【アルブミン】あなたは抜く派?抜かない派?~HDFにおける至適Alb漏出量は?~

血液透析

 おはこんばんちわなら

 さてさて、今回は表題の通り永遠の議論と言っても差し支えないかもしれないアルブミンのお話です。

 HDF否定派の方も居る中、HDF施行の是非という中で一番の議論に上がるのはやはりアルブミン漏出の是非、そしてその量ではないでしょうか。

 今回はそんなアルブミンについてのお話をしていこうかと思います。

 尚、当院ではPre-HDF 12L/sessionがMAXの施設なので、Albは漏出否定派ですね。

 筆者の見解は後程述べさせていただきます。

 では行きましょう。アルブミンの世界へようこそ。

アルブミンの意義

 まず透析からの側面としてのアルブミン(以下、Alb)を語っていきたいと思います。

 と言っても普通に生理学的な話になりそうですが(いつも指が動くままに書いているので、そこまで計画性がある訳ではありません)。

 透析ではAlbは栄養の指標として良く語られます。

 ではAlbはどのようにどこで合成されるのか?そこから復習する必要がありそうですね。

アルブミン合成について

 Albなどのタンパク質合成は肝臓が担います。

 その為、肝機能の良し悪し(つまりは産生速度)に左右されることになります。

 Albは血漿中で最も多くを占めるタンパク質であり、その役割は多岐に渡ります(血漿浸透圧の維持や脂肪酸、アミノ酸、ビリルビン、薬物との結合による移送e.t.c.)。

 上記でも述べたようにアルブミンの合成は肝臓で行われます。前駆体タンパク質であるプレプロアルブミンとして肝臓で合成され、その後肝臓内でシグナル配列が切断され585個のアミノ酸から構成される成熟アルブミンとして血中に分泌されます。その総量は6~15g/dayと言われています。この合成量は、肝臓が一日で合成するタンパク質の25%に相当します。肝臓より分泌されたアルブミンの生物学的半減期は約20日とされ、その血漿濃度(正常値:4.0g/dL)は肝での合成・分泌量、肝および末梢組織での異化速度、体液量、血管内外への分布均衡、体外への喪失(蛋白尿など)により規定されます。1)2)

 ただし、これは健常人でのお話。ここに我々臨床工学技士などの透析医療従事者は、血液透析(ろ過)(以下、HD(F))を含めなければなりません。

 分子量は68KDaですが、直径は10~1000A(オングストローム(Å)、10-8)となり、HDFではよく比較に上がるα1-MGと、直径ではそれほど差異はありません。その為にAlbとα1の漏出分離能は重要となるわけです。

アルブミンの機能・役割

 アルブミンは全血漿蛋白質の50~60%を占める最も豊富なたんぱく質として存在しています。3)その為、電解質のNaと同様に浸透圧調節に重要な役割を果たしています。その浸透圧調節力は強力で、1gあたり20mLの水分を保持することが出来ます。この浸透圧のおかげで血管内ボリュームを維持することが出来るわけです。

 また、我々透析医療従事者にとっての死活問題である薬剤の透析性にも強くかかわります。薬剤にはタンパク結合率という項目があります。これにより、透析を行っても、その薬剤が除去されるかどうかが決まってくるのです。結合率の高い薬剤であればあるほど、透析による除去はされにくいという事です。

 もちろん、薬剤自体の分子の大きさも透析性には関わってきますので、分子が大きければ除去率は低くなります。

 このように、アルブミンは薬剤や上記でも述べたような様々な溶質の運搬に関係しています。

透析でのアルブミンの立ち位置

 上述したように、透析や一般では栄養のマーカーとして用いられることが多いアルブミンですが、その合成・分泌量は肝疾患や栄養摂取量、そして透析からの喪失により変動します。また半減期が20日と長く、採血結果としてのアルブミンが、その時の瞬時値を反映しているかと言われると疑義が残ります。採血時の体位によっても採血結果が代わることは既知の事実です。

 低アルブミン血症はその膠質浸透圧の保持力が弱まることにより、全身の浮腫を来たしたり、腹水を来たすことで血管の浸透圧を保とうとする副反応が起こります。その為、低アルブミン血症や栄養失調ではムクムクだったり、 飢餓の子供がお腹がパンパンだったりするのです。

