おはこんばんちはなら
今回は少し間が空きましたが、またしても呼吸器関連の記事をご提供できればと思います。
さて、タイトルにある通り、今回は用手換気用デバイスの用途についてご紹介しようと思います。
急変時や救急現場で頻回に用いられるこれらデバイスですが、ちゃんと違いを理解して使っている方はどれほどいるでしょうか?
筆者も実はあんまし理解しておりません。なんせジャクソンなんて使ったことが無いので。
というわけで、今一度復習も兼ねて解説してみたいと思います。
では行きましょう。ようこそ、換気デバイスの世界へ。
バッグバルブマスクとは?
そもそもバックバルブマスクってどんな製品だっけ?と思う方も居ると思うので、まずは写真を。
上記の写真は医薬品医療機器総合機構:PMDAの医療安全情報 No.38 2013年5月号からの引用です。
この写真は、所謂フル装備のバッグバルブマスク(以下、BVM)です。恐らく普段急変の現場で見るのは①~④のパーツ構成のBVMではないでしょうか。
BVMBVMと連呼していますが、実はこいつ、他にも呼び名があります。勘の鋭い方はお気付きかもしれませんが、「アンビューバッグ」とも呼ばれます。
先行商品がそのまま一般名称化するのはあるあるです。この子も例に漏れずな感じです。
筆者も時たま混同というか、勘違いしてしまい、BVMとアンビューは別デバイスだと思ってしまう事が良くあります。気を付けたいところですね。
BVMの歴史
先ほども述べたように、BVMの別名称としてアンビューがあるということは紹介しました。
ではその元を辿るとどうなるのでしょか。
バッグバルブマスクのコンセプトは、1956年にドイツ人技師ホルガー・ヘッセとそのパートナーであるデンマーク人麻酔科医ヘニング・ルーベンによって、吸引ポンプの初期研究に続いて開発されました。ヘッセの会社は後にアンブA/Sと改名し、1956年からこの装置を製造、販売しています。アンブバッグとは、アンブA/S社の自己膨張式バッグ蘇生器のことで、現在も自己膨張式バッグ蘇生器を製造・販売しています。
今日では、BVMの製造業者は他にもいくつかあり、オリジナルのアンブバッグのように、耐久性があり、徹底的に洗浄した後に再利用することを目的としたものもあります。また、安価で1人の患者用に使用されるものもあります。
当初は1つのサイズで製造されていたBVMは、現在では乳児、小児、成人に用いるためのサイズが用意されています。
BVMの名称の由来
BVMの名称の由来といっても大したことはありません。先述した写真にあるパーツ構成の内、①~④がついているからこう呼ばれているに過ぎません。
1.マスク
まずはマスク。これがなければ話になりません。
乳児、小児、成人の3タイプが現在では用いられており、顔のサイズにより選択の幅を持たせています。
成人ー特に高齢者で困るのが、対象者が総義歯だった場合です。誤嚥の予防から、義歯を取り除いて換気を行う場合があるのですが、これをすると頬がこけてしまうため、マスクフィッティングがとても悪くなってしまいます。その為、マスクの装着には「ECクランプ法」と呼ばれる方法で顔面に密着させる方法が取られます。
ECクランプ法は一時救命措置:(Basic Life Support:BLS)などの講習を受講するときに習う方法であり、これは一般人でもバイスタンダー(1番最初に救命措置を行う人)であれば行うことが推奨されていますので、医療従事者の皆様には、是非とも習得して頂きたい手技になります。
バッグ
BVMは、酸素ボンベに装着しなくても、患者に「ルームエア」(21%の酸素)を供給するために用いることができる。しかし、BVMは、別のバッグリザーバーに接続して、圧縮酸素源から純酸素を充填することもでき、患者に供給する酸素の量をほぼ100%に増やすことも可能です。
また、優秀なのが自動で膨張するという点である。患者の肺内圧に関係なく、バッグの後ろ部分から大気(または純酸素)を取り込むことで、バッグは自動で膨張することが可能です。
バルブ
日本語では「一方弁」と訳されるパーツです。
押し出した酸素や空気がバッグ内に逆流するのを防ぐ意味あいが有ります。また、往々にしてあるのが、換気が肺ではなく胃へと入っていた場合、嘔吐などの吐しゃ物が出てくることがります。この吐しゃ物が逆流してバッグ内へ混入することを防ぐことも一つ仕事としてあります。
ただ、実際の臨床では、バルブの先にバクテリアフィルターなども装着することが多いため、そこで阻止されることがほぼほぼだと思います。バクテリアフィルターならディスポーザブルですからね。
物としては人工鼻ですが、似て非なるものなので注意が必要です。
バルブに関しては、勘違いする方も居るかもしれませんので付記すると、これはあくまで一方弁なだけで、PEEP弁ではないという事です。
挿管時も、一時的に人工呼吸器に接続するまでマスクを取り外し、バルブないしフィルターと挿管チューブを接続することがありますが、PEEPが掛かる訳ではありません。その為、PEEPが必要な場合には、別でPEEP弁を用意する必要があります。
PEEPバルブの構造はちょっとマニアックなので割愛します。
なお、PEEPの役割などは別記事で紹介しているので、そちらをご参照ください。
以上でBVMの解説は終わりです。では続きまして。
ジャクソンリースとは
ジャクソンリースは使うのに少しコツがいるデバイス・・・な気がします。
筆者も実物を見たかどうかは定かではありません。ではどんなものなのでしょうか?
