PAD理解の一助となるか?~ガイドライン改訂~

循環器

先日公開した記事で、終盤に動脈硬化症の話題を提供させていただきました。

今回は末梢動脈疾患:PADについての概略、そして内科的治療について解説できればと思っています。

様々な概念のあるPAD、そして様々な治療方法のある疾患ですが、少しでもその世界に触れ、業務の一助となれば幸いです。

では、血液浄化領域の可能性を探りに参りましょう。

まずはPAD:末梢動脈疾患のおさらい

2022年に日本循環器学会より、2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン)が提唱されました(発表は2023年のJCSだったと記憶しています)。

ガイドラインでは、旧概念としてCLI:critical limb ischemia 重症下肢虚血とASO:arteriosclerosis obliterans 下肢閉塞性動脈硬化症を記載しています。

新概念、疾患名は

CLIに代わり新名称が

CLTI:chronic limb-threatening ischemia 包括的高度慢性下肢虚血

ASOの新名称が

LEAD : lower extremity artery disease 下肢閉塞性動脈疾患

として提唱されました1)

これらの新名称疾患群は、PADの下に位置付けされる形でガイドラインに掲載説明されています。

2.2.1器質的病変
a. 動脈硬化性疾患
 PADの原因となる動脈硬化病変は,病理学的には粥状硬化(内膜病変)と中膜硬化(Mönkeberg硬化)に大別される.硬化性病変にしばしば存在する石灰化病変は,臨床治療成績を不良とする大きな要因の一つである10, 11).中膜硬化は主として糖尿病によって形成され,下腿動脈に好発するとされている12).加えて,近年膝下動脈病変における血栓形成や,足部領域の動脈病変の臨床的意義が着目され始めている13, 14).糖尿病性足潰瘍では,足部動脈病変の併存が創傷治癒不全,小切断率や大切断率の増加に寄与していることが報告されている15).動脈硬化とも関連のある末梢動脈瘤は瘤内血栓の塞栓をきたすことで,急性もしくは慢性虚血の原因となる(第3章2.1「塞栓性」を参照).

2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン)

ここで注目していただきたいのが、「糖尿病性足潰瘍では,足部動脈病変の併存が創傷治癒不全,小切断率や大切断率の増加に寄与していることが報告されている15).動脈硬化とも関連のある末梢動脈瘤は瘤内血栓の塞栓をきたすことで,急性もしくは慢性虚血の原因となる」という一文です。

PADの放置は様々な病態を惹起し、最悪の場合は切断という経過を辿るのです。

ではその発症率や生命予後、治療法についてみてみましょう。

PADの病態

定義

末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)は本来冠動脈以外の末梢動脈に病変が生じる疾患の総称である1).その他の総称としてperipheral artery disease,peripheral vascular diseaseやperipheral arterial occlusive disease(PAOD)などが文献上使用されており,ESC/ESVSの2017年ガイドラインでは下肢末梢動脈疾患をlower extremity artery disease(LEAD)と称している2).本ガイドラインでは,冠動脈以外の末梢動脈の狭窄・閉塞性疾患をPADと定義し,下肢閉塞性動脈疾患をLEAD,上肢閉塞性動脈疾患をupper extremity artery disease(UEAD)と表記する.

2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン

ガイドライン上では定義を定めるのが一般的であり、さっそく第一章の1で新名称が用いられています。

PADの中でも、本稿は慢性虚血を扱います。

慢性虚血の原因は器質的な動脈病変が原因で生じることが多く,生活習慣病による動脈硬化性病変がその大半を占めます。動脈病変の緩徐な進行によって発達する側副血行路の存在が急性虚血との大きな違いであり、末梢組織において血流の需要と供給のバランスが崩れた際に症状が出現するが,間歇性跛行のような安静時に血流が保持されるものの運動時に虚血が生じる状態から,安静時にも虚血症状が出現する重症虚血まで症状は多岐にわたります。そのバランスが崩れず無症候性で経過する症例も少なくないのです。

