ヘプシジンって何者??~その正体を探る~

血液透析

 おはこんばんちわなら~

 さて、血液浄化業務に携わる皆さんにとって、腎性貧血は切っても切り離せない存在としてこれまで説明してきました。

 当ブログでも、腎性貧血について、鉄代謝とともに若干ではありますが触れてきました。

 今回は上記の記事でも出てきたヘプシジン(Hepcidin)について考察していければと思います。

 では行きましょう。ヘプシジンの世界へ。

ヘプシジンの歴史

 ヘプシジンの歴史自体は比較的新しく、2,000年代初頭のほぼ同時期に4カ所の研究所から発見されたペプチドになります。

 Krauseら1)は2,000年に血液透析から抗菌ペプチドを抽出、これが肝臓でせいせいされていることからLiver expressed antimicrobial peptide 1(LEAP-1)と命名しました。このペプチド自体は、2001年Ganzグループ2)が尿中から発見しヘプシジンと名付けた抗菌ペプチドと同一のものでありました。一方で、動物実験からは、マウスの鉄過剰状態で発現する遺伝子がヒトヘプシジン遺伝子(HANP)と類似していることが確認されます。3)その後、著名な鉄沈着を来たす若年性ヘモクロマトーシスの責任遺伝子の一つとしてHANPの変異によるヘプシジン産生障害が確認され、ヘプシジンの発現低下により腸管からの鉄吸収が続き不要な鉄が沈着することを、さらに、著名な説欠乏性貧血を認めるヒトのヘプシジン産生肝腫瘍では、その腫瘍摘出により貧血が改善することが報告され4)、ヘプシジンが鉄代謝の要となっていることが臨床的にも確認されました。

ヘプシジンの役割

 先にも述べた通り、ヘプシジンは鉄代謝において、とても重要な役割を果たしていることが判明したわけです。

 近年ではその分野の研究進歩は目覚ましく、様々なことが判明しています(検索すれば文献結構出てくるんですよね)。

 透析の臨床現場では経口鉄、及びフェジンが投与されます。これにより、血清鉄は一時的にでも過剰状態となります。これらは古典的トランスフェリンレセプター(Transferrin Receptor : 以後、TfR)1への鉄取り込みを促進します。しかし、TfR1に結合できない余剰な鉄は鉄飽和レセプターとしての役割を持つTfR2へ結合を始めます。TfR2へ結合した鉄は、細胞内へ鉄の取り込みを促進するとともに、ヘプシジン-25分泌を促進して血清鉄濃度のcontrolを始めます。

 ではどの様な機序でコントロールを始めるのでしょうか?これを語るには、まず鉄の代謝を振り返る必要があります。

鉄の取り込み

 以下の記事でも鉄の取り込み、抑制機構に関しては論じているんですね。

 鉄の総量は通常3~4gとされていて、その内訳は赤血球ヘモグロビンに2~3mg ,血中トランスフェリン鉄として2~3mg , 最後に肝臓や脾臓中の貯蔵鉄として1gが主に分布しています。

 取り込みとしては、十二指腸小腸を介して腸管上皮の腸管内腔側細胞膜に存在するduodenal cytochrome b (Dcytb)によって2価鉄に還元された後、金属トランスポーターで あるdivalent metal transporter 1 (DMT1)という蛋白によって腸管上皮細胞に吸収されます。食肉などに含まれるヘム鉄(Fe2+)はheme carrier protein 1 (HCP1) という蛋白によって腸管上皮細胞に吸収されます。

 吸収されたFeは共通の排出たんぱく質であるフェロポルチンによって血管腔側に排出される。その際に、細胞表面であるフェロキシターゼであるヘファスチンにより三価鉄へ酸化される。そして肝臓で合成されるトランスフェリンと結合し、トランスフェリンー鉄複合体として骨髄を始めとした利用器官へ運搬される。トランスフェリン自体は金属イオンと非常に強く結合するが可逆的である。特に3価鉄との親和性は極度に高い。血漿中の鉄のほとんどがトランスフェリンに結合しているが、全鉄量からするとわずか0.1%に過ぎず、鉄分貯蔵の意義はない。

 (Transferrin Receptor : 以後、TfR)1-トランスフェリン鉄複合体はエンドサイトーシスにより砂防内へ取り込まれる。この取り込みは普段から大部分の細胞、特に発生中の赤血球でTfR1を介した鉄の取り込みの主要経路となっています。しかし、血清鉄濃度が低下すると、肝細胞上のTfR1の発現が増加(結合量が多くなる)するため、HFEはTfR1と複合体をつくり、トランスフェリン鉄を取り込む方向へ働く。逆にSIが過剰になると、TfR1は発現が減少し、HFEはTfR2と複合体を作ります。

鉄の放出

 細胞内に取り込まれた鉄が血中へ汲みだされる場合、フェロポルチン(FPN)を介して二価鉄として細胞外へ汲みだされる。その際に、再度フェロキシターゼであるセルロプラスミンやヘファスチンにより三価鉄に酸化され、トランスフェリン鉄として血中へ運搬される9)10)

