読者の皆様、おはこんばんちわなら。
さてさて、筆者の事をご存知の方であれば、よくお分かりかもしれませんが、基本的に筆者は透析においてはKt/V(2nd Daugrirdas)を重用しています。
日本においては、日本透析医学会(以後、JSDT)の年末統計で新里式Kt/VとnPCRが求められています。
しかし、筆者の考え方について、「Kt/Vに拘り過ぎでは?」「ちゃんと栄養も見てる?」といった声がちらほら聞こえてきます。
そしてもう一つ。「TAC-BUNも診るべきでは?」と言った意見も聞こえてきました。
ではTAC-BUNとはそもそも何なのか?それについて今回は解説していこうと思います。
ではようこそ。透析効率の世界へ。
TAC-BUNとは何か
いきなりTAC-BUNなんて言われても、はてなんのこっちゃ?ですよね。
さて、ではTAC-BUNとは何なのか。
まずは言葉の意味を整理しましょう。
T : Time 時間
A : Averaged 平均
C : Concentration 濃度
というわけで、「血中尿素窒素の時間平均濃度」が直訳になります。
ただこれではちょっと意味が変わってきます。なので、透析界隈では「週平均の血中尿素窒素濃度」と呼びます。
ではなぜ週平均と呼ぶのか?
TAC-BUNは何を意味するか
先述したように、TAC-BUNは週平均のBUN濃度の事を指します。
これはどういうことかというと、透析患者は本来BUNが蓄積の一途を辿ります。しかし、それを治療によって減少させることて、生理的な濃度にまで下げています。
単回の透析で診れば、高値から低値を繰り返すわけですが、これを期間を1週間という少しロングに観た場合、下記の図の様に、低値からリバウンドを経て高値、つまり透析前値まで上昇し、それをまた治療で下げてはリバウンド…と繰り返すわけです。

この鋸波の下の部分の面積を積分し、平均を求めると、破線のようになる訳です。
とまぁ長々と説明しましたが、TAC-BUNは一週間におけるBUNの平均濃度を積分して求める物。ということだけ暗記して頂ければいいと思います。
どのように求めるか
先ほども述べましたが、これ実は積分なんですね。なので、血液浄化療法ハンドブックではとても?ややこしく解説されています。
実直にその公式を掲載すると、
$$TAC=\frac{\int_0^{tw} C_{ B }(t) dt}{\int_0^{tw} dt}$$
となります。
いやもー考えただけで頭痛くなります。頭痛が痛いですねはい。
で、ここから式の解説をしたいと思います。
分母の部分は一週間の時間を分で表す為、
$$t_{w} = 24 \times 7 \times 60 = 10080 min $$
となります。
分子の部分は血中溶質濃度(BUN濃度)を表します。
さて、実臨床ではこれを求めるのはとても煩雑な作業になります。では実際はどうなのか?ですが、実はとてもシンプルな方法があります。それが以下の式になります。
$$TAB_{BUN} = \frac{週初めpostBUN+週2度目透析のpreBUN}{2}$$
これにより近似値は算出可能となります。ただこれはあくまで近似値に過ぎません。
では実際の値はどのように算出するのか?一つは非現実的ではありますが、全3回の透析前後に採血を行い、全ての値から平均を算出する方法です。
そしてもう一つは「平均尿素産生速度と平均尿素クリアランスからTAC-BUNを求める方法」です。
平均尿素産生速度と平均尿素クリアランスからTAC-BUNを求める
これは前提として、尿素産生速度(G)も尿素除去速度(E)も一定の平衡状態であるとしている。もしどちらか一方だけが大きければ、片や尿素は蓄積する一方であり、片や除去され続けて尿素がゼロという状況が出来上がる。ここから求められるのは
$$G=E・・・(1)$$
である。そして尿素除去速度:Eは血中尿素濃度(C)とクリアランス(K)の積で表されます。この際単位はCがmg/dLである場合が多いので、クリアランス:Kに合わせる為、mg/mLへ換算します。
$$ex) 50mg/dL = 50mg/100mL = 0.5mg/mL$$
として式としては
$$E=C \times K・・・(2)$$
となります。これを(1)式に代入すると
$$G=C \times K・・・(3)$$
となり、ここから導かれるのは、平衡状態では、尿素濃度は尿素産生速度を尿素クリアランスで割った値であることを示す以下の式が得られる。