LEAD及びCLTIの発症率

PAD自体、先進国・発展途上国を問わず、大きな問題となっており、様々なStudyが組まれています。

一般人

日本でも5つのコホート研究が実施され、一般人を対象としたそれらを統合したメタ解析(平均年齢61歳,喫煙率17%,降圧薬服用率23%,男性比率40%,HbA1c平均5.5%)では、オシロメトリック法測定でのABI:足関節上腕血圧比で0.90以下の合併率は1.1%と低く出ている2)

糖尿病合併患者

日本でのLEAD患者、冠動脈疾患(Coronary Artery Disease : CAD)患者のデータベースを用いたメタ解析では、DMはLEAD合併に強く影響することが確認されている3)。平均年齢61歳のDM患者を対象とした検討では、ABI 0.90未満の頻度は7.0%であり、さらに65歳以上の患者では12.7%に上昇している4)。また、有DMでABI 0.90~1.00の患者は、将来LEADに移行するリスクが高く、注意深い経過観察が必要となる5)

CKD・透析患者

わが国の透析患者においてオシロメトリック法で測定されたABI 0.90未満の頻度は10~20%であった6)7)。先にも述べた通り、国を問わずStudyが行われており、それら21件の疫学研究をメタ解析した研究では、軽・中等度CKDもLEADの独立したリスクファクターであることが示され、また、蛋白尿は下肢切断のリスクであることが示された8)

日本でもDMやLEADを疑う患者において、軽・中等度CKDとLEAD合併の有意な関連が確認されている9)10)

日本における腎不全患者のLEAD合併率は、導入期24.3%、維持期37.2%と非常に高く、また多くが無症候性です。導入期にLEADを有する患者の訳70%は無症候性であり、その管理には注意が必要になります。

CLTIの生命予後

本項では透析患者に限ったCLTI予後について触れていこうと思います。

透析導入期LEADは死亡の独立危険因子です。また、DM,non-DMを問わず虚血性足潰瘍を有する透析患者の生存率は1年、5年でそれぞれ65.2%、23.4%、救肢率は1年、5年でそれぞれ68.9%、53.8%であり、生存率と救肢率に乖離が認められました11)。日本においては鼠経靱帯遠位CLI : critical limb ischemia 重症下肢虚血に対しては、EVT : endovascular therapy / endovascular treatment 血管内治療 施行後3年以内の死亡、大切断の独立危険因子です(ハザード比2.91)12)。また、EVTを施行しても再狭窄率が高い13)。SFA : 浅大腿動脈などの下肢病変治療後1年のAFS : amputation-free survival 大切断回避生存率 はEVT 65.7%14)、外科的バイパス術 60%15)で、治療後1年以内に約35%の死亡が報告されている16)。血行再建治療を受けたCLTI透析患者の生命予後、救肢率、切断回避生存率は、いずれも非透析患者と比較し不良である(海外メタ解析)17)

CLTIの治療

生命予後の項でも出てきているが、LEADに対しての治療には、侵襲度の大きさから順に

1)外科的バイパス術

2)EVT:血管内治療

3)LDL-Apheresis : LDL吸着

4)DHP : Direct Hemo Perfusion 直接血液灌流によるLDL,フィブリノーゲンの除去: レオカーナ

5)シロスタゾールの使用(エビデンスレベルIIa C)

5)抗血栓療法(エビデンスレベル I C)

となっている。上記の治療法がエビデンスレベルに沿った順ではないことに注意されたい。

抗血栓薬治療においても、ワルファリンは透析患者に限っては血管石灰化を促進するため推奨されない。但し、ワルファリン投与の有用性が高いと判断される場合(Af:心房細動など)には、PT-INR : prothrombin time – international normalized ratio を1.5~2.0にコントロールし、慎重にフォローするとしています18)

