高流量鼻カニューラ酸素療法〜High Flow Nasal Cannula〜導入篇

呼吸器

 おはこんばんにちわ。

 今回は比較的新しい酸素療法デバイスとして登場した「高流量鼻カニューラ酸素療法 High Flow Nasal Cannula:HFNC」について解説していければと思います。

 その使いどころは中々難しく、さて辞めるのか?それともNPPVがいいのか。はまたま気管挿管に切り替えるのか。その判断には迷うことも多いでしょう。

 ではどんな時に使うべきなのか?

 そんな勘所について解説出来たらな~と思います。

 では行きましょう。いざ、HFNCの世界へ。

まずは名前の解説

 さて、筆者の記事では毎度恒例のお名前解説の項がやって参りました。

 が、今回は簡単すぎるよな~と思います。が、ちゃんとしていきましょう。

 High Flow Nasal Cannula:HFNC ですが、分解して和訳すると

High Flow:高流量

Nasal Cannula:鼻カニューラ

 となります。まぁ特に難しい印象は無いと思われます。

High Flow Nasal Cannula:HFNCの特徴

 鼻カニューラは本来?せいぜい5L/min程度での利用ですが、ではそれとは何が違うのでしょうか?

 コロナ禍真っただ中の日本では大変活躍したデバイスですが、その特徴を説明していければと思います。

高流量を流すことが可能となった

 上述したように、本来鼻カニューラでは酸素流量計を介して5L/minまでの酸素投与がせいぜいでした。

 5L/minを超えるような酸素投与を行う場合には、10L/minまでは段階的にマスク、リザーバーマスクと変えていき、それでも酸素化が保てない場合にNPPV:非侵襲的陽圧換気を行う。というフローチャートがそれまで一般的でした。しかし、High Flow Nasal Cannulaの登場、そしてCOVID-19の発現によりその使い方は激変しました。

 酸素化が鼻カニューラ5L/minでSpO2:93%を保てない場合High Flow Nasal Cannula、もしくはNPPVへの管理変更が推奨されました。1)

 High Flow Nasal Cannulaでは、それまでは不可能だった流量30~80L/min(80L/minを流せる機種は限定的)を流すことが可能となりました。それにより、臨床では様々な恩恵に授かることになります。

解剖学的死腔の洗い出し

 さて、解剖学的死腔とは何か?ですが、ざっくりいうと下記のような部分を指します。

 上記の図で肺胞に到達するまでの鼻腔や気管支の部分を「解剖学的死腔」と呼びます。

 仮に一回換気量が500mLの患者が居たとして、その実、実際のガス交換に寄与する…肺胞に到達する換気量は350mL程度とされています。となると、解剖学的死腔は150mLとなります。約1/3はガス交換に寄与しないという事です。

 この部分というのは本来であれば純酸素ではありません。しかし、High Flow Nasal Cannulaを用いることで、この死腔が洗い出され、酸素に置き換わります。といってもその効果は限定的で、鼻腔のみです。鼻腔における解剖学的死腔はリザーバーとしての役割を持つことができ、いざという時のガス交換に寄与することができます。実際の置き換わり量は50mLほどです。

 しかし、一回換気量が350→400mLになるとうのは、1.14倍に上昇したことを意味するため、呼吸不全患者に対しては中々バカにならない補助量となります。また、重症であればあるほど、奥まで洗い流し効果が及ぶ可能性もあり、更に換気量が増える可能性も捨てきれません。

PEEP様呼気圧の発生

 High Flow Nasal Cannulaが流行した当時、「High Flow Nasal CannulaをすることでPEEPが掛かる!!」とよく喧伝されました。しかし、これは患者が閉口状態でなければなりません。

 確かに30L/minもの流量が流れれば圧力も掛かるのでは?と思ってしまいます。
下記の表は引用文献2)に掲載されているPEEP様呼気圧を計測した表になります。

 この表から、50L/min流したとしても閉口状態で3.31cmH2O、開口状態で1.73cmH2Oしか圧力が掛からない事が分かります。圧力が掛かることに違いは無いですが、それでも雀の涙ほどであり、とても心許ない圧力であることが分かります

 PEEPの詳細に関しては次の記事で紹介しているのでよければご笑覧ください。

High Flow Nasal Cannulaをどのように使うのか

 さて、特徴の項では3つのポイントを紹介しました。

  • 高流量を流すことが可能となった
  • 解剖学的死腔の洗い出し
  • PEEP様呼気圧

 ではこれらをどのように活かせばいいのでしょうか。

流量設定はどうすればいいのか

 解剖学的死腔の項でも少し出た数字を覚えているでしょうか。

$$V_T= 500mL$$

 VTとは一回換気量のことを指します。そう。標準的な成人の一回換気量はつまり500mLなのです。I/E(吸気/呼気)比が1:5とすれば、吸気時間は1秒と出てきます。

