さて、今回は貧血に関連するテーマとしてERI(エリスロポエチン抵抗指数)について解説していこうと思います。
普段何気なく使っているESA製剤ですが、それがどれくらい効いているのか?なぜ処方量に違いがあるのか。そしてどのように処方量を決めるのか。
そんな疑問を解消できればと思います。
では行きましょう。貧血の世界へようこそ。
1.Hbは目標内なのに、ESAだけが増えていく
日本透析医学会(以後、JSDT)のガイドラインページに「2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」があるのをご存知でしょうか。
このガイドラインの中で、第2章 腎性貧血治療の目標 Hb 値と開始基準のCQ.1腎性貧血治療において維持すべき目標 Hb 値と開始基準は何か?ステートメント 1に以下の文言があります。
1)成人の血液透析(HD)患者の場合,維持すべき目標 Hb 値は週初めの採血で 10 g/dL 以上 12 g/dL 未満とし,複数回の検査で Hb 値 10 g/dL 未満となった時点で腎性貧血治療を開始することを推奨する.(1C)
この基準値には勿論様々な文献からなるエビデンスが存在する訳ですが、常に何も条件が変わることなくESA製剤も同量投与するーーそんな臨床は存在するでしょうか?
否。
そんな現実は存在しません。
ではどういうことか。Hbを維持するためには、上がり過ぎる場合にはESA製剤を減量しますし、下がり傾向にある場合には増量します。
ではその投与量設計の加減はどのように決めるのでしょうか。
そこで登場するのがERI:エリスロポエチン抵抗指数なのです。
2.ERI(エリスロポエチン抵抗指数)とは何か
ERIは、ESAに対する「反応の良さ・悪さ」を示す指標です。
ERIの定義をまずは紹介。式は以下のようになっています。
$$ ERI = 週当たりの ESA 投与量(μg)/Hb 値(g/dL)/透析後体重(kg) $$
考え方は非常にシンプルです。
- 同じHb
- 同じ体重
- それでも必要なESA量が多い
この状態は、””「造血刺激が効きにくい」””ことを意味します。
重要なのは、
ERIが高い=医療者の調整ミスではない、という点です。
ERIは「結果」です。
その裏には、必ず理由があります。
3.ERIの基準値はどこから来たのか
臨床研究を整理すると、ERIはおおよそ次のように解釈されます。
| ERI | 解釈 |
|---|---|
| ~7 | ESA反応性良好 |
| 8~9 | 境界域 |
| 10以上 | ESA抵抗性を疑う |
| 13~15以上 | 予後不良との関連が強い |
特に日本・アジアの透析患者を対象とした研究では、
- ERI ≧10:ESA低反応性
- ERI ≧13前後:死亡・心血管イベントリスク上昇
という結果が繰り返し報告されています。
ただし大切なのは、
ERIは「合否判定のカットオフ」ではないという点です。
ERIは「兆候」です。
警告灯のようなもの、と考えると分かりやすいでしょう。
4.薬剤別に見るERIの考え方
4-1. エポエチン(短時間型ESA)
エポエチンα・βは、ERI研究の“基準軸”です。
- 多くの論文でERI算出対象
- エビデンスが最も豊富
- ERIと死亡リスクの関連も明確
ERIが10を超えるエポエチン使用患者では、
炎症・低栄養・透析効率不良が重なっているケースが非常に多くなります。
4-2. ダルベポエチン(長時間型ESA)
ダルベポエチンでは、
**「IU換算して考える」**というワンクッションが必要です。
臨床研究では、
- ダルベポエチン 1 μg ≒ エポエチン 200 IU
としてERIを算出することが一般的です。
この換算を行えば、
ERIの解釈はエポエチンとほぼ同じです。
つまり、
「ダルベだからERIが高く見える」わけではありません。
4-3. ミルセラ(CERA)
ミルセラは少し特殊です。
- 投与間隔が長い
- 用量換算にばらつきがある
- ERI評価から除外される研究も存在
それでも重要な点は一つ。
ミルセラでも、患者の状態は“数値に現れる”
実際、換算ERIで比較すると、
- エポエチン群
- ミルセラ群
で、平均ERIに大きな差はないという報告もあります。
つまり――
問題は薬剤ではなく、患者背景なのです。
5.ERIが高くなる本当の理由
ここが、この記事で一番伝えたい部分です。
● 炎症
- CRP高値
- IL-6上昇
- NLR高値
炎症はESAの最大の敵です。
● 鉄欠乏(特に機能的鉄欠乏)
- TSAT低値
- フェリチン正常でも油断不可
鉄が使えなければ、ESAは空振りします。
● 栄養不良
- Alb低値
- GNRI低下
- PEW状態
栄養が悪ければ、骨髄も働けません。
● 透析条件・透析量
- Kt/V不足
- 炎症温存
- 尿毒症性抑制
透析効率は、造血環境そのものです。
● 高齢・併存疾患
- 高齢
- 糖尿病
- 心血管疾患
「年齢だから仕方ない」ではなく、
背景を読むヒントがERIです。
6.ERIを臨床でどう使うか
ERIは「ESAを増やす理由」ではありません。
ESAを増やす前に立ち止まる理由です。
例:
- ERI↑ + Alb↓ → 栄養介入を優先
- ERI↑ + CRP↑ → 炎症源・VA評価
- ERI↑ + TSAT↓ → 鉄戦略の再設計
ERIは、
介入の順番を教えてくれる指標です。
7.まとめ
ERIは「貧血の数字」ではない
- ERIは治療成績ではない
- 患者背景の集合体
- 数値を責めず、意味を読む
Hbだけを追う貧血管理から、
患者全体を見る貧血管理へ。
ERIは、そのための“静かなナビゲーター”です。
あとがき
今回は貧血:Anemiaに関する指標であるERI(Erythropoietin Resistance Index:エリスロポエチン抵抗指数)をご紹介しました。
実はこのERI、筆者が開発したアプリにも搭載している指標です。

興味のある方は、インストールしてアプリを使ってみてください。
Reviewを書いてもらえると、筆者は泣いて喜びます(笑)
このERIという指標も、患者の栄養状態や炎症など、様々な背景を知らせてくれる優秀なマーカーとしての側面があります。そのため、逃しがちですが一見の価値ありです。
それでは今回もこの辺で。
まったね~
参考文献
- Locatelli F, Del Vecchio L, Pozzoni P. Erythropoietin resistance in dialysis patients. J Am Soc Nephrol. 2006;17(12 Suppl 3):S15–S21. doi:10.1681/ASN.2006080910
- Kuragano T, Matsumura O, Matsuda A, et al. Association between hemoglobin variability, erythropoietin resistance, and mortality in maintenance hemodialysis patients. Kidney Int. 2014;86(5):1116–1125. doi:10.1038/ki.2014.186
- Panichi V, Rosati A, Bigazzi R, et al. Erythropoietin resistance index and mortality in hemodialysis patients. Nephrol Dial Transplant. 2011;26(2):659–667. doi:10.1093/ndt/gfq375
- Zhang Y, Thamer M, Stefanik K, et al. Erythropoietin resistance index and mortality in hemodialysis patients. Am J Kidney Dis. 2012;59(1):106–113. doi:10.1053/j.ajkd.2011.08.031
- Kalantar-Zadeh K, McAllister CJ, Lehn RS, et al. Effect of malnutrition-inflammation complex syndrome on EPO hyporesponsiveness in maintenance hemodialysis patients. Am J Kidney Dis. 2003;42(4):761–773. doi:10.1016/S0272-6386(03)00919-8

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