回路構成はとてもシンプルで、「Tピース」「蛇管」「バッグ」「ガス放出弁」の4つからなります。
4つ。というパーツ数だけを見るとBVMの方が少なくなりますが、それは緊急の場合のみ。フル装備のBVMが6点セットに対して、ジャクソンリースは4点セットでフル装備です。そう考えるとシンプルですね。
ジャクソンリースは正式名称?
筆者も驚きましたが、実はジャクソンリースは正式名称ではありません。日本語では流量膨張式バッグと呼ばれ、英語ではflow inflating bagなんて呼ぶようです。いやー知らなかった。
ジャクソンリースのメリット・デメリット
BVMの項ではメリットデメリットは明確には説明していませんでしたが、「自動で膨張する」がメリットであり、「PEEPが掛からない」がデメリットでありました。ではジャクソンリースはどうなのでしょうか?
メリット
ジャクソンリースはTピースの後にバルブを装着していません。つまり、患者の呼気がそのまま逆流してくるのです。
この特性上、患者の自発呼吸を感じやすく、肺コンプライアンスがとても分かりやすいです。患者の肺コンプライアンスが分かりやすいという事は、コンプライアンスに合わせたPEEPを掛けることが出来るという事です。逆に大気開放状態(圧力フリー)では肺内圧は一切かかりません。PEEP 0mmHg状態を作り出すことも出来ます。
また、高濃度の酸素を送気することもできるため、ちょっとした搬送時にSpO2を維持したい。という患者には適しているかもしれません。
デメリット
この子にも勿論デメリットは存在します。
「流量膨張式バッグ」の名前からも分かる通り、外部からのフローが無ければ膨らむことが出来ません。ではそのフローとは何を指すのでしょうか?それが純酸素ー酸素配管ーです。
上述したように、この子は医療機関や救急車内でなければ使えません。酸素供給源が必要だからです。
また、自動膨張式のBVMとは違い、患者の呼気が逆流してくるため、酸素配管から十分な酸素の供給(具体的には分時換気量:MVの3倍流量)が無ければ、バッグ内の二酸化炭素の再呼吸を起こしてしまいます。十分な酸素供給を行い、バッグ内の二酸化炭素をバッグ後方から吐き出してやる必要があるんですね。
また、回路の排気調節孔を開放しなければ、肺に過剰な圧力が掛かり、緊張性気胸などの医原性圧外傷:Barotraumaを引き起こしてしまいます(2023年のこちらの医療事故も参考に)。
PEEPの操作も難しく、このような医療事故を起こす危険性もあり、扱いには慎重を期します(まぁBVMだって同じだろ。といわれればそうなんですが)。
ジャクソンリースの動き方
まずは呼気相。画像の様に、患者の呼気相には、バッグ内へ呼気、つまりはCO2を吐いている事になります。そしてO2と混合されながらバッグを膨張させます。
続いて吸気相。吸気では、バッグを押し込むことで、高濃度のO2を肺に押し込むことが出来ます。但し、患者の分時換気量の3倍のO2を流していないと、100%近いO2を押し込むことは難しいかもしれません。
次に平衡(プラト―)相です。プラトーとは一定の圧力が掛かった状態を指します。バッグの押し込み具合を調整することで、PEEPを掛ける事が可能です。その代わり、送気も脱気もしません。
以上でジャクソンリースの説明は終わりです。
あとがき
さてさて、今回は蘇生用デバイスについて軽く解説してみました。
バッグバルブマスクとジャクソンリースの用途や使用環境の違いについてご理解いただけたでしょうか。
ジャクソンリースについてはPMDAから注意喚起が出てたような気がしますが、、、探したんですが見当たりませんでした。勘違いだったかな~。まぁいっか~。
という訳で、今回の記事はこれにて終了となります。
正しく使って正しく救命!!頑張って仕事してこー。
ではまた~~
コメント
BVM-MSK使用時の酸素Vol
VT600相当RR12回であれば、
2L/minであれば、28%
max15Lであっても54%である。
VT250程度であれば15L流しておけばおよそ80%まで得る事があるできる。
一方1000であると2Lの場合26%となり、15Lでも46%程度しか得ることができない。