CKD-MBD:慢性腎臓病に伴う、ミネラル骨代謝異常 シリーズも第3弾となりました。
今回も前回記事を参照しなくてもいいよう、出来るだけP:リンにフォーカスを当てた記事を書いていきたいと思います。
リンが上昇することで、二次性副甲状腺機能亢進症、ならびに骨粗鬆症を来たすことは前回説明しました。
これらはリンが回りまわって悪さをするだけであり、リンが直接手を下すわけではありません。
ではリンは何をするのか??簡単ではありますが解説していきましょう。
ちょっと復習
しつこいようですが、これがCKD-MBDにおいて、リンが正常値達成の1st targetの根拠になった研究のグラフです1)。前回の記事同様、リンが6.0mg/dLを超えたあたりで全死亡ハザード比が急上昇を見せていますね。これだけでリン高値は悪!!と言えることが分かりました。
上記図はリン負荷がかかった際の正常腎でのPTH,Ca動態を表した図になります。
これが破綻することにより、二次性副甲状腺機能亢進症ならびに骨粗鬆症を発症します。
では本題、リン本体が何をするのかについてです。
遊離したCaとの戯れー異所性石灰化ー
リン負荷の上昇によりPTHが分泌亢進し、これにより骨からCaが遊離するという事は説明しました。
そして吸収されたリンがどのように分布しているかも前回説明しました。そう。骨です。その量85%。
骨はそもそもCaです。そして85%のPはCaと結合することになります。
血清中のCaとPはあらゆるところで結合することになります。
結合した先では何が起こるか。
本来は骨代謝回転といわれる骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収が亢進する『はず』でした。
しかし、神の悪戯か、本来であれば骨が存在しない場所で骨形成が行われてしまうのです。
これが俗にいう異所性石灰化です。
異所性石灰化とは正常骨以外の軟部組織へのカルシウ ムの非生理的な沈着で沈着部位によりさまざまな臓器障害をもたらす。慢性腎不全 特に長期透析患者に高頻度に認められる合併症であるが最近では早期の腎機能障害の時期から合併することが知られている。
腎と異所性石灰化 日本腎臓学会 https://jsn.or.jp/journal/document/49_4/416-421.pdf
石灰化は、それ自体が動脈硬化を引き起こします。
動脈硬化症とは
動脈硬化症(arteriosclerosis)とは,動脈壁の肥厚および弾性喪失を引き起こす複数の疾患の総称です3)。
血管の(異所性)石灰化はCVD:心血管疾患と密接な関連があり、種類は2種類に分けられます。
- アテローム性動脈硬化症
- 非アテローム性動脈硬化症
CKD患者においては、非透析患者であっても上記の説明通り早期から合併することが知られています。そのなかでも特に多い動脈硬化分類が非アテローム性動脈硬化症の中の一つ、「メンケベルグ型動脈硬化症」です。
特徴としては動脈の中膜の石灰化を起こし、内腔の狭小化を伴うことなく石灰化した硬い管のようになります(透析患者であれば、月1回のCTR測定でX-p撮りますよね。その時に大動脈が真っ白に形が見えます。それが石灰化です)。
但し、前々回の記事で説明した通り、心不全及び心筋梗塞での死因は腎不全患者の死亡原因1位、25.9%です。
非アテローム性動脈硬化症なのにCVD?なんとなく矛盾しますよね。それを説明しましょう。
CKDにおける動脈疾患
CKD患者において、透析の導入原疾患第1位は2011年から現在まで、DKD:Diabetic Kidney Disease 糖尿病性腎症となっています。
糖尿病(以下、DM)の3大合併症とは何か?臨床工学技士国家試験でも出題されているんじゃないでしょうか。
- 糖尿病性網膜症
- 糖尿病性腎症
- 末梢神経障害
以上です。
SNS上では時たま「糖尿病なんて名前だからダメなんだ。」という声が上がります。患者の病識の低さからくる声ですね。ではどんな名称がいいのか?それが「全身性血管ぼろぼろ症候群」だと思います(これもまたSNSで時たま発言されるアイデアです)。
動脈硬化症の危険因子としては、「高血圧」「高脂血症」「喫煙」「肥満」「糖尿病」「ストレス」「男性であること」「齢をとる(加齢)」が挙げられます。
危険因子を見る限り、透析患者は危険因子のオンパレードのような状態だという事がはっきりしました。透析患者は複数の危険因子に暴露されているため、非アテローム性動脈硬化症とアテローム性動脈硬化症の両方を患っているのです。
心血管疾患 CVD:cardiovascular disease
DM患者とnon-DM患者における心血管疾患 CVD:cardiovascular diseaseの発症率を調べたリサーチというのは存在します。
図1はタイトルの通り、DM患者における心筋梗塞(以後、MI)の発症率を調べたstudyをグラフ化したものです4)。HaffnerたちはFINNISH研究において糖尿病患者は心筋梗塞の既往がなくてもその既往のある非糖尿病患者と比較して心筋梗塞発症率が同等であることを示し,心血管疾患におけるリスクとしての糖尿病の重要性を再認識させました(図1)5).