$$C=\frac{G}{K}・・・(4)$$
安定した透析患者では、一週間における尿素産生量は一週間における尿素除去量に等しいとして、式(4)を透析患者に当てはめると、式(5)が得られる。
$$TAC_{BUN} = \frac{一週間の平均尿素産生速度}{一週間の平均尿素クリアランス}・・・(5)$$
そして、式(5)に示す概念に基づいて、TACBUN(mg/dl)を求める式が作成されています。
$$TAC_{BUN} = \frac{\frac{G}{V} \times \frac{T}{n}}{\frac {Kt}{V}}・・・(6)$$
但し、
$$Kt/V = – \ln \frac{Ce}{Cs} $$
$$ \frac{G}{V} = \frac{Cns-Ce}{Tint} $$
ここで、V(dl)は体液量、T は1週間の総時間(168hr)、n は1週間の透析回数(3回)、Tint(hr)は透析終了時から次の透析の開始時までの時間、Cs(mg/dl)は透析開始時の尿素窒素濃度、Ce(mg/dl)は透析終了時の尿素窒素濃度、Cns(mg/dl)は次回の透析の開始時の尿素窒素濃度を示します。
更に、除水を加味した1コンパートメントモデルを使ったKt/VとnPCRから、TAC-BUNを求めることも出来ます。以下にその途中式等を示します。
G/v(mg/week/mL)を1週間あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素窒素産生量、K/v(mL/week/mL) を1週間あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素クリアランスとすると、式(5)は以下のように書き換えられる。
$$ TAC-BUN = \frac{\frac{g}{V}}{\frac {K}{V} }・・・(7)$$
ここで、式(8)における G/v (mg/week/mL) を1分あたり、単位体液量(L)あたりの尿素窒素産生量である g/V(mg/min/L) に、K/v(mL/week/mL) を1分あたり、単位体液量(mL)あたりの尿素クリアランスである k/v(mL/min/mL)に変換する。
$$ \frac{G}{V} = \frac{g}{V} \times \frac{60 \times 24 \times 7}{1000} ・・・(8a)$$
$$ \frac{K}{V} = \frac{K}{v} \times 60 \times t \times 3 ・・・(8b)$$
ここでtは透析時間です(3時間透析なら3、長時間透析なら6など)。
式8a , 8bを7式に代入すると、以下の式へ変換できる。
$$ TAC-BUN = \frac{\frac{G}{v}}{\frac {K}{v} }=\frac{\frac{g}{v} \times \frac{60 \times 24 \times 7}{1000}}{\frac{K}{v} \times 60 \times t \times 3}= \frac{10.080 \frac{g}{v}}{180t \frac{k}{v}}・・・(9)$$
ここまでは大丈夫でしょうか。結構数式目白押しでやってきました。
さて、この先さらにややこしい式変換が待っています。
nPCRとKt/VからTAC-BUNを求める
nPCRは覚えているでしょうか?覚えていない方は、今一度復習をお願いします。
nPCRを計算する中で、G:尿素産生速度という定数が出てきますが、これはTAC-BUNに出てくるGと同一なんです。
最も世界で使用されている(らしい)BorahらのnPCR1)では、導出を下記の式に依拠しています。
$$ nPCR = (9.35 \frac{g}{v}+0.29)\times 0.55 $$・・・(10)
これまで弊ブログで取り上げてきたnPCRとは若干異なりますが、Kt/V同様に、世界には様々な導出方法がある。と思っていただければいいです。
この式をg/vに対して変換するために、まずはnPCRに対して解いていきます。
$$ nPCR = (9.35 \frac{g}{v}+0.29)\times 0.55 = 9.35 \frac{g}{v} \times 0.55 + 0.29 \times 0.55$$
