腎臓の造血機能とは?~造血機序とその寄与の解説~

血液浄化

腎臓の代表機能を5つ挙げよ。。。。

国家試験がゴールだった養成校時代、嫌になるほど覚えさせられたことと思います。

今回はその中の一つ、「腎臓の造血」に関してご紹介できればと思います。

では行きましょう。造血の世界へようこそ。

そもそもの造血の機序

懐かしい話ですね。造血のお話なんてのは、筆者は基礎医学実習…1年生以来です。なので復習していきましょう。

造血と言っても、血球成分は様々なモノがあります。赤血球・白血球・血小板と3大分類になります。今回扱うのは赤血球になります。腎臓ですからね。また、成人と小児でも造血の場所や経路が違いますが、厳密にするために今回は成人の機序を解説したいと思います(略語沢山で目がちかちかしますがご了承を)。

造血は造血幹細胞(hematopoietic stem cell:以後、HSC)を起源としてスタートします。HSCは自己増殖を繰り返し、HSC群を骨髄内で形成し、造血に備えます。ほとんどのHSCは細胞周期の休止(G0)期にあり、4~5%のみが増殖期(S/G2/M期)に入っています。HSCは次に、stem cell factor(以後、SCF)などの制御を受けて顆粒球・赤芽球・マクロファージ・巨核球コロニー形成ユニット(Colony-Forming-unit-granulocyte-macrophage-erythrocyte-megakaryocyte ; 以後、CFU-GEMM)に分化します。ここではSCFの制御に加え、interleukin-3(以後、IL-3)と顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-monocyte colony stimulating; 以後、GM-CSF)の制御を受け、赤芽球コロニー群をつくる親細胞(Burst-forming unit-erythroid; 以後、BFU-E)へ改めて分化します。ここまでの分化は、制御遺伝子因子であるGATA-2因子の転写を受けて行われます。GATA-2の発現減少を受けて、今度は転写因子がGATA-1へバトンタッチします。そして、ここで赤血球系細胞の分化・成熟の調整に前期でエリスロポエチン(ErythroPoietin;以後、EPO)とその受容体であるEPO受容体(以後、EPOR)、CFU-赤芽球(CFU-erythroid;以後、CFU-E)へ分化し、GATA-1の転写を受けて前赤芽球へとようやく分化するのです。ここから後期になり、ここでトランスフェリン鉄とその受容体であるTfR1が重要な役割を果たします。前赤芽球から赤芽球後期まではGATA-1因子の転写の制御を受け、またトランスフェリン鉄の取り込みをTfR1が担います。そして脱核の為にマクロファージの食作用を受け、血管内腔へ成熟赤血球へと放出される訳です(図1)1)

以上が造血の機序になります。

ここでようやくEPOという馴染みのある言葉が出てきました。

腎臓はどのように造血に寄与するのか?

GATA-2からGATA-1へ転写因子がスイッチングする場面でEPOは出現します。

赤血球前駆細胞の膜表面上にはEPORが発現しており、そこでEPOが結合することで、分化・増殖のシグナルが伝達される訳です。

では肝心のEPOがどこから産生されるのでしょうか?

意外にもEPOの産生部位が判明したのはESA製剤が実用化されてから20年も経った2011になってからです。東北大学の山本らのグループがEPO産生部位は皮質と髄質との境界部の近位尿細管周囲の間質に存在するEPO産生細胞(renalEPO-Producing cell;以後、REP細胞)であることを突き止めました3)

このREP細胞は全てがEPOを産生するわけではなく、血中の酸素濃度に鋭敏に反応し、EPO遺伝子を発現させます。そのトリガーとなる転写因子が低酸素誘導性因子(Hypoxia inducible factor;以後、HIF)2αなのです。低酸素下でHIFはEPO遺伝子の発現を誘導し、正常酸素濃度下ではO2とプロリン水酸化酵素(以後、PHD)がHIFと結合し、速やかに分解、REP細胞の活動を刺激しません。

近位尿細管周囲の間質に局在するREP細胞によるEPO産生が、赤芽球であるBFU-E,CFU-Eの膜表面に発現しているEPORに結合することで、これらは前赤芽球へと分化を進めることが出来るのです。そしてそのEPO産生にはHIFが必要ということです。

あとがき

今回は造血の機序、および腎臓の造血に対する寄与について執筆しました。

執筆していて驚いたのは、意外にも腎臓の寄与に関する部分が簡潔だったことです。以前より腎臓摘出術や腎不全により貧血が進行することは明らかになっていても、それが何故か判明していなかった。そしてそれが近年になって初めて判明したというのも面白い話ですね。やはり歴史は重要です。

さて、いかがだったでしょうか。文章にすると長い話も、図を用いると一瞬で済んでしまう所が悲しいですが、もし過不足あればご指摘いただければと思います。

では今回はこの辺で。

また別の記事で会いましょう。

1)宮崎真理子、宮内健一郎、佐藤浩司、鈴木教郎 , 腎性貧血の機序 , 臨床透析 vol.37 no.1 2021 13・13

2)コロニー形成ユニット(CFU)アッセイ ~造血幹細胞の機能性を評価する~ 

3)Pan,X.,Suzuki,N.,Hirano,I., et al. : Isolation and characterization of renal erythropoietin-producing cells from genetically produced anemia mice. PLoS One 2011 ; 6 : e25839

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