LEAD治療としての血液浄化~LDL-AとRheocana~

2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン)のCKD・透析患者の項でもLDL-Apheresisについては説明欄が設けれれているほどに周知されています。しかし、エビデンスレベルの設定はされていません。

しかし、日本アフェレシス学会ガイドラインでは、LEAD(ガイドライン上ではASO)に対したLDL-Aのエビデンスレベルは1Cとなっています。アフェレシスの目的は「血流改善(微小循環改善)によるしびれ・冷感・間欠性跛行の改善や潰瘍治療促進」となっています19)。エビデンスレベル1Cは強い推奨でありながらエビデンスの質は低い/大変低い。となっています。それはなぜか?観察研究や症例報告しかないからです。

ここで新たに登場した血液浄化器が、2021年に上市した「Rheocana(レオカーナ)」です。

執筆している2023年現在、まだ目立った文献やエビデンスになるほどの質の高い研究は存在していないようです(2023年4月現在、メディカルオンラインでの検索「レオカーナ」でも42件、症例報告や使用経験が多数ヒットするのみです)。

レオカーナの使用に関しては、先進医療故の努力義務事項や指針20)が存在しています。適正使用指針の中の引用も、第1版では治験成績のみであり、その質の低さにまだ手を出せない方も大勢いるのではないでしょうか。

LDL-AとRheocanaでは、作用機序は同様でありながら治療方法が違います。その為、効果の強度も随分と変わってきます(患者へのリスクもLDL-A<Rheocanaです)。

これについては追々、別の記事にて説明できればと思います。

あとがき

今回も長文駄文にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

相変わらず殺風景な記事ですがご理解いただけたでしょうか。

CKD-MBDの話から動脈硬化症の話へ、そしてLEAD:lower extremity artery disease 下肢閉塞性動脈疾患 , CLTI:chronic limb-threatening ischemia 包括的高度慢性下肢虚血へと変遷してまいりました。PADは透析にとって、切っても切れない話題です。

そのことを少しでもご理解いただき、日常診療の助けになれれば幸いです。

それではまた、別の記事でお会いしましょう。

アフェレシス療法ポケットマニュアル 第2版
アフェレシス療法ポケットマニュアル 第2版
アフェレシスマニュアル 改訂第3版 (クリニカルエンジニアリング別冊)
体外循環技術により血液関連因子を分離除去する「アフェレシス」のすべてを解説。一般社団法人日本アフェレシス学会の編集で、遠心分離法、膜分離法、吸着法の原理と代表的な機器の使用法、広範囲にわたる臨床応用について取り上げた。

引用・参考文献

1)循環器病ガイドラインシリーズ(2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン))

2)Ohkuma T, Ninomiya T, Tomiyama H, et al. collaborative group for the Japan Brachial-Ankle pulse wave VELocity individual participant data meta-analysis of prospective studies to examine the significance of the Ankle-Brachial Index (J-BAVEL-ABI). Ankle-brachial index measured by oscillometry is predictive for cardiovascular disease and premature death in the Japanese population: An individual participant data meta-analysis. Atherosclerosis 2018; 275: 141-148.PMID: 29902702

3). Takahara M, Iida O, Kohsaka S, et al. J-EVT and J-PCI investigators. Diabetes mellitus and other cardiovascular risk factors in lower-extremity peripheral artery disease versus coronary artery disease: an analysis of 1,121,359 cases from the nationwide databases. Cardiovasc Diabetol 2019; 18: 155. PMID: 31730004

4)Maeda Y, Inoguchi T, Tsubouchi H, et al. High prevalence of peripheral arterial disease diagnosed by low ankle-brachial index in Japanese patients with diabetes: The Kyushu Prevention Study for Atherosclerosis. Diabetes Res Clin Pract 2008; 82: 378-382. PMID: 18930561

5)Ohnishi H, Sawayama Y, Furusyo N, et al. Risk factors for and the prevalence of peripheral arterial disease and its relationship to carotid atherosclerosis: The Kyushu and Okinawa Population Study (KOPS). J Atheroscler Thromb 2010; 17: 751-758. PMID: 20523009

