おはこんばんちわなら
さてさて、透析関連の記事ばかり書いている筆者ですが、今回はタイトルにあるとおり、透析効率について解説していこうと思います。
やみくもに4時間透析をやればいいや。と思っていませんか?
実はちゃんとした指標があるんですね。
今回はそんな透析の指標についてのお話です。
では行きましょう。ようこそ透析効率の世界へ
透析をどのように評価するか?
透析治療の歴史は尿毒症との闘いでもありました。
上記記事内では、血液浄化療法の歴史、そして人工腎臓の発展について述べました。
さて、この記事の中でハイパフォーマンスメンブレン(HPM)が登場したのが1980年代です。
HPMの登場が迫られた理由には、尿毒症の原因物質を効率よく除去する事が求められたからです。
そこで開発されたのが除去率、Kt/V(ケーティーパーブイ)、nPCRという透析指標でした。
除去率(Reduction Rate)のお話
その昔、尿毒症の原因物質はクレアチニン(Cr)とBUNである。とされていました。
そこで最も簡便に測定できる小分子であるCrが透析の効率指標として最初は用いられました。その求め方は最も簡便で
$$R=\frac{C_B(0)-C_B(te)}{C_B(0)}\times100 (1)$$
でした。ここでCB(0)は治療開始時のCr濃度、CB(te)は治療開始から任意の時間でのCr濃度となります。それを100倍した値が除去率でありました。
ただし、この式には短所もあります。飲水や補液により体液量が増加すると、その分濃度は希釈されてしまう為、除去を全く行っていなくても濃度が下がるという点があります。
急性血液浄化で炎症性のサイトカイン(IL-6など)を除去する場合には、治療後の濃度が治療前よりも上昇してしまう事があります。この時Rは負の値を取るので、そのままでは治療の評価が困難です。これは、サイトカインの産生速度が除去速度を上回ったためであり、治療を行っていなければ濃度はさらに上昇していたと解釈すべきなのです1)。
Kt/Vの話
そこで考えられたのがKt/Vでした。(ここから小難しい話が続きます。結論が知りたい方は飛ばしていただいて結構です。)
初期には人体を一つの水槽(攪拌槽)に見立てることで、最も簡単なモデル(1-コンパートメントモデル:1-compartment model)とする方式が取られました。1-コンパートメントモデルの基礎方程式は、体液槽についての物質収支より
$$\frac {d(V(t)\times C_B(t))}{dt}=G-CL\times C_B(t) (2)$$
となります。ここで、CB(t)は体液中溶液濃度[mg/mL]、CLはクリアランス[mL/min]、Gは溶液の産生速度[mg/min]、tは時間[min]、V(t)は総体液量[mL]となります。
$$V(t)≒一定( \equiv V) (3)$$
を仮定すると
$$V \times \frac {dC_B(t)}{dt}G-CL \times C_B(t) (4)$$
となるので、その解として
$$ \frac {G-CL \times C_B(t)}{G-CL \times C_B(0)}=e^{- \frac {CL \times t}{V}} (5)$$
を得ます。ここで更に
$$G≒0 (6)$$
を仮定すると、式は
$$ \frac {C_B(t)}{C_B(0)}=e^{- \frac {CL \times t}{V}} (7)$$
と簡易化されます。したがって、血中濃度CB(t)はCL×t/Vという一つの値で決まることが分かります。臨床ではクリアランスの記号としてCLの代わりにKが用いられることも多いので、その表記に従えば
$$ \frac {CL \times t v}{V} \equiv \frac {k \times t}{V} (8)$$
となります。1-コンパートメントモデルは尿素の挙動を説明するのに便利であり、これを処方に利用する考え方をurea kinetic modeling(UKM)と呼びます。その中で中心となるのが、透析量の指標として用いられている尿素Kt/V(Kt/V[-])です。(7)および(8)式より、Kt/Vは蓄積量=産生量ー除去量
$$\frac {d(VC)}{dt} = G-CK$$
$$ \frac {k \times t}{V} = – \ln \frac {C_B(te)}{C_B(0)} (9)$$
と求めることが出来ます。これをSingle Poolモデルと呼びます。Kt/Vはその導出からも明らかなように
①1-コンパートメントモデルが適用できる
②Vが一定である
③Gが無視できる
ときに、血中濃度がKt/Vのみの関数になることを利用した透析量の指標です。従って、①~③の仮定が満たされない場合には、理論的根拠を失います。例えば1-コンパートメントモデルが完全に適応できる場合は、透析後の急激な濃度上昇(リバウンド現象)は起きないはずですが、実際には尿素でもリバウンドは起こります。また、透析で除水を行わない事は稀であるため、Vに変化が少ない事も少ないです。そこでリバウンド及び除水を考慮したKt/Vの算出式として
$$\frac {K \times T}{V}=- \ln \{ \frac {C_B(te)}{C_B(0)}-0.008 \times t \}+ \{ 4-3.5 \times \frac {C_B(te)}{CB(0)} \} \times \frac {ΔV}{BW} (10)$$
が良く用いられます(Daugrirdasの第2世代公式)。ここでBWは患者の体重[kg]、ΔVは除水量[L]であります。これは臨床的有用性を優先して、(9)式を経験的に改良したものであるが、理論式としての根拠は希薄である。
