やってきました栄養障害シリーズ第2弾。
今回はサルコペニアについて解説して参ります。
よく巷では「フレイル・サルコペニア」として一緒に連呼されていますが、話してどういう意味でどういった状況なのでしょか?
そのあたりに焦点を当てて解説できればと思います。
では行きましょう。栄養障害の世界へようこそ。
サルコペニアとは
サルコペニアってそもそもどういう意味??という疑問を持った方も少なからずいると思います。
もちろん筆者も調べました。
サルコペニアの定義については言い方は様々あるようであすが、つまるところ「加齢や疾患により筋肉量が減少して、筋力の低下、身体機能の低下をきたすこと」となります。著しいADLの低下は、要するにサルコペニア状態だといって良いのかもしれません。
ex)入院前はADL自立だったのが、入院中の生活から車椅子生活になってしまう。など
サルコペニアという言葉自体は造語のようで、サルコペニアは、1989年にアメリカの学術雑誌ではじめて提唱された言葉で、ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarx/sarco)=筋肉」と喪失を意味する「ペニア(penia)=喪失」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されており、「加齢性筋肉減弱現象」とも呼ばれています。
サルコペニアの歴史
さて、どんな物事にも歴史は存在します。
サルコペニアに関しても例外ではありません。ただ、意外にもサルコペニアの歴史は長いというか、色々と変遷を辿っているんだな。というのが印象です。
時は遡ること30云年前、1989年にRosenbergがSarcopeniaという造語で論文を発表したことが始まりのようです。
当時は若年層(20-30代)と比較し70-80代において30-40%の骨格筋の減少を認め、骨格筋量とともに減少する歩行速度や握力と生命予後との間には密接な関係が見いだされました。このような加齢に伴う骨格筋の機能低下のことをサルコペニアと言ったようです。
しかし、その後研究が進むにつれて、骨格筋量低下に伴う筋力低下、身体機能低下が骨格筋量低下に比べ、ADL低下、転倒、入院、死亡などのアウトカムとより強く関連することが明らかとなり、2006年頃からサルコペニアは骨格筋量の低下だけでなく握力、歩行速度など機能的な低下も合わせて診断すべきだという機運が生まれました。
そして欧州において欧州老年医学会などの研究グループThe European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)により、歩行速度、握力及び筋肉量を指標としたサルコペニアの診断基準が提唱されました。
しかし、EWGSOPでは握力や骨格筋量についての数値的明示が無かったため、アジア人のためのサルコペニア診断基準を議論するため、2013年アジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)を組織し、アジア人のための診断基準が提唱されました。
2010年にはICD-10に登録され、日本でも疾病として認可さた経緯があります。
しかし、いまだサルコペニアについて適切な診断や治療が行われているとは言い辛い状況だという事です。
サルコペニアの診断基準
さて、ADLの低下や筋肉量の減少をサルコペニアだと言いましたが、具体的にどれだけADLが落ちたり、筋肉が減少すればサルコペニアと言えるのでしょか。
これは国際疾病分類(ICD)にもしっかりとサルコペニアが登録されていることから、診断基準が存在します。
ではその診断基準とは何なのでしょか?具体的には、AWGSにおいて
- 男性26kg未満、女性18kg未満を握力低下
- 骨格筋量についてはDXAでは、四肢除脂肪量を用い男性7.0kg/㎡未満、女性5.4kg/㎡未満、
- バイオインピーダンス法(BIA)では、四肢筋肉量を用い、男性7.0kg/㎡未満、女性5.7kg/㎡未満を骨格筋量低下
としたアジア人独自の基準が定められています。
2019年にはAWGSによるガイドライン改訂を受け、下記の様な診断プロトコルが組まれました。
この診断プロトコルの特徴は、病院だけでなく、診療所などの地域単位でサルコペニアの発見、予防に努められるように組まれている点です。
それだけ、少子高齢化の日本において、サルコペニアとは喫緊の課題であるといえるのです。
診断基準の内容
診断は様々なブロックに分けて行われます。具体的には
- 症例抽出
- 骨格筋量の測定
- 筋力
- 身体機能
の4つです。では詳しくみていきましょう。
症例抽出