ヘプシジン-25の発現機構について

 ヘプシジンの発現にはTfR2が欠かせません。そしてフリンが欠かせません。

 ではTfR2とは何か?TfR2は主に肝細胞膜上に発現を認め、TfR2は血清鉄濃度を監視しており、鉄過剰状態でHFE※1と複合体を形成しだします。TfR2のトランスフェリン鉄に対する結合親和性は25~30倍6)7)低いとされ、TfR1がその結合を飽和させることでTfR2に鉄トランスフェリンが結合を始める。その為、普段複合体を作ることは少ない。トランスフェリンに結合したHFE-TfR2複合体はリン酸化され、シグナルが入る。このシグナルがフリン発現(図3)を増加させます8)

 一方では、肝細胞内の貯蔵鉄量が増加すると骨形成蛋白質6(bone morphogenetic protein 6:以後BMP6)発現が増加し、BMP6前駆体がフリンで分解されBMP6が分泌され、BMP受容体に結合、リン酸化します。これが(the intracellular small mothers against decapentaplegic homologue:以後、SMAD)1/5/8をリン酸化し、SMAD4と結合し核内でペプシジン遺伝子(hepcidin antimicrobial peptide:以後、HAMP)のエンハンサー※2に結合し、転写を活性させる。

 ヘプシジン前駆体は前述したフリンによりヘプシジン-25に変換され分泌されます。分泌されたヘプシジン-25は、マクロファージや腸上皮細胞や肝細胞の鉄輸送蛋白であるフェロポルチン(ferroportin:以後、FPN)の分布密度を制御して、血中への鉄供給量を制御している。

 Hepcidin-25の発現量が多くなることにより、FPNの分布密度は低下し、細胞内への鉄取り込み量(貯蔵鉄)は増加し、TSATは増える傾向になります。これにより血中への鉄の供給は低下することになります。

※脱線するが、HFEとはヘモクロマトーシス蛋白の事を指す。この遺伝子はヒトMHC class I様遺伝子で、その遺伝産物HFEは透析でお馴染みのβ2-MG、TfR1と結合する2)

※2 遺伝学においてエンハンサーは、特定の遺伝子の転写の可能性を高めるためにタンパク質が結合する、短いDNA領域である。多くの場合、これらのエンハンサーに結合するタンパク質は転写因子と呼ばれる。

ヘプシジンの正常値は?

 正常人でのHepcidin-25の正常値に関しては、鉄の負荷状態により異なるようですが、通常25ng/mL以下でバランスを保っているようです。

 なお、透析患者のヘプシジンの正常値は49.8ng.mLだそうです(初めて知りました)。

 フェリチンやCRPと相関するらしいですが、実際どうなんでしょうか。正常値であればHbも11‐13g/dL内という事なのでしょか??そのあたりについての文献は見つけられなかったので、もしご存知の方居られましたらご連絡ください。

あとがき

 今回は概論的ではありますがヘプシジンについて解説してきました。

 ヘプシジンは鉄の汲みだし抑制に大いに関係する。ということはご理解いただけたのではないでしょうか。

 ヘプシジンが発現するまでも多くの酵素反応やDNAが関係してきますので、この辺りはとても複雑です。しかし、この理解を深めることで腎性貧血への理解も深まるのではないでしょか。

 筆者も今ヘプシジンの動態に関して、少し研究してみたいなーとか考えています。

 なので、もしかしたらどこかでお会いできるかもしれませんね。

 その時はよろしくお願いします。

 では今回はこの辺で。

 ではまた~~

1)KrauseA,etal:LEAP-1,anovelhighlydisulfide-bonded humanpeptide , exhibits antimicrobial activity . FEBS Lett480:147―150,2000.

2)ParkCH,etal:Hepcidin,aurinary antimicrobial peptide synthesized in the liver . JBiol Chem 276 : 7806―7810,2001.

3)PigeonC,etal:A new mouse liver-specific gene, encoding a protein homologous to human antimicrobial peptide hepcidin , is overexpressed during iron overload .J Biol Chem 276 : 7811―7819,2001.

4)Weinstein DA , etal : Inappropriate expression of hepcidin is associated with iron refractory anemia : implications for the anemia of chronic disease . Blood 100 : 37763781 , 2002.

5)Poli M, et al: Transferrin receptor 2 and HFE regulate furin expression via mitogen-activated protein kinase/ extracellular signal-regulated kinase(MAPK/Erk)signaling. Implications for transferrin-dependent hepcidin regulation. Haematologica 95: 1832―1840, 2010.

6)Transferrin receptor 2-alpha supports cell growth both in iron-chelated cultured cells and in vivo”. The Journal of Biological Chemistry 275 (22): 16618–25. (June 2000). doi:10.1074/jbc.M908846199. PMID 10748106.

7)omparison of the interactions of transferrin receptor and transferrin receptor 2 with transferrin and the hereditary hemochromatosis protein HFE”. The Journal of Biological Chemistry 275 (49): 38135–8. (December 2000).

8)Poli M, et al: Transferrin receptor 2 and HFE regulate furin expression via mitogen-activated protein kinase/ extracellular signal-regulated kinase(MAPK/Erk)signaling. Implications for transferrin-dependent hepcidin regulation. Haematologica 95: 1832―1840, 2010.

9)Hentze MV , Muckenthaler MU , Galy B , Camaschella V . (2010) Two to tango: regulation of Mammalian iron metabolism . Cell 142:24-38

10)Ganz T.(2013) Systemic iron hemostasis Physiol Rev 93: 1721-41

鉄代謝異常の臨床―鉄の欠乏から過剰まで
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