 このきらいがあり、臨床現場では低アルブミン血症は嫌がられる傾向があります。もちろんそれは透析臨床でもです。

TMPによるalbum漏出量のControl

 アルブミン漏出量はどれだけTMP(transmembrane pressure:膜間圧力差)を掛けるかである程度規定することが可能です。

 これは何もアルブミンだけに有用な話ではなく、アルブミン近傍の蛋白質であるα1-ミクログロブリンやβ1-ミクログロブリン。そして、なにかしらの尿毒症性物質を結合しているであろう蛋白質結合性尿毒症物質である中・大分子量溶質の除去にも役に立つ話です。

置換液量のcontrol方式について

 現在、透析コンソールメーカーとしては日機装、東レ、ニプロ、JMSの4社が発売されてり、それぞれに濾過の制御方式が異なっています。

定速式濾過方式

 定速式濾過方式は全メーカーが対応しています。
 定速式とは、常に一定の濾過流量Qsを流し続ける為、経時的にTMPが上昇を見せます。その代わり、一定の置換量を得ることが可能です。なので、大量液置換が可能です。

定圧式濾過方式

 定圧式濾過方式は日機装、及びJMSが対応を謳っています。
 定圧式とは、設定した圧以下で濾過を掛け続けるHDF方式です。その為、開始時からTMPが設定圧に到達となります。但し、TMPは経時的に上昇を見せる為、置換流量は徐々に減少を見せます。

ではどれくらいのTMPが必要なのか?

 上記で説明した定圧方式・定速方式に加え、HDFには前希釈と後希釈が存在します。そしてヘモダイアフィルター自体のポアサイズ(膜孔)も関係してくるので、一概に「これだけ置換液量を掛ければ」「TMPをこれだけかければ」とは言えません。しかも最も研究を難しくしているのは、ヘモダイアフィルターのロットによっても若干のポアサイズの違いがあるのか、漏出量が違ってくるという点です。こればっかしはどうしようもありません。

 さて、本題から若干ズレてしまいましたが、では副題に戻って、どれだけのTMPを掛ければいいのでしょう。

 いくつかの研究がJSDTから原著論文として発表されています。田岡ら5)はHDと前後希釈HDFでのTMPを比較研究した発表で、5時間治療した際のアルブミン漏出量を測定しています。

 結論としては4g/sessionを達成するには~となっていますが、TMPが掛かった際の漏出量も記載されています。

 これを見る限り、田岡らの考える適正TMPは前希釈で150mmHg、後希釈で100mmHg当たりということが見て取れますね。

筆者の私見

 さて、透析で安易にアルブミン値≦3.5g/dLを切ったからといってHDFを中止することはナンセンスであると筆者は考えます。

 ある発表では、プレアルブミンとアルブミンの相関関係を調査し、その相関は正の相関を記録したともあります。そしてアルブミンとして許容できる最低量は3.2g/dLであるとも結論付けていました4)

 また、つい先日拝聴したwebinerでは、栄養状態のいい、食餌摂取がしっかりしている患者に関しては2.8g/dLでも許容している。という発表もありました。

 このように一般に低アルブミン血症の診断とされる≦3.5g/dLでも、透析においては私見ではありますが、透析に限り低アルブミン血症は厳しめにみて3.0g/dL、マイルドにみて3.2mg/dLと診断されるべきではないでしょうか。

 前職場で技士長をしていた時代には、中央値48LのPre-OL HDFで透析を行っていました。この際にも、アルブミンが3.0g/dLを下回らない、もしくは透析掻痒症が無い限りはHDへ変更することはありませんでした。これでも、患者から不定愁訴が増えたり、食欲が減退するなどは無く、経過は良好でありました。

 また見かけ上は低アルブミン血症(≦3.5g/dL)だとしても、HDFを中止する、またはヘモダイアフィルターをシャープからマイルドへと変更するだけでアルブミン値は上昇を見せます。

