ということです。移動するには移動元が無ければなりません。この移動元が血液ということです。血管内ボリューム(BV)なんて言ったりもします。

 では次に「何によって」です。ここが一番厄介?です。浸透圧という言葉、一般的であり実はどちらかというと工業向けです。では医療ではなんと表現するのか?これ、膠質浸透圧っていうんです。

 「結局浸透圧かい!!」とか思わないでくださいね(笑)

 これとは別に、血漿浸透圧というのは下記の公式で表されます。

$$血漿浸透圧(mOsm/kg)=$$
$$2 × 血清Na濃度(mEq/L) + \frac{Gul(mg/dL)}{18} + \frac{BUN(mg/dL)}{2.8} $$

 さて、膠質浸透圧とは、正確に表現すると動脈血管で物質を細胞内へ受け渡し、静脈側で不要な物質を血管内へ戻すための圧力です。その圧力を維持している大部分が血漿タンパク質です。

 Google検索も、AIの表現では

 「膠質浸透圧(こうしつしんとうあつ)とは、血漿タンパク質による浸透圧で、血管外の水分を血管内に引っ張る圧力です。血漿タンパク質は分子量が大きいため毛細血管膜を通過できず、毛細血管内と間質との間に濃度勾配が生じます。この濃度勾配によって、血管内の水分量を維持し、細胞間質に溜まった過剰な水分を静脈血に引き込みます。静脈血に引き込まれた水分は腎から体外へと排泄されます。」

 とあります。実に分かりやすいですね。では血漿浸透圧と同じような公式が存在するのでしょうか。

 あります。あるんです。ですがね…ちょいと複雑です。詳細は次章へ譲りましょう。

膠質浸透圧とは何か

 さて、先述した膠質浸透圧の説明、日本語だけでは無理があるのが実際です。

 体の中で実際の物質交換を担うのは毛細血管であることがほとんどです。

 毛細血管とは別名「抵抗血管」などとも称されます。

 毛細血管径は赤血球が1列になってやっと通れるほどの太さしかありません(5~15μm)。カツカツの場所を血液は通過するわけですが、その際に血液は組織(間質)から絞り摂るような向きで圧力を受けます。これにより血漿中の水分や栄養素、酸素は組織中へ移行します。

 そしてからからになった血液に今度は何が起こるか。

 それは浸透圧較差を是正しようと、間質から水分や老廃物を受け取ろうとする向きに圧力を掛けます。これにより、血液は尿素窒素やクレアチニン、二酸化炭素を受け取り、無事に静脈血化するわけです。

 動脈血の内、25%は腎臓を通過するとされています。腎動脈から輸入細動脈を通り、血液は余分な水分やNa+、BUN,Crを濾過し、しかし、基底膜のチャージバリアによりアルブミンは通過せず、血中の膠質浸透圧は維持されます(腎臓の水分や電解質の出納に関しては相当専門知識を要するため、時間と気力があれば記事化します)。

 とまぁ、膠質浸透圧を言葉で解説するとこうなります。イメージ力半端ない。

 なので、ここでやっと具体的な数字の登場です。

 毛細血管圧というのは、動脈側では35mmHg存在します。この中で膠質浸透圧(≒血漿タンパク質)は28mmHg分の圧力しかない為、組織(間質)中へ水分を逃がすことになります。

 そして水分が無くなり、低くなった静脈血圧は15mmHgです。しかし、血漿タンパク質濃度は保たれているため、28mmHg存在します。その為、血管を押し広げ、押された間質から水分や老廃物が漏出し、静脈血が受け取る形を取ります。

 以上の数字が膠質浸透圧の正体です。膠質浸透圧は≒血漿タンパク質を表すことに注意が必要ですね。

あとがき

 さて、ここまで随分長く書き綴ってしまいました。

 今回は代謝(血液浄化)だけでなく、そもそもの生理学に焦点を当てた、細胞マトリクスな水分の出納について解説させていただきました。

 しかし、この話はほんの序章。まだまだマクロ(巨視的)な世界です。本当のミクロな世界はこれからのお楽しみ(本当はそこまで書きたかった)。

 でも長くなっても読者の皆さんが飽きてしまうので、今回はここら辺で。

 では次はもっと細胞をミクロに覗いてみたいと思います。

 んじゃまたね~~

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