ブラジキニンが血圧を下げる理由~生理と機序~

血液浄化

特殊血液浄化に関わったことがある医療従事者であれば、この物質の名前は聞いたことはあるのでないでしょうか?

そう。ブラジキニンです。

大雑把にはブラジキニンが産生されるせいで血圧が低下し、ショックを起こします。

なんて説明されますが、じゃぁなんで産生されるのか?元々の役割は何なのか?

そこら辺を説明していければなーとか考えております。

では参りましょう。ブラジキニの世界へようこそ。

そもそもブラジキニンって何?

ブラジキニンは9個のアミノ酸からなるペプチドで、オータコイドと呼ばれる局所ホルモンの1つである。 作用は、血管拡張による血圧低下、内臓平滑筋の収縮、小腸上皮細胞からの塩化物イオンの分泌のほか、障害を受けたり炎症を生じている組織で、皮下の浮腫、知覚神経終末への痛み刺激を生じる。

トーアエイヨー 医療関係者向け情報

間違えないようにと筆者もまずはググってみるわけですが、のっけからバンッ!と答えが出されると、「お、おぅ。。。」とかなりますね。

という訳で、本来の生理作用としては血管拡張・内臓平滑筋の収縮、小腸上皮細胞からの塩化物イオンの分泌、そして浮腫と痛み刺激の放出ですね。

命名の経緯

ブラジキニン(bradykinin)は1949年にRochaら1)が、血中に蛇毒が入ると血圧低下と腸管の収縮を引き起こす物質があることを発見し、ギリシャ語の”遅い brady”と”運動 kinin”を繋ぎ合わせて命名しました2)

産生機序

ブラジキニンもいきなり産生される訳ではありません。

ではどこからどのような経路を辿り産生されるのでしょうか?

通常の機序では、3経路に別れて機序が考えられています。

  • キニンーカリクレイン系
  • 接触系
  • 線溶系

この中でも最も強い発現作用を持つのが、キニンーカリクレイン系です。

ブラジキニンの産生機序は混迷を極めます。わざわざここまで説明する意味は?と思われるかもしれませんが、自己満足にお付き合いください。

キニンーカリクレイン系

血漿プレカリクレイン(Prekallikrein,以後、PK)は肝臓で合成されるセリンプロテアーゼの一種です。血漿PKを起点とし、この血漿PKが接触系凝固因子であるα-活性化第XII因子(以後、α-FXIIa)により活性化され、α-血漿カリクレイン(α-PreKallikreins , 以後α-Kal)となり、α-Kalは自己活性化によりβ-Kalが生成されます。腎臓の皮質部から分泌されるα-Kalは、肝臓から分泌されるキニノゲンに作用し、キニングループを作り、降圧系に作用します。

α-FXIIaはα-Kalにより2本鎖のβ-FXIIaへと変換される訳ですが、これは陰性荷電表面とは結合できず、第11因子(以後、FXI)の活性化は有していません。その代わりPK活性化能は有しています。α/β-FXIIaにより活性化されたPKはα-Kalとなり、高分子キニノーゲン(high molecular weight kininogen: HMWK, 以後、HMWK)を分解し、ブラジキニンを産生します。

HMWKはFXIや血漿PKと複合体を形成して血中を循環しており、創傷などにより陰性荷電が露呈したとき、ドメイン5H内を介して陰性荷電と結合します。陰性荷電上ではα-FXII因子が結合しており、そこにHMWKとFXI、α-PKの4因子が結合し濃縮されることになります。陰性荷電上でα-FXIIaに変換されたα-FXIIは、FXIや血漿PKを活性化し、生成したFXIaは第IX因子(以後、FIX)を活性化することで凝固カスケードの逐次活性化によりフィブリン生成を誘引します。同時に生成したα-Kalはポジティブフィードバック機構によりα-FXIIaを活性化するとともに、HMWKを分解することにより9個のアミノ酸からなるブラジキニを生成します。

接触系(内因系)凝固経路

血液凝固には外因系と内因系に分けられるわけですが、カリクレインーキニン系への関与は内因系凝固カスケードが大いに関与しています。

内因系凝固因子は第12因子(以後、FXII)から開始するわけですが、FXIIが陰性電荷表面に接触することで開始します。FXIIは陰性荷電表面に接触するとα-Kalにより切断され、α-FXIIaへ活性化されます。α-FXIIは自己活性化することに加え、PKをα-Kalへ活性化する。即ち、FXIIはα-Kalを通じてPKと相互に活性化作用がある。