また、TORIYAMAらによる研究では、65歳以上のDM-HD患者、non-DM-HD患者、65歳未満のDM-HD患者、non-DM-HD患者に分けた解析を行っており、その結果、65歳以上と65歳未満ではDMの有無に関して、悉く有意差が付くこととなりました6)。
残念ながら筆者のリサーチ力不足で、透析患者と非透析患者の発症率の有無を調べた文献は見つけることが出来ませんでした(一説では、一般住民に比して、数十倍の発症率だというStudyもあるようです7))。
末梢動脈疾患 peripheral arterial disease: PAD
上記のように大血管系や冠動脈系が動脈硬化症を起こす為、末梢動脈などはひとたまりもありません。
2022年には日本循環器学会より、2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン)が提唱されました(発表は2023年のJCSだったと記憶しています)。
ガイドラインでは、旧概念としてCLI:critical limb ischemia 重症下肢虚血とASO:arteriosclerosis obliterans 下肢閉塞性動脈硬化症を記載しています。
新概念、疾患名はCLIに代わり新名称が
CLTI:chronic limb-threatening ischemia 包括的高度慢性下肢虚血
ASOの新名称が
LEAD : lower extremity artery disease 下肢閉塞性動脈疾患
として提唱されました8)。
2.2.1器質的病変
2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン)
a. 動脈硬化性疾患
PADの原因となる動脈硬化病変は,病理学的には粥状硬化(内膜病変)と中膜硬化(Mönkeberg硬化)に大別される.硬化性病変にしばしば存在する石灰化病変は,臨床治療成績を不良とする大きな要因の一つである10, 11).中膜硬化は主として糖尿病によって形成され,下腿動脈に好発するとされている12).加えて,近年膝下動脈病変における血栓形成や,足部領域の動脈病変の臨床的意義が着目され始めている13, 14).糖尿病性足潰瘍では,足部動脈病変の併存が創傷治癒不全,小切断率や大切断率の増加に寄与していることが報告されている15).動脈硬化とも関連のある末梢動脈瘤は瘤内血栓の塞栓をきたすことで,急性もしくは慢性虚血の原因となる(第3章2.1「塞栓性」を参照).
ガイドラインにも先に述べた2大動脈硬化症が掲載されているあたり、重要度が良く伝わってきます。
さて、この引用の中で、「糖尿病性足潰瘍では,足部動脈病変の併存が創傷治癒不全,小切断率や大切断率の増加に寄与していることが報告されている」とあります。
次回はこの部分について、血液浄化分野として参画できる治療をご紹介できればと思っています。
あとがき
今回も駄文長文にお付き合いいただき、誠にありがとうございました(図表が少ないのは許してちょ)。
リン単独で人体に害を及ぼす。その機序が少しでも理解できる助けになれれば幸いです(ただ、どのようにして異所性石灰化が発生するのか、骨形成をするために内膜に接着するのかについては未解明な部分が多いです。その為、今回は割愛している部分が多めです。ご了承ください)。
異所性石灰化の話題から、外してはいけない話題、「動脈硬化症」へと飛び火したわけですが、いずれは末梢動脈硬化:PADについて、血液浄化領域から協力できる話題へシフトできればと考えています。
ではまたお会いしましょう。
引用・参考文献
1)Taniguchi M, Fukagawa M, Fujii N, Hamano T, Shoji T, Yokoyama K, Nakai S, Shigematsu T, Iseki K, Tsubakihara Y;Committee of Renal Data Registry of the Japanese Society for Dialysis Therapy. Serum phosphate and calcium should be primarily and consistently controlled in prevalent hemodialysis patients. Ther Apher Dial 2013;17(2):221‒228.
2)CKDブック,P.101 Fig10-2,南学正臣
3)MSDマニュアル プロフェッショナル版 非アテローム性動脈硬化症
4)Steven M. Haffner, M.D., Seppo Lehto, M.D., Tapani Rönnemaa, M.D., Kalevi Pyörälä, M.D., and Markku Laakso, M.D.Mortality from Coronary Heart Disease in Subjects with Type 2 Diabetes and in Nondiabetic Subjects with and without Prior Myocardial Infarction.:NEnglJMed1998;339:229-234
5)代田浩之, 糖尿病における心疾患, 心臓財団虚血性心疾患セミナー, 心臓Vol.48No.3(2016)
6)TakanobuTORIYAMA, MD MasakiYOKOYA, MD YoshioNISHIDA, MD KenjiKAWAJIRI, MD HiroshiTAKAHASHI*HirohisaKAWAHARA, MD ;Increased Incidence of Coronary Artery Disease and Cardiac Death in Elderly Diabetic Nephropathy Patients Undergoing Chronic Hemodialysis Therapy , J Cardiol 2000; 36: 165–171
7)Foley RN , Parfrey PS , Sarnak MJ :Clinical epidemiology of cardiovascular disease in chronic renal disease. Am J Kidney Dis 32 :S112-119 , 1998
8)2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン)
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