血液透析濾過とは??~Hemodiafiltration:HDF編~

血液透析

 おはこんばんにちわ

 さて、やっと来ました血液透析基礎シリーズ。

 といっても今回は血液透析:Hemodialysisから一歩進んだ治療方式、血液透析濾過:Hemodiafiltration を説明したいと思います。

 本来は血液ろ過:Hemofiltration の説明をすべきなのでしょうが、臨牀ではお目にかかることはまずありません(2020年12月31日時点で、血液ろ過は14人しかしていません)。

 その為、今回はろ過をすっ飛ばして透析濾過をお話ししたいと思います。

 では行きましょう。血液透析濾過:Hemodiafiltration HDFの世界へ

血液透析濾過:HDFの歴史

 血液透析の歴史に関しては別記事にて詳しく説明しています。

 さて、上記記事内ではHDFに関しては触れていません。それは何故か?忘れていたからです(おぃ)。

 ただHDFに関しての歴史そのものはそんなに内容がありません。

 1967年以降、対流(コンベクション)を用いた血液ろ過:HFや血液透析濾過:HDF療法が開発され、溶質除去効果の改善が試みられました。 源流としては、Henderson LWによる前希釈血液ろ過1)、1976年のQuellhorstによる後希釈血液ろ過2)が行われています。当時はコストがかさむこと、操作が煩雑なこと、流量制御と十分に浄化・滅菌された補充液が必要であるなどの問題が提言されていました。しかし、大きな分子量の尿毒素の除去に優れていることも利点として挙げられていました。70年頃にはその為の専用装置の開発・販売も始まるようになります。

 日本では1987年、新里らによるPush/Pull HDF法を考案、臨床応用したのが始まりになります。push/pull HDFもHF同様に全透析人口の0%弱しか実施がないのでまずお目にかかることはありません。

 2012年、HDFの保険収載が決まり、普及の後押しとなり、2021年12月31日現在、32万人居る透析患者の内、17万人がHDFを処方され、内12万人がOnline-HDFを実施するに至っています。3)

血液透析濾過:HDFの種類

 日本透析医学会の年末統計調査に記載されています。2021年末の補足表の上から順に

  • On-line HDF(70.5%)
  • Off-line HDF(1.1%)
  • Push/Pull HDF(0.0%)
  • AFBF(0.1%)
  • IHDF(28.3%)

 以上5種類になります。()内はHDF実施割合になります。

 では軽く各HDF療法の説明を行いましょう。

On-line HDF

 On-line HDFはOff-line HDFの対義語のような意味を持っています。

 本来、透析:HDに使用される透析液を横取りするような形で、動脈/静脈チャンバー上から直接患者の体内へ透析液を補充する血液透析濾過法です。

 On-line HDFにも二通りの治療方法があります。それぞれをご説明します。

前希釈血液透析濾過:Pre-dilution On-line HemoDiaFiltration

 日本での訳し方というか書き方としてはPre-OHDFが散見されます。が、希釈という言葉が入るとこれだけ長くなります。

 実施方法としては、補液回路の接続先を動脈チャンバー直上に設置する補充方法になります。これにより、ヘモダイアフィルターへ流入する血液量はQb+Qfという形を取ります。下の例では、Qb:250mL/min、Qf:250mL/minなので、実際にヘモダイアフィルターへ流入する血液量は500mL/minとなります。これはヘモダイアフィルターの処理量の限界だとも言われています。

 上記図でのpre-OHDF条件は、血流量:250mL/min、透析液流量:500mL/min、補液流量15L/H、濾過流量:760mL/min、除水速度:0.6L/Hで設定しています。図の中と単位が違うのは、分かりやすく単位を統一しているからです。慣れていない方は一度電卓叩いてみてくださいね。

Pre-OHDFの特性

 Pre-OHDFは補充液をヘモダイアフィルターの前に設置する関係上、希釈された血液がヘモダイアフィルター内を通過します。溶液当たりの物質量は減ってしまうため、拡散による溶質除去は原理上減ってしまいます。その為、小分子の除去効率を増やすには血流量を増やす必要があります。

 しかし、実際には補充液量を多くすることにより、濾過圧が大きくなり、小分子も濾過に引っ張られる為、そこまで除去効率が落ちる心配はありません。事実、筆者は前施設で透析液流量を400mL/minに落としてPre-OHDFを実施していましたが、データはそこまで大きく変化はありませんでした。