 これは、albuminの合成・分泌が亢進しているのではないか?と筆者は考える派です。
 「亢進しているなら、普段の前採血でも値が上昇しているじゃないか!」といわれるとその機序は不明なので反論は難しいでしょう。ただ、もしかしたら体液で希釈されているだけで、DWなどの本当の意味での至適体重で見たAlb値はそれなりか高値を示すのかもしれません(≠透析後採血ではないです)。

 しかし、日本で主流のPre-OL HDFによるヘプシジンー25やFGF23の除去などが相まって、貧血の改善や造血剤抵抗性貧血の改善にも繋がるのでは?と考えています。事実、HDFによる貧血の改善報告というのは数多あります。

 炎症性物質の限界濾過による除去はフレイルを予防するという観点からも推し進められるべきではないでしょうか。炎症が惹起されることにより倦怠感を覚え、それにより運動をしなくなり、結果として筋力の低下や食欲の減退に繋がる訳ですから。

 高齢者に限ったDWの低下は予後の悪化と相関があります。その為、少しでも経口摂取による食餌の推進という観点からも、Alb近傍の高分子量物質の除去が推奨されるのではないでしょうか。勿論、十分なタンパク質やアミノ酸の補給が可能である。という前提条件は付くかもしれません。

では1Sessionで何g抜くべきなのか??

 これを議論するには、まずそもそもAlbは抜いてもいいのかどうなのか??という議論に決着を付けなければなりません。

 が、様々な肯定派論者が提唱する中多いのが、

1)2g未満

2)2〜6g未満

3)6g以上

 という区分けです。何もエビデンスがあるわけではないですが、RLS(レストレスレッグス症候群)や透析掻痒症をターゲットにする場合、置換液量はPre-OL HDFでは60L近くなります。これは、Albおよびα1-MG近傍の高分子量物質の除去率を上げる事で予防、治癒が可能とされているからです。

 筆者の場合、積極的漏出派なので、4g/session以上はAlb除去を許容してもいいのではないか??と考えています。

 さて、皆さんはどのようにお考えでしょうか。

あとがき

 今回は議論の尽きないAlb漏出に関して話題を取り上げました。

 自身が責任者となってデータをコントロールする立場になった時、様々な事を勉強させてもらいました。

 Alb漏出に関してもそうです。

 Alb濃度というのは、唯一透析だけがコントロールすることの出来る数値なのだと思います。膜を変える。置換量を変える。血流量を変えるなどです(病棟では無理ですよね。25%Alb製剤を入れるか、中心静脈栄養法でしかコントロール出来ないわけですから)。

 このように、栄養の観点以外にもAlbは様々な影響を受けて合成・分泌されます。

 そのことを念頭に置いて考える必要があると筆者は考えます。

 大規模臨床研究であった「French study」「CONTRAST study」「Turkish study」「ESHOL study」がそれぞれに発表され、HDとHDFに関して生命予後にある程度の差が付く傾向が示されました。そして今年、「CONVINCE study」が発表され、欧州の透析学会は大いに盛り上がったのではないでしょうか。

 次回は何を記事にしましょう。まだ具体的には決めていませんが、何か調べて欲しい事があればコメントやメールをいただければ書かせて頂きますので、何なりとお問い合わせ下さい。

ではでは〜〜

1)桑波田 雅士、アミノ酸栄養と血漿アルブミン酸化還元動態、体液・代謝管理 2019 Vol. 35 p.22-27

2)桑波田 雅士、栄養状態によるアルブミン合成の調節機構に関する研究、日本栄養・食糧学会誌 第64巻 第4号 215-219(2011)

3)寺脇 博之 , 柳沼 善樹 , アルブミン/標準化蛋白異化率(nPCR)/Kt/Vの解説&患者指導 ,透析ケア 2022 vol.28 no.7

4)兵頭 透、加藤 基子、浦部 俊一郎 北村 真、樋田 美穂、倉田 康久、石井 大輔、吉田 一成、小久保 謙一、山田 康輔、北島 幸枝 , On-line HDF施行時における血清アルブミンの最低許容レベルの値はいくつか? , 日本病態栄養学会誌 第22巻 supplement(2019)

5)田岡正宏,山本千恵子,金成泰,高杉昌幸 , 大量液置換血液透析濾過法においてアルブミン損失量を適正範囲に制御する方法 , 透析会誌 34 (13): 1543~1548, 2001

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