急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の新定義~A New Global Definition of Acute Respiratory Distress Syndrome~

人工呼吸器

 お久しぶりでございます。

 今回のお題はこちら、「急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome ; 以後、ARDS)」の新定義についてです。

 先日開催された、アメリカ胸部学会(ATS)2023にて、ARDSの新国際定義がお披露目になりました。

 これまでの定義(以後。旧定義)と何が違い、僕ら臨床工学技士にどのように関係するのか。

 そのあたりを焦点に解説できればと思います。

 では行きましょう。ARDSの世界へようこそ

ARDSの歴史

 疾病というのは名づけられたその瞬間から新規に発生するわけではありません。実はこれも??というのは歴史を振り返れば沢山あるわけです。

 例に漏れずARDSもそうで、振り返れば1960年代のベトナム戦争の負傷兵でも、胸部外傷はないにもかかわらず、難治性の急性肺水腫から呼吸不全を呈する患者が大量に発生。戦地にちなみDaNang Lungなんてよばれたりもしたようです。

 その後、1967年にAshbaughらによる多発外傷などの後に生じた12例の難治性の非心原生肺水腫の報告が最初になります1)。その症状が新生児呼吸促拍症候群(以後、Infant RDS)に類似することから、成人版の疾患概念としてAdult RDSとして広く知られることになりました。

最初の国際定義:American-European Consensus Conference; AECC

 しかし、この疾患概念では、敗血症やウィルス性で発生する同疾患には説明がつかない事も多く、浸透と同時に批判の的にもなりました。

 このような事態を鑑み、アメリカ胸部学会(ATS)と欧州集中治療医学会(ESICM)の合同会議(American-European Consensus Conference; AECC)が開催、統一基準についての討論がなされ、1994年にARDSのAECC基準として発表されました2)

 AECCが策定された際、adult RDS という名称が acute RDSへと変更されました。

AECCからの進歩:ベルリン定義

 AECCが策定された後、様々なRCTが組まれたが、予後の改善が謳われたのは事実上、低一回換気量による肺保護換気だけであった。

 これらの問題点を踏まえ、ARDS定義の見直しが行われ、ベルリン定義が報告された3)

 この定義の変更点は1)経過が急性という曖昧さから1週間以内の発症と変更2)ALI分類が廃止され、PEEP≧5cm以上で測定し、軽症~重症のP/F ratioが策定された3)浸潤影の誤読を避ける為、但し書きが付記される4)右心カテーテルの使用を除外し、心エコー等での診断を推奨 としています。

ベルリン定義の問題点

 もちろん完璧な定義は存在しません。ベルリン定義にも問題点はいくつかありました。

 一つはP/F ratioだけで重症度を規定しようとしたことでした。その基礎疾患や程度、CTを含めた画像所見などが用いられることが無かったのです。これらを取り入れようとベルリン定義では討議が重ねられましたが、予後との相関がそれほど高くない事や、特定の機器を必要とするなどの問題が発生したため、見送られたのです。
 国際定義であるが故に、どこでも用いられる基準を目指したため、シンプルな4項目となりました。

 しかし、これでは重度の呼吸不全を呈する疾患がARDSと誤診されてしまうリスクもありました。事実、病理像を比較した場合、ARDSの典型的病理像であるびまん性肺胞障害(DAD)と診断されたのは、重症例で58%、軽症では12%にとどまり、その他の疾患として肺炎、肺膿瘍、結核、癌、肺塞栓、間質性肺炎などが含まれていたことが報告されています4)

診断に有用な方法は何か?

 診断に有用なのは何も病理診断だけではない。高解像度CTや気管支肺胞洗浄(BAL)が有効である。結核や癌はCTで診断が可能であるし、BALは急性好酸血球性肺炎や肺胞出血などの診断や感染症の診断に有用である。したがって、患者の状態が許す限りはCT撮影とBAL施行を考慮すべきとされています。

 では新ガイドラインはどうなのか??

A New Global Definition of Acute Respiratory Distress Syndrome

 2023年、アメリカ胸部学会(ATS)にて、ARDSの新定義が発表されました。

 早速中身を見てみましょう

 2012年のベルリン定義以後、様々なデバイスや診断技術の進歩によりガイドライン改訂の必要性が発生していました。普段我々がNHF,またはHFNCと呼んでいるデバイスは高流量経鼻酸素(HFNO)として追加されています。また、S/P ratioも観察研究で妥当性が確認されている為、追加されました。胸部診断に関しても、CTはもちろんの事、リソースが限られる環境下ではエコーも診断デバイスとして追加されたことも新しい項目です。また、同じくリソースが限られる環境下では、血液ガス測定が難しいことから、パルスオキシメーターでの診断も追加されたことは画期的だと思います。

 この新ARDS国際定義はベルリン定義を拡張するものであり、急性病態の患者がHFNO≧30L/min で治療される場合にもARDSとして診断され、非挿管の新しいカテゴリーを作ります。また、肺エコーの登場やパルスオキシメーターの登場により、これまで疫学・臨床研究・臨床試験から除外されていた患者群も拾う可能性があり、今後の研究の方向性を示しており、実現可能性・信頼性・予後妥当性の前向き評価やARDSの生物学的カテゴリーと世界的定義との関係など、将来の研究の領域が特定されていくことでしょう。

あとがき

 新定義では経過別の基準もなくなり、重症度は曖昧になりました。しかし、積極的な新デバイスの活用や診断法の進歩を取り込むなど、僻地でのARDSを取りこぼさないという強い意志を感じます。

 HNFCが取り込まれた事は、ROX Vecterとの組み合わせも臨床工学技士としては気になる所です。これにより、リソースのある環境下では挿管のタイミングを逃すことがないなど、何かしらの相関や基準が出来れば面白いのではないか?と考えます。

 O2-HFNC-NPPV-IPPVと酸素療法は行き来するわけですから、臨床工学技士は積極的に関わるべきでしょう。

 今回はいち早く発表された新ARDS国際定義について解説しました。またRCTなどが組まれた時には解説出来ればと思います。

 ではでは~

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1)Ashbaugh, D.G., Bigelow, D.B., Petty, T.L., et al: Acute respiratory distress in adults. Lancet, 2: 319︲323, 1967.

2)Bernard, G.R., Artigas, A., Brigham, K.L., et al: The AmericanEuropean Consensus Conference on ARDS. Definitions, mechanisms, relevant outcomes, and clinical trial coordination. Am J Respir Crit Care Med, 149: 818︲824, 1994.

3)Ranieri, V.M., Rubenfeld, G.D., Thompson, B.T., et al: Acute respiratory distress syndrome: the Berlin Definition. JAMA, 307: 2526︲2533, 2012.

4)Thille, A.W., Esteban, A., Fernandez-Segoviano, P., et al: Comparison of the Berlin definition for acute respiratory distress syndrome with autopsy. Am J Respir Crit Care Med, 187: 761-767, 2013.

5)A New Global Definition of Acute Respiratory Distress Syndrome. Am J Resp Crit Care Med 2023; 207: A6229

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