おはこんばんちわなら
さてさて、前回不均衡症候群を説明する中で、血液ガスの触りについてお話させて頂きました。
とはいえ、当ブログでは一度も血液ガスについて触れてきませんでした。それは何故か。単純に難しいからです。
数式出てきたり、臓器のどの部分でイオン交換されてpHが変わったりなんだったりと、これまたとてもややこしい。
なので、筆者も苦手意識がありました。しかし、呼吸・代謝の話をするうえで、血液ガスのお話というのは避けては通れません。
なので、一度触れてしまったものは、いい加減責任を持って編集しようかと思った次第です。
どのような構成になるのかは書いてのお楽しみ。
では行きましょう。血液ガスの世界へようこそ。
主な活躍場所
医学生、看護学生、臨床工学技士学生、検査技師学生。まぁこの辺りの職種は、学生時代に血液ガスについて大なり小なり習っているでしょう。
では実際に、臨床で活躍するとなるとどのような場所で活躍することになるのでしょうか。
それは、例えばER:救急外来であったり、ICU:集中治療室、手術室-特に人工心肺症例であったりします。また、意外?にも透析室でも血液ガスを測ることはあります。
普通病棟であれば、人工呼吸器を扱っている病棟なども、人工呼吸器の設定を変更した後に血液ガスを採取することはあります。
では血液ガスは何を見ているのか。それをお話ししましょう。
血液の酸塩基平衡
と、前項は血液ガスはどのような場所で測られるか?という話で〆ました。
では血液ガスとは何を見ているのでしょうか。その正体は血液のガスー酸塩基平衡です。
酸塩基平衡ってそもそも何なんだ?ってなりますよね。恐らく中学校の理科総合とかに出てくる言葉だと思います(筆者もよく覚えてません)。
酸塩基というのは、英語として言い換えればpH(ペーハー)です。日本語では水素イオン指数、水素指数なんて言ったりもします。しかし、pHの正式名称は実は定まっていません。
というのも、pHという言葉を1909年にデンマークの生化学者セーレン・セーレンセンが提案した際、このpHが何を指すかについて明言しなかったのです。その為、各国で呼び名はそれぞれであり、仮説の域は出ません。日本ではJIS規格上「ピーエイチ」「ピーエッチ」となっているそうです。
さて、若干脱線してしまいましたが話を本題に戻しましょう。
酸塩基とは、pHが酸性かアルカリ性か、どちらに傾いているかを判断するための指標となるものです。
この世にある全ての物質は何かしらの属性?に属しているので、酸性なりアルカリ性なり、もしくは中性として存在しています。
人体も例外なく何かしらの酸塩基は持っている訳ですが、その代表として血液のpH=7.40±0.02という指標があるのです。
ちなみに胃酸のpHは1~2と強酸性です。これに耐えうる胃や腸が凄いな~と思う次第です。
酸塩基平衡はどう求まるのか
さぁ皆さんお待ちかね。算数の時間がやって参りました。
血液のpHが7.40±0.02という数値である。というのは前項の最後でちょろっとお話しました。
数字で表せるということは、これは数式を使って導出可能であるということです。
ではどの様にして式は成り立つのでしょうか。
前回の不均衡症候群の記事内でヘンダーソン・ハッセルバルヒ式という化学式をご紹介しました。
$$CO_2 + H_2O ⇔ H^+ + HCO_3^-$$
上記の式はその化学式をブレステッドの酸塩基反応という式に変換した記述式になります。この式は医学分野をメインで用いられるため、Wikipediaの水素イオン指数のページには記述がありません。ちょっとびっくりですね。これはあくまで人体のpHを求める際に用いられる酸塩基反応の式であり、正式なヘンダーソン・ハッセルバルヒの式というのは
$$pH=pK_a+\log \frac{[A^-]}{[HA]}$$
となります。pKaは酸解離定数と呼ばれます。この源式を人体に適応すると
$$pH=6.1+\log \frac{[HCO_3^-]}{[0.03×PCO_2]}$$
となります。対数が出るだけでアレルギーが出る人には申し訳ない。ただこれ、避けては通れない道なのでご了承を。
さて、ある意味救済措置なのは、この対数を用いる式が実際にはブレステッドの酸塩基反応の式に変換可能ということです。で、ここでブレステッドの酸塩基反応の式をよく見ると、左辺にはCO2、右辺にはHCO3–が書かれていることが分かります。この二つの変数は、人体でどのように作用するのでしょうか?
酸塩基平衡を担う臓器とは?