 となれば、1分間の換気量はいくらでしょか。導出は簡単ですね。

$$FLOW VOLUME=V_T \times 60 min = 500 mL/sec \times 60 sec = 30,000 mL/min= 30 L/min$$

 となります。

 つまり、High Flow Nasal Cannulaの最低流量である30L/minでは健常人の吸気流速しか担保できないことになります。その為、すでにHigh Flow Nasal Cannulaの適応となっている何かしらの疾患になっている患者では、吸気流速が上昇しており、導入初期から50±10L/minで導入すべきともいわれています。

 ちなみに、敗血症を見つけるプロトコル「q-SOFA」での評価項目である頻呼吸時には、吸気流速は100 L/minにも上がっていると言われています。これから見ても30L/minでは力不足であることが分かりますね。

酸素濃度はどうすればいいのか

 機種によりますが、FiO2(酸素濃度):0.21~1.0まで調整が可能であります。高濃度酸素は酸素毒性があるため長時間の投与は避けたいところであります。その為、SPO2が90%を下回らない程度で管理することが求められます。

High Flow Nasal Cannulaのメリット・デメリット

 HFNCはあくまで酸素療法という位置付けであり、人工呼吸器ではない事に注意が必要です。

ではその点を踏まえてメリット・デメリットを説明できればと思います。

メリット

 気管挿管を行わずに酸素投与以上の呼吸管理が出来ることがメリットであり、挿管時に発生する合併症、鎮静薬使用による低血圧、食事・会話不可能、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、抜管後の咽頭浮腫・生体麻痺を回避することができます。3)

デメリット

 メリットとは違い、挿管していないために気道確保されていないことが最大のデメリットとなります。確実な気道確保が必要な症例に対しては人工呼吸器を選択します。また、深い鎮静が行えないため、患者の協力が必要不可欠です。3)

 装着するプロンブやNPPVマスクによっては皮膚・軟部組織損傷による医療関連機器圧迫創傷(Medical Device Related Pressure Ulcer : MDRPU )が発生する事にも注意が必要です。4)

適応・不適応は?

 これを語るには、まず呼吸不全の定義から語る必要がありますが、今回は割愛したいと思います。

 適応としては

  • I型呼吸不全:低酸素血症

 となります。II型呼吸不全である高二酸化炭素血症では、NPPV、もしくは挿管による人工呼吸管理が必要となるため、II型呼吸不全は不適応となります。3)

いつ離脱 or 挿管を判断すべきか

 High Flow Nasal Cannulaは簡便かつ強力な高流量酸素投与デバイスではあります。しかし、だらだらといつまでも続けるわけにはいきません。そこで求められたのが、継続するべきなのか、挿管するべきなのかを判断する指標でした。

 その指標が

$$ROX Index = S_PO_2/F_IO_2/RR$$

 と言われる予測指標です5)

 2016年にこの予測指標が発表され、その後2019年にはさらに症例を集積し、診断精度が高い事が示されました。6)

 ROX Indexについては少々長くなるため、別記事で紹介できればと考えています。

あとがき

 今回はHigh Flow Nasal Cannulaがどのようなものなのか?を解説できればと思い、記事にさせていただきました。

 これまでに用いたことのない単語なども登場している為、時間があれば別記事にて紹介できればとも考える次第です。

 また、HFNCの管理についてはまだ触れていないので、次回シリーズは管理編としてお届けできればとも考えています。

 さて、では今回はこの辺でお暇いたします。

 ではまた~~

1)診療の手引編集委員会著 , 新型コロナウィルス感染症 COVID-19 診療の手引 , Aug2023

2)Rachael L Parke, Michelle L Eccleston and Shay P McGuinness , The Effects of Flow on Airway Pressure During Nasal High-Flow Oxygen Therapy , Respiratory Care August 2011, 56 (8) 1151-1155; DOI: https://doi.org/10.4187/respcare.01106

3)方山 真朱 , 人工呼吸管理 はじめの一歩 , レジデントノート増刊 Vol.24-No.8

4)小尾口 邦彦 , こういうことだったのか!!ハイフローセラピー , 中外医学社

5)Oriol Roca MD, PhD , Jonathan Messika MD , Berta Caralt MD , Marina García-de-Acilu MD , Benjamin Sztrymf MD, PhD , Jean-Damien Ricard MD, PhD , Joan R. Masclans MD, PhD , Predicting success of high-flow nasal cannula in pneumonia patients with hypoxemic respiratory failure: The utility of the ROX index , Journal of Critical Care Volume 35, October 2016, Pages 200-205

6)Oriol Roca , Berta Caralt , Jonathan Messika , Manuel Samper , Benjamin Sztrymf , Gonzalo Hernández , Marina García-de-Acilu , Jean-Pierre Frat , Joan R. Masclans , and Jean-Damien Ricard , An Index Combining Respiratory Rate and Oxygenation to Predict Outcome of Nasal High-Flow Therapy , Am J Respir Crit Care Med , 2019;199:1368-76

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