新規作用機序による高リン血症治療薬!!~フォゼベル~

血液浄化

 さてさて、みなさんおはこんばんちわなら。

 今回は先日Drug informationを受けたばかりの新規高リン血症治療薬である「フォゼベル(一般名:テナパネル塩酸塩)」のご紹介です。

 別にCOIがあるわけではありませんのでご安心ください(笑)

 話を聞くと、これは中々面白い!!と思ったので記事にしようと思いました。

 なお、既存の高リン血症治療薬に関しては下記の記事でご紹介しています。

 さぁでは行きましょう。いざフォゼベルの世界へ

命名規則

 さぁ毎度恒例、命名規則のお時間がやって参りました。

 日常会話の小ネタにどうぞって感じですね。

 ということで、造語らしいですね。

 新規(novel)作用機序のリン(phosphate)吸収阻害薬

 作用機序が全く新規であることを強調した命名規則となっているようですね。

 英語名ではPHOZEVEL® Tabletsとなっています。

高リン血症治療薬の歴史

 歴史に関しても、すでに下記記事内で書いているので、興味のある方はご一読ください

 但し、先にも詳述しますが、今回登場したフォゼベルはこれまでの高リン血症治療薬とはそもそもの作用機序が違います。

作用機序について

 これまでの高リン血症治療薬は、あくまでリン「吸着薬」として作用してきました。

 簡単にご説明すれば、吸収したリンに対して電気的に結合したり、鉄との結合作用を利用したり、イオンと共有結合したりと様々でした。

 しかし、フォゼベルはこれまでの常識をある意味覆す、新規作用機序の高リン血症治療薬として薬価収載されます。

 作用機序は、「吸着」ではなく「阻害」です。

 そもそも、リンの吸収というのは食事より体内に入り腸管から吸収されます。腸管からのリン吸収機構には腸管上皮細胞を介した 1)経細胞輸送(能動輸送)経路と 2)上皮細胞間のタイトジャンクション(密着結合)を介した細胞間隙輸送(受動輸送)経路の二つがあります1)

 この二つを動かすには、Na+/H+ exchanger isoform 3 :NHE3 ナトリウムイオン/プロトン交換輸送体3によりNaを取り込み、電気化学的勾配を作ることが必要です。

 しかし、フォゼベル(テナパノル塩酸塩)はこのNHE3を特異的に阻害することでNaの吸収を阻害し、H+の汲みだしを阻止します。

 細胞内のH+が増えることで細胞内pHがアシドーシスに傾きます。その結果として、細胞間隙であるタイトジャンクションが締まり、細胞間隙のリン透過性が低下し、リン吸収が低下します。

 ※タイトジャンクションとは、直訳すると密着結合と訳されるようで、細胞と細胞の間をジッパーのように繋いでいる機能であり、シグナルが送られることでそこを開閉し、必要なミネラルや栄養素を取り込む機能があるようです。

 NHE3の本来の機能はご紹介したいところですが・・・元論文読んでみたんですが、あまりにも難解なので今回は割愛したいと思います(その内加筆できればいいのですが・・・)。

副作用について

 副作用ですが、もしかしたらお気付きの方もおられるかも知れません。

 Na+の吸収阻害は、それと同時に水分の吸収も阻害することになります。

 これにより消化管は水分過剰の状態に陥ります。そのため、軟便や下痢という状態を作り出してしまいます。

 下痢に関しては、治験の時点で61.3%の頻度報告がなされています。

 但し、これには少し面白い応用編があります。

副作用を主作用にした米国

 副作用の項でこの新薬は下痢や軟便を引き起こすとご説明しました。

 しかし、米国ではこれを逆手に取り主作用として保険収載しています。

 適応疾患は「過敏性腸症候群ー便秘型:IBS-C」です。

 日本では適応はありません。

 しかし、食物繊維の制限により便秘に悩まされる透析患者にとっては一筋の光明になりえる作用でもあります。

 この副作用をどう使うかにより、患者のQoLは左右されるといっても過言ではないかもしれません。

エビデンス紹介

 フォゼベル認可において行われた国内第3相試験の結果をご紹介します。

  • 血清リン濃度の検証的解析結果

 投与開始8週間後における血清リン濃度のベースラインからの変化量

 上記の様に、プラセボ群と比較して有意差を以てフォゼベル群は下がっています。これをもってエビデンスとされています。

 また、最終投与時点におけるフォゼベルの一回投与量は15.9±9.94mgということです。

剤形について

 フォゼベルの剤形については公式サイトをご参照頂きたいところですが、発売前ということもあり、情報は多くありません。

 先日のDIでは錠剤として紹介がありました。

 容量については5,10,20,30mgが23年12月現在用意されています。

用法容量について

 添付文書上、「通常、成人にはテナパノルとして1回5mgを開始用量とし、1日2回、朝食及び夕食直前に経口投与する。以後、症状、血清リン濃度の程度により適宜増減するが、最高用量は1回30mgとする。」

 となっています。

 しかし、即効性のある薬剤であるため、透析中のトイレ離脱を防ぐ意味でも昼食前と夕食前に服用する。といった用法もあるとMRは説明していました。

 その為、上の項でも説明しましたが、QoLを左右する使い所が肝心な薬剤となります。

素朴な疑問

 またまた副作用に絡めた話になります。

 便秘の透析患者というのは血清カリウム値が高値で推移します。

 であれば、下痢になれば血清カリウム値は低くはならなくとも高値にはならないのではないか??と思ったのです。

 しかし、元論文を読んだところ”Na/K+ポンプチャネルには影響しない。”という一文が見受けられました。

 となると、便秘による高カリウムの機序が良く分からないのです。

 また、MRの説明でも「高カリウム血症の治療薬としての認可は下りてないので…。」でした(そりゃそうだ)。

 服用前後でカリウム値に有意差は付いていないということで、カリウムの吸収はそのまま…。

 血清カリウム値が高い患者は改善されないのでしょうか。ちょっと疑問です。またここら辺はデータ集めですかね。誰かしてくれないかな~…とか思ったり。

あとがき

 さて、今回は新規作用機序による高リン血症治療薬であるフォゼベル®(テナパノル塩酸塩)のご紹介となりました。

 これまでは「吸着」しか手段の無かった高リン血症治療薬でしたが、ここにきて「阻害」という機序を持つ新薬が登場したことは、高リン血症治療薬が新時代に突入したことを意味します。

 ここにきて筆者もようやく薬剤に目覚めた感があります(今更かよ)。

 さて、新薬のご紹介は今回はここら辺で終わりにしたいと思います。

 ではでは~~

1)腸管ナトリウム依存性リン酸トランスポーターのリンセンサーとしての分子動態 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 辰巳 佐和子

2)King AJ ,Inhibition of sodium/hydrogen exchanger 3 in the gastrointestinal tract by tenapanor reduces paracellular phosphate permeability :et al.:Sci Transl Med 10:eaam6474,2018

3)フォゼベル製品紹介ページ

Bitly

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