症例抽出には下腿周囲長(CC)と、SARC-FおよびSARC-CalFが推奨されています。
CCでは、報告されたカットオフ値は男性で32-34cm、女性は32-33cmでしたが、スクリーニングまたは症例発見のための感度を上げるため男性では34cm未満、女性では33cm未満が採用されています
また、SARC-Fスコアとは、5つの要素を組み合わせて評価する指標であり、スコア4点以上でサルコペニアの可能性が高く、DDと組み合わせたSARC-CaIFでは、スコア11点以上で骨格筋量低下の可能性が高くなります。
以下にSARC-Fのスコアを示します。
内容 | 質問 | スコア |
---|---|---|
握力(Strength) | 4-5kgのものを持ち上げて運ぶのがどのくらいたいへんですか | 全くたいへんではない=0 少したいへん=1 とてもたいへん、またはまったくできない=2 |
歩行(Assistance in walking) | 部屋の中を歩くのがどのくらいたいへんですか | 全くたいへんではない=0 少したいへん=1 とてもたいへん、補助具を使えば歩ける。または全く歩けない=2 |
椅子から立ち上がる(Rise from a chair) | 椅子やベッドから移動するのがどのくらいたいへんですか | 全くたいへんではない=0 少したいへん=1 とてもたいへん、または助けてもらわないと移動できない=2 |
階段を昇る(Climb stairs) | 階段を10段昇るのがどのくらいたいへんですか | 全くたいへんではない=0 少したいへん=1 とてもたいへん、または昇れない=2 |
転倒(Falls) | この1年で何回転倒しましたか | なし=0 1-3回=1 4回以上=2 |
また、下腿周囲長が下記の基準を満たすようであれば、点数は+10点となり、骨格筋量の低下を示します。
下腿周囲長 | 男:34cm未満 女:33cm未満 |
---|---|
SARC-F | 4以上 |
SARC-CalF | 11以上 |
骨格筋量の測定
サルコペニア診断における低骨格筋量のカットオフ値は、前回同様のカットオフ値であるが、BMIで補正するFNIH基準をも使用可能とし、男性では0.789kg/BMI未満、女性では0.512kg/BMI未満をカットオフ値とした(ただしdual-energy X-ray absorptiometry:DXA法のみ)
筋力
握力は複数回の計測における最大値を採用することとしてお、8つの65歳以上アジア人コホート、21,984人のデータを分析し、男性28kg未満、女性18kg未満を低筋力の基準としています。
身体機能
AWGS 2019では、SPPB(Short Physical Performance Battery)、6メートル通常歩行、5回の椅子立ち上がりに基づいて、身体機能の低下を定義することを推奨している。歩行速度については、動的なスタートから減速せずに通常のペースで少なくとも4メートル以上歩くのにかかる時間を測定し、2回の平均値を採用することを推奨しているが、通常のカットオフを0.8m/秒以下から1.0m/秒未満へ変更した。また、SPPBは9点以下を推奨し、5回椅子立ち上がりのカットオフとして12秒以上を採用しています。
基準 | |
---|---|
通常速度 | 1.0m/秒未満 |
SPPB | 9点以下 |
9点以下 | 12秒以上 |
あとがき
今回は栄養障害シリーズの第2弾としてサルコペニアのご紹介をさせていただきました。
意外にもしっかりとした診断基準が存在し、世界的にも認知されている疾患だという事がはっきりしただけでも儲けものではないでしょうか。
また、意外なところでBIA法の活用方法が判明したのも、個人的には調べた甲斐があったのではないかと感じています。いやー勉強してみるもんですね。良かった良かった。
さて、次回栄養障害シリーズは「PEW」についてご紹介しようかと企画しています。なので少々お待ちいただければと思います。
では今回はここらへんで。
まったね~。
1)総論 フレイルの全体像を学ぶ3.フレイルとサルコペニア:サルコペニア診断の変遷とAWGS 2019 , 公益財団法人長寿科学振興財団
6)MChen LK, Woo J, Assantachai P, et al:Asian working group for sarcopenia: 2019 consensus update on sarcopenia diagnosis and treatment. J Am Med Dir Assoc 2020; 21: 300-307.e2.
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