それを担う臓器が肺と腎臓の二大臓器になります。
肺はガス交換を担います。ガスというのは酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)です。
腎臓は水分の出納を介して重炭酸(HCO3–)と水素イオン(H+)をコントロールします。
これらのバランスをコントロールするのもまた、腎臓の仕事です(これをホメオスタシスの維持と言いますね)。
酸塩基平衡の崩壊と結末
さて、酸塩基平衡を司る臓器が肺と腎臓という話が出ました。
弊ブログではまぁなんちゃって医学系ブログを書いているので、疾患が沢山出てきます。特にCKDによる血液浄化や呼吸器疾患による人工呼吸器をメインに執筆しています。
つまり、非生理的な状態を解説しています。
さて、ではこの非生理的な状態ではどのように酸塩基平衡は動いていくのでしょうか。それをご紹介します。
肺疾患による酸塩基平衡の変化
肺障害というのは、要するに呼吸不全です。呼吸不全というのはI型とII型の二つに分けられます。
I型とII型の違いは二酸化炭素が吐けるか吐けないかー二酸化炭素が貯留するかどうかという点です。
呼吸不全の前提条件は血中の酸素分圧が60mmHg以下になることです。そこに付随して、
- 二酸化炭素分圧が上昇しない(PaCO2が貯留しない=45mmHg以下)場合をI型呼吸不全
- 二酸化炭素分圧が上昇する(PaCO2が45mmHg以上になる)場合をII型呼吸不全
と定義しています。
PaCO2の血中分圧は、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式では分母を動かすことになります。そのため、肺の障害が原因の場合、pHは小さくなります。つまり酸性へ傾きます。
つまり、II型呼吸不全では単純に考えればpHが低くなる訳です。これを呼吸性アシドーシスといいます。
逆に過換気などでPaCO2が低くなる病態では、pHが高くなります。これを呼吸性アルカローシスといいます。
腎疾患による酸塩基平衡の変化
慢性腎臓病:CKD(Chronic kidney Disease)や急性腎障害:AKI(Acute Kidney Injury)ではCrの上昇に始まり、eGFRの低下、尿量の減少を示します。これらの原因は様々ですが慢性糸球体腎炎であったり、糸球体腎硬化症、ANCA関連血管炎、IgA腎症などの疾患が挙げられます。
これらは、ミクロに診た時、原因として糸球体の動脈やその周囲の細胞が炎症を起こす為に細胞間隙が開いてしまい血尿や蛋白尿として現れたり、そもそも虚血による酸素供給不足により細胞の繊維化を引き起こします。
血漿が糸球体で濾過された時点で、原尿には重炭酸(HCO3–)が多量に含まれています。近位尿細管で、本来は重炭酸は尿細管から分泌された水素イオンと結合し、H2CO3–となり、炭酸脱水酵素の作用を受けてCO2とH2Oに変換され、尿細管腔側から再吸収されます。しかし、尿細管やその他の部位を含め、細胞が何かしらのダメージを受け、重炭酸:HCO3–は漏出状態となります。
こうなれば、血漿中のpHは変動してしまいます。ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式では、分子が小さくなるので、pHは小さくなり、酸性へ傾きます。
腎臓の障害が原因で酸性へ傾くことを、代謝性アシドーシスと呼びます。
先ほども述べたように、腎性・腎後性の障害では代謝性アシドーシスへと舵を切ります。
しかし、腎前性の場合どうでしょうか。脱水(特に反復性嘔吐や経鼻胃管による吸引)や低カリウム血症などでは重炭酸は貯留方向へ舵を切ります(逆に水素イオンの分泌が阻害されます)。この状態ではpHは大きくなります。この状態を代謝性アルカローシスと呼びます。
代償性にpHが動く場合が現実
さて、前項では呼吸性・代謝性とそれぞれの臓器や症状でアシドーシス・アルカローシスが発生することをご説明しました。
しかし、実臨床ではこの急性(一次性)の変化を見るのは稀です。それはなぜか。代償性という機能が働くからです。
ブレステッドの酸塩基反応の式を見ても分かる通り、右辺と左辺は両立した状態です。なので、どちらかが減れば、反対側を増やして正常に保とうという働きをします。この働きを代償性といいます。
それぞれに代償性アルカローシス・アシドーシスという名称がついていますが、詳細はまた別記事で。
あとがき
さて、今回は血液ガスー酸塩基平衡についてお話しました。
と言っても、本当に触りだけなので、なかなか消化不良な方も多いのではないでしょうか。
筆者もこれでいいのか?など、色々と考えながら執筆しました。間違いがあった場合はご指摘ください。その都度、加筆修正していきます。
でなわけで、今回はこの辺でお別れです。
ではまた~
コメント
アルカリ性とは、塩基性物質が水溶液中に溶け出した状態のこと。
pH値は水素濃度、どれだけの水素イオンが溶液中に電離状態であるかの指標。