 大分子量タンパクの抜けに関しては、Post-OHDFには劣るもののα1-MGとの分離能に優れ、Alb漏出は補液量の多さに比例する形で増える傾向にあります。

 下記記事内でもご紹介していますが、日本で主流のPre-OHDFでは、40L以上の置換液量で予後が改善するとされています。筆者も基本的には48L、透析掻痒症のある患者に関しては60Lを目指してPre-OHDFを実施していました。

後希釈血液透析濾過:Post-dilution On-line HemoDiaFiltration

 今度はPre-OHDFとは逆。ヘモダイアフィルターを通過後に希釈を行う方法です。

 上記のPost-OHDFでの条件は、血流量:300mL/min、透析液流量:500mL/min、補液流量:3.75L/H、濾過流量:572.5mL/min、除水速度:0.6L/Hとしています。

Post-OHDFの特性

 Post-OHDFでは希釈する前の血液がヘモダイアフィルター内を通過するため、拡散・ろ過が強力に行われます。何でもかんでもろ過してしまう訳ですね。Pre-OHDFでは希釈した血液が通過するのに対して、Post-OHDFでは血液がそのまま通過するため、過濃縮が起こる傾向にあります。その為、多大な血流量を要します。多く血液を流すことで、ヘモダイアフィルター内の血液滞留時間を短くし、凝固を阻止しようとする考え方です。

 強力な濾過によりファウリング(ヘモダイアフィルターの膜の目詰まり)を急速に起こす為、開始30分でAlb漏出量は多大かつピークを迎えるという現象が起こります。

 但し、コスト面を考えると、一回置換量が少ないという数少ないメリットは存在します(透析液もタダじゃありませんからね)。

 諸外国でメインで行われるPost-OHDFについてのStudyは下記で紹介しているので、よければご覧ください。

Off-line HDF

 On-line HDFとは対になる治療法。それがOff-line HDFです。

 まだ清浄化された透析液が無い時代に、工場で滅菌した電解質補充液を用いて行っていた方法になります。
 サブパックやサブラッドBSGなどを手動で吊り下げて行う方式だったため、コストが掛かり、手間が煩雑という問題がありました。また、バッグの容量も2Lだったため、大量置換は出来ません。

 このような事情により、必然的に希釈方法はPost-off line HDFとなります。

 画像は東レメディカルのTR-7700Mになりますが、このように各メーカーはコンソール後部に電子天秤式の吊り下げ器を装備し、その重量を測ることで何L補液したかを計測していました。

回路図としてはPost-OHDFとさして変わらないので割愛します。

Push/Pull HDF

 今は完全に廃れた技術として存在していたHDF方式になります。

 こちらは原理としてはIntermittent Infusion Hemodiafiltration:I-HDFと同じなんですね。

 push/pull HDFは、血液透析をおこないつつ、ヘモフィルタ−にて濾過と逆濾過とを交互に生じさせることを特徴とする。すなわち、 push/pull HDF では、まず on-line HDF と同様に容量制御方式のコンソ−ル(UFコントロ−ラ−)を使用することにより透析液回路を密閉系とする。次に、ポンプを用いて密閉系である透析液回路内から一定量の透析液を系外に引き出すことによって透析回路内に陰圧を発生させ、血液側から透析液側へ濾過を生じさせる。続いて、直前の濾過行程で一旦系外に引き出した透析液を透析回路内に押し戻すことによって、透析回路内に逆に陽圧を発生させ、逆濾過の形で置換液としての透析液を体内に移行させます。4)

 とどのつまり、後述する逆濾過式血液透析濾過とやっていることは同じです。

 しかしながら、コンソールとは別の機器が必要であったりと作業自体が相当煩雑なため、廃れてしまったと思われます。

AFBF : Acetate-Free BioFiltration

 AFBF(アセテートフリーバイオフィルトレーション)は、オフラインHDF(血液透析濾過)の変法です。AFBFは、補充液に酢酸を含まない完全な無酢酸透析です。通常のオフラインHDFでは、補充液に0.5~3.5mEq/Lの酢酸が含まれています。