$$ = 5.1425 \frac{g}{v}+0.1595・・・(11a)$$
これをg/vへと変換します。
$$ \frac{g}{v} = \frac{nPCR-0.1595}{5.1425} = 0.1944nPCR-0.0310 ・・・(11b)$$
また、Kt/Vはk/vと透析時間:tD[min]の積であるので
$$ \frac{Kt}{V} = \frac{k}{v} \times t_{D} ・・・(12a)$$
したがって、
$$ \frac{k}{v} = \frac{\frac{Kt}{V}}{t_{D}}・・・(12b)$$
ここでtDの単位は[min]であることに注意が必要です。
最後に式(11b) , (12b)を式(9)に代入すると、nPCRとKt/VからTAC-BUNを求める式が完成します。
$$ TAC-BUN[mg/mL]= \frac{10.080 \times (0.1944nPCR-0.0310)}{180t \times \frac{Kt/V}{t_{D}}}$$
$$ = \frac{0.056 \times (0.1944nPCR-0.0310)}{\frac {Kt}{V}} \times t_{D} = \frac{0.0108864nPCR-0.001736}{Kt/V} \times t_{D} $$
この状態のTAC-BUNは、単位が[mg/mL]なので、もし単位を[mg/dL]にしたい場合は
$$ TAC-BUN[mg/dL] = \frac{1.08864nPCR-0.1736}{Kt/V} \times t_{D} $$
とします。
これにてTAC-BUNの導出は終了です。
本当にお疲れ様でした(吐血)
TAC-BUNの限界
さて、散々これまで導出の項をやってきた訳ですが、ここまでやってきて大どんでん返しが待っています。
実はTAC-BUNには検出力に限界が存在します。
最終的に、TAC-BUNはnPCRとKt/Vから求められることが分かりました。これら二つの指標自体は、それぞれが独立した予後規定因子として求められます。
しかし、独立同士を掛け合わせてしまって成り立つTAC-BUNは、実はあまり当てになりません。
例えば、nPCRは低いのに極端にKt/Vが高い症例や、その逆を取り扱った場合、TAC-BUNは数値上はいい数字を出しても、予後には関連しないのです。
その為、TAC-BUNには明確な基準値が存在しません。おおよその基準値が存在するのみです。
TAC-BUNの基準値は?
| 指標 | 目安値 | 解釈 |
|---|---|---|
| TAC-BUN ≈ 45~60 mg/dL | 一般的な維持透析患者の平均的な範囲 | 栄養と透析効率のバランスが良好とされる |
| TAC-BUN > 60 mg/dL | 高値 | 栄養過剰、除去不足(Kt/V低値)、透析不足の可能性あり |
| TAC-BUN < 40 mg/dL | 低値 | 栄養不良(nPCR低下)または過剰透析の可能性あり |
この数値は、あくまで一般的な透析時間である4時間を目安に出されている為、筆者の施設の様な長時間透析(6時間以上)では、あまり意味を為さないかもしれません(高Kt/Vを叩き出す為)。
この基準値は、かの有名なNCDSの解析結果から出てきた数値なので、それなりの信憑性はあると思われますが、先述したように、それでも検出力には限界が存在する。というお話です。
あとがき
はい。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。&お疲れ様でした。
筆者自身、TAC-BUNには馴染みがありませんが、まぁ出せるデータは全部出してやろうじゃねぇか根性が再燃しているため、もしかしたらこの指標も筆者の採血結果解析sheetに加わるかもしれません。
が、その前に可能であればブログ上でTAC-BUNの計算が出来る記事を書きあげたいと考えています。まぁ生温かく見守ってください…(笑)
では今回はこのくらいで。
まったね~ノシ
1)Borah MF, et al: Nitrogen balance during intermittent dialysis therapy of uremia. Kidney Int 14: 491, 1978


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