ここで注意が必要なのは、あくまでKt/Vは尿素の除去効率を規定するものであり、従来のダイアライザと最新のダイアライザに相違はないという点にあります。従来のダイアライザの差からも分かるように、β2ミクログロブリン(11,800Da)あるいはそれ以上の大きさの溶質除去性能に現れます。したがって、Kt/Vは予後規定因子の一つであって、これで全てが決まる訳ではない。と考えるのが妥当であります。
そこで、さらに現実に即したKt/Vが開発されています。
一つは新里式といわれる式で、実際にJSDT年末統計で用いられている式になります。
$$Gw = G \times Tw = K \int_0^T C_1dt+ \int_0^T C_2dt+ \int_0^T C_3dt $$
$$ \frac {Kt}{V} = \frac {\ln (CE)- \frac {(CE_L) \times [Kt/V]_H- \ln (CE_H) \times [Kt/V]_L}{[Kt/V_H]-[Kt/V]_L}}{ \frac { \ln (CE_H)- \ln (CE_L)} {[Kt/V]_H-[Kt/V]_L}} $$
上記の非常にややこしい式が新里式です。見ているだけで目がチカチカしますね。
そして、SPKt/Vでも説明した通り、透析後30-60分で尿素などはリバウンド現象を起こします。そのリバウンドを考慮した式も開発されています。
$$ \frac{Kt}{V}dp = \frac {Kt}{V}sp-0.6 \frac { \frac{Kt}{V}sp}{t}+0.03$$
尿素の動態は終了後のリバウンド現象を考慮するとSPでは厳密ではありません。この点を考慮に入れた計算式が上記のdp(Double pool model)になります。3時間と4時間HDを比較する場合には、この(Kt/V)Dpまたはe(Kt/V)と表記される計算式の方が妥当なのです。
なお、後採血時には
①10-20秒秒間、QBを50-100mL/minになるように血液ポンプの速度を緩める
②血液ポンプを止める
③A側回路から採血を行う。
をすることで、より正確な採血結果を得ることが出来ます。
Kt/Vを高めるには?
Kはクリアランス、tは透析時間、Vは総体液量です。
その為、単純にはKを大きくするにはQBを上げることが挙げられます。そしてtは透析時間なため、どれだけ透析時間を延長することができるかにかかっているのです。Vは総体液量の為、患者個々のDWに左右されてしまいます。その為、DWが例えば100kgの患者であれば、分母が大きいためにKt/Vが小さく出るなどの弊害も出ることに注意が必要です。
Kt/Vの推奨値は?
Kt/Vの適正値は1.4~1.6とされており、最低でも1.2は達成するように推奨されています。
古いデータではありますが、1.0~1.2が対象群とした後ろ向き研究では、1.8以下であればある程死亡リスクは上昇します。特に1.0を切った場合の死亡率上昇は顕著です。
その為、出来るだけKt/Vを上げる努力が必要なのです。
但し、女性や体重の軽い患者などでは高値に出てしまうなどの誤差もあるため、これだけを指標にするのはナンセンスなのです。
蛋白異化率(nPCR)の話
前述した1980年代、時を同じくして全米でHDに関する世界で最初の大規模介入研究が行われました(Natioal Co-operative Dialysis Study ;NCDS )。その結果、患者の蛋白質摂取量に見合った蛋白質が代謝されて、尿素が生成され、この尿素を除去する事で患者はまた同量の蛋白質を摂取することができることが示されました。このたんぱく質の代謝速度が蛋白異化率(Protein Catabolic Rate;PCR[d/day])であり、臨床的には単位体重当たりの値(normalized PCR;n-PCR[g/day/kg])で議論されることが多いのです。
NCDSの結果、nPCRは尿素の生成速度G[mg/min]と正の相関を示すはずであり、PCRの多くの算出式はGの1次式で与えられています。
また、HDの場合には次の式がよく使われます。
$$nPCR=0.22+0.036 \times ΔC+0.054= \frac {K_R \times \bar{C}}{V}$$
ここでKRは残存腎尿素クリアランス[mL/min]、Cは平均BUN濃度[mg/mL]、ΔCは非透析日における24時間当たりのBUN濃度の変化[mg/mL]、Vは総体液量[mL]である。
nPCRの推奨値は0.9以上、望ましくは1.0以上となっています。
筆者的見解
筆者の施設では、体重や透析時間、ECUM時間を無視しての透析効率が語られています。
これは由々しき事態だと筆者は考えます。
本来であればKt/V,nPCR,Albの3点セット、そして前後採血を取った際のタイミング(要するにECUM後に取ったのか、前に取ったのか)で語られるべきなのです。
願わくば、様々な施設が若年者から高齢者まで、正しく透析を評価し、予後をいい結果に導くことを願います。
あとがき
今回は透析効率のあれこれについて語ってみました。
小難しい数式がいくつか出てきましたが。ある意味避けては通れない道なのでご容赦ください(ふーん。こんな式なんだ。うん!わからん!で結構です)。
いくつか種類があるということを理解してもらえればそれで充分だと思います。
今後はこれらの数値を活用し、適正透析に勤めていただければと筆者は願うばかりです。
では今回はこれくらいで。
ではまた~~
1)透析療法合同専門委員会 企画・編集 , 血液浄化療法ハンドブック2015 , 協同医書出版 p.40-50
2)大平整爾,井村卓,今忠正 , 透析量への一考察 , 日本透析医会雑誌Vol.18No.2 2003
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