6)Ogata H, Kumata-Maeta C, Shishido K, et al. Detection of peripheral artery disease by duplex ultrasonography among hemodialysis patients. Clin J Am Soc Nephrol 2010; 5: 2199-2206. PMID: 20798256

7)Ono K, Tsuchida A, Kawai H, et al. Ankle-brachial blood pressure index predicts all-cause and cardiovascular mortality in hemodialysis patients. J Am Soc Nephrol 2003; 14: 1591-1598. PMID: 12761260

8)Matsushita K, Ballew SH, Coresh J, et al. Measures of chronic kidney disease and risk of incident peripheral artery disease: a collaborative meta-analysis of individual participant data. Lancet Diabetes Endocrinol 2017; 5: 718-728. PMID: 28716631

9)Tsunoda K, Shimajiri Y, Morita S, et al. Chronic kidney disease has a more powerful impact on peripheral arterial disease than metabolic syndrome in Japanese type 2 diabetic patients. Metab Syndr Relat Disord 2009; 7: 323-326. PMID: 19558271

10)Yamasaki S, Izawa A, Koshikawa M, et al. Association between estimated glomerular filtration rate and peripheral arterial disease. J Cardiol 2015; 66: 430-434. PMID: 25881730

11)Orimoto Y, Ohta T, Ishibashi H, et al. The prognosis of patients on hemodialysis with foot lesions. J Vasc Surg 2013; 58: 1291-1299. PMID: 23810259

12)Iida O, Nakamura M, Yamauchi Y, et al. OLIVE Investigators. 3-Year Outcomes of the OLIVE Registry, a Prospective Multicenter Study of Patients With Critical Limb Ischemia: A Prospective, Multi-Center, Three-Year Follow-Up Study on Endovascular Treatment for Infra-Inguinal Vessel in Patients With Critical Limb Ischemia. JACC Cardiovasc Interv 2015; 8: 1493-1502. PMID: 26404203

13)Iida O, Soga Y, Kawasaki D, et al. Angiographic restenosis and its clinical impact after infrapopliteal angioplasty. Eur J Vasc Endovasc Surg 2012; 44: 425-431. PMID: 22938944

14)Nakano M, Hirano K, Iida O, et al. Clinical efficacy of infrapopliteal endovascular procedures for hemodialysis patients with critical limb ischemia. Ann Vasc Surg 2015; 29: 1225-1234. PMID: 26004963

15)Kumada Y, Nogaki H, Ishii H, et al. Clinical outcome after infrapopliteal bypass surgery in chronic hemodialysis patients with critical limb ischemia. J Vasc Surg 2015; 61: 400-404. PMID: 25441673

16)Suematsu N, Iida O, Takahara M, et al. Prognostic Factors in Hemodialysis Patients Undergoing Endovascular Treatment for Critical Limb Ischemia due to Isolated Below-the-Knee Disease. J Atheroscler Thromb 2015; 22: 404-414. PMID: 25346201

17)Dawson DB, Telles-Garcia NA, Atkins JL, et al. End-stage renal disease patients undergoing angioplasty and bypass for critical limb ischemia have worse outcomes compared to non-ESRD patients: Systematic review and meta-analysis. Catheter Cardiovasc Interv 2021; 98: 297-307. PMID: 33825331

18)Hirakata H, Nitta K, Inaba M, et al. Japanese Society for Dialysis Therapy guidelines for management of cardiovascular diseases in patients on chronic hemodialysis. Ther Apher Dial 2012; 16: 387435. PMID: 23046367

19)日本アフェレシス学会 診療ガイドライン2021 循環器疾患領域

20)一般社団法人 日本フットケア・足病変学会 閉塞性動脈硬化症の潰瘍治療における吸着型血液浄化器に関する適正使用指針

コメント

タイトルとURLをコピーしました