ブラジキニンの話からは脱線するが、α-FXIIによるFXIの活性化により、内因系凝固経路が開始する。

本来のブラジキニン産生後の行方

主に肝臓から生成されるアンジオテンシノーゲンは、腎臓の傍糸球体装置から分泌されるレニンに活性を受けて肺に存在するアンジオテンシンI (Angiotensin、以後AI)として生成される。AIは血管内皮細胞膜に発現しているアンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme , 以後、ACE)によりアンジオテンシンII(Angiotensin , 以後、AII)に変換される。ACEはキニナーゼII活性も持つため、血中のブラジキニンはキニナーゼIIにより分解され不活化フラグメントとなる4)。また、AIIにより、ブラジキニン作用で弛緩した平滑筋を収縮させる方向へ働き、その効能を拮抗させる方向に働きます。

ACE阻害薬が禁忌の理由

ACE阻害薬(以後、ACEi)はその名の通りACEの変換を阻害します。その為、AIはAIIになることが出来ず、結果として血管は収縮しません。

また、産生したブラジキニンはACEが阻害されていることにより分解されることなく血中を遊離するため、血管内皮に作用して血管を拡張する方向へ作用します。その為、下記で説明しますが、一部の特殊血液浄化では使用が禁忌とされています。

吸着式血液浄化での問題点

血液浄化って技士内からも軽く見られがちですが、れっきとした体外循環なんです。

血液(ボリューム)が体外に出ている分、浸透圧は下がるので血圧は下がりやすくなります。

血圧が下がりやすい治療にも拘らず、そこに輪を掛けるようにして血管が拡張するホルモンが分泌されては血圧が保てません。そこが問題です。

リポソーバーやレオカーナーで下がる理由

タイトルにある治療に使われるリガンドはデキストラン硫酸です。

このデキストラン硫酸は陰性に荷電しているため、接触系凝固因子を刺激します。この為、デキストラン硫酸へ接触した血漿PKはHMWKを過剰に分解するため、ブラジキニンを過剰産生する方向へ働きます。凝固系ももちろん活性しますが、それと同時に線溶系も活性化するため、血栓症が発生したりすることはありません。しかし、CKD患者はRAA系が弱くなって/破綻しているため、AIIの作用が弱く、平滑筋の収縮が起こりづらく、結果、ブラジキニンの血管拡張力が勝ってしまい、血圧低下を起こします。

AN69で下がる理由

PAN膜(以後、AN69)もリポソーバーやレオカーナと同様、陰性荷電により吸着を行っています。但し、その陰性荷電は人工腎臓素材の中でも群を抜いて強く、-89mVを示しています3)。この強い陰性荷電により同様に血中で陰性に荷電しているアルブミンはチャージバリアにより弾かれほとんど濾過されません。その代わり、炎症性サイトカインは陽性に荷電しているため、IL-6等を効率よく吸着することが出来ます。

あとがき

今回は大変な知識の整理となりました。キニンーカリクレイン系もそうですし、接触(内因)系凝固カスケードの復習、そしてブラジキニ産生後はレニンーアンギオテンシンーアルドステロン(RAA)系と、国家試験に出てもおかしくない知識のオンパレードでした。

また、これに関連してリポソーバーやレオカーナ、AN69で血圧が下がる理由も説明できたのは良かったと思います。

ACE阻害薬がなぜ使用禁忌なのかも理解できたのではないでしょうか。

図が実にお粗末なのはご了承ください…orz

もしここが変だろ。間違っている。という部分があれば、ご指摘いただければ勉強させていただきます。

ではでは~~

Bitly
Bitly
Bitly

1)M ROCHA E SILVA, W T BERALDO, G ROSENFELD , Bradykinin, a hypotensive and smooth muscle stimulating factor released from plasma globulin by snake venoms and by trypsin . Am J Physiol 1949;156:261 73.

2)岩本 和真 , 秀 道広 , ブラジキニン(Bradykinin) , アレルギー 66(6);2017

3)竹澤 真吾 , 福田 誠 , これからの透析医療のための新ハイパフォーマンスダイアライザUp to Date- ダイアライザとヘモダイアフィルター - , 東京医学社

4)「酵素の仕事」シリーズ 7)アンジオテンシン変換酵素(ACE) 

5)岡本博 , 組織カリクレインの構造と特異性 , 血栓止血誌11(1):82~88, 2000

6)菅﨑 幹樹 、徳永 尚樹 、池亀 彰茂 、中尾 隆之 、大浦 雅博 、三木 浩和 、長井幸二郎、 高山 哲治 , 術前スクリーニングで偶然発見された先天性プレカリクレイン欠乏症の1症例 , 医学検査 Vol.70 No.1 (2021)  pp. 132–137 DOI: 10.14932/jamt.20-5

7)日本血栓止血学会 用語集

8)寺澤秀俊,中村 徹,中垣智弘,岩永貞昭 , 血液凝固ヒトXII因子を巡る最近の動向 , 血栓止血誌2014; 25(3): 411-422

9)MSDマニュアル プロフェッショナル版 血液凝固反応の構成因子

10)循環器用語ハンドブック , トーアエイヨー , 医療関係者向け情報

11)公益社団法人 日本薬学会

コメント

タイトルとURLをコピーしました