 酢酸不耐症の患者に対して従来行われてきた方法になります。

 方法もOff-line HDFと同様ですが、無酢酸透析液を用いる点が従来のHDFと異なります。

 回路図もOff-line HDFに準ずるので、上記図として割愛します。

I-HDF : Intermittent Infusion Hemodiafiltration

 現在、徐々にHDFとしての割合を増やしつつあるのがこのHDFの変法であるI-HDFです。

 登場初期にはHDFとして見ていいのかどうかわからず、I-HDなんて呼んだりもしていました(いつのまにやらHDFの変法としてその地位を確立していましたが)。

 なぜ変法かというと、これが間歇補液型血液透析濾過だからです。

 間隔をあけて1回に数百mL(100~200mL)を補液することで、末梢循環の維持・プラズマリフィリングの維持を目標としています。

 但し、私見ではありますがDMのある患者では反応性が悪いのか、血圧の維持が難しいと感じるのが率直な感想です。その為、処置回数なども有意差をつけれるかというと、人を選ぶHDFだと感じます。

 間歇補液の方法にも2種類存在します。

逆濾過式間歇補液血液透析濾過:Reverse filtration type Intermittent Infusion Hemodiafiltration

 逆濾過式というのは、ヘモダイアフィルター中空糸の外側から内側に向けて、透析液を補液する方法だからです。これにより、膜の目詰まり(ファウリング)を解除できると謳っています。

 現在この方式を採用しているのは東レメディカルとJMSの2社になります。

前補液型間歇補液血液透析濾過:Pre-replacement type Intermittent Infusion Hemodiafiltration

 名前の通りで、回路図としてはPre-OHDFと同様、もしくは全自動プライミングが可能な装置であれば、プライミングラインを使って補液を行うというものです。

現在この方式を採用しているメーカーは日機装、ニプロの2社になります。

血液透析濾過の原理について

血液透析濾過の原理については、下記の記事で少々ですが説明をしているので、よければご覧ください。

血液透析濾過のターゲットについて

 従来の血液透析では小分子の拡散による除去がメインの推進力となり、不要な溶質を除去してきました。

 しかし、血液透析濾過:HDFではそこに限外濾過が加わることで、それまでは除去が難しかった「タンパク結合小分子量物質」「中分子量物質」「高分子量物質」の除去が可能となりました。

 HDFをHD,HFと比較したよく使われる図は下記になります。

 上の図からも分かるように、HDに比べ大分子量物質のクリアランスが上がっています。

 これによりアルブミン(66,000Da)の漏出を伴いますが、それでも、近傍物質であるα1-ミクログロブリン(MW:30,000 Da)や、その次に代表となるβ2-ミクログロブリン(MW:11,818Da)を除去できます。タンパクの除去が出来るというのは、タンパク結合小分子量物質の除去も可能ということであり、それだけ不要な物質の除去が可能という事ですね。

 置換量(Convention Volume)の増加に伴い、タンパク物質の除去量も増える為、アルブミンの漏出が懸念されますが、それに比例してα1やβ2の除去量も増加するため、透析掻痒症やRLSの改善に効果が持てるとされております(Pre-OHDFで60L≧CV)。

 その為、CVの積極的な増加は予後の改善を伴うと言われています。Post-OHDFではまた違ってきますので、その点は下記の記事をご覧ください。

あとがき

 今回は現在の血液浄化療法でのメイン療法である、血液透析濾過:HDFについて説明させていただきました。

 これから徐々に高齢化に踏み込んでいく血液透析の世界において、HDFをどのように運用するのかは大命題となりつつあります。

 皆さんはどう考えるでしょうか。

 筆者の私見的一側面に関してはこちらで紹介しているのでご覧ください。

 では今回はこの辺で。

 さようなら~~

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1)Hendesson LW ,Besarab A ,Michaels A ,et al: Blood purification by ultrafiltration and fluid replacement(diafiltration).Trans Am Soc Artif Intern Organs 13:216-21 ,1967

2)Quellhorst E ,Rieger J ,Doht B, et al: Treatment of chronic uraemia an ultrafiltration kidney : first clinical experience . Proc Eur Dial Transplant Assoc 13:314-7 , 1976

3)わが国の慢性透析療法の現況 2021年末の慢性透析患者に関する集計 第1章

4)透析百科[保管庫]

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