慢性閉塞性肺疾患の病態~COPDの定義と管理~

呼吸器

 さてさて、今回は代謝からちょっと距離を置きまして、呼吸器疾患の話題をご提供しようかと思います。

 なぜこのテーマを選んだかというと、ある技士仲間から「看護師がSATを高く保とうとする!!」という話を聞いたからです。

 では高く保つことは悪い事なのか??それとも彼の主張が間違っているのか?

 それを検証するために、この記事を書こうと思いました。

 それでは行きましょう!!慢性閉塞性肺疾患の世界へようこそ!!

慢性閉塞性肺疾患の名称の整理

 さて、やってきました名物名称紹介の時間です。

 この疾患、名は体を表すといっても、今一イメージしにくいかもしれません。英語名称では

chronic:慢性

obstructive:閉塞性

pulmonary:肺

disease:疾患

と呼び、略称はCOPDです。臨床で働いていれば、この疾患とはよく遭遇するのではないでしょか。

病態について

 この疾患はARDS:急性呼吸窮迫症候群とともに、呼吸器疾患では最終病態とも言える疾患です。ではどのような病態でしょか。

 呼吸器疾患では、病態を考える際、二通りの分け方をして考えます。

 まず一つは拘束性障害です。

 拘束性障害とは、胸郭の拡張障害などにより、肺そのものが膨らむことが出来ず、換気容量が減少してしまったことにより酸素化が阻害される病態を指します。どんだけ吸っても換気がされないために、苦しく感じてしまう訳ですね。

 これに対して、対を為すのが閉塞性障害です。

 閉塞性障害とは、気管支などの気道が狭窄、閉塞するために吸うことに対して多大な吸気努力が発生し、吐くことに対しては気道抵抗が掛かる(要するに呼吸がし辛い)状態を指します。この病態では、吸いたいだけ吸おうにも吸気時間が伸びてしまい、非挿管下でも中々の疲労感が感じられます。この病態を再現することは簡単で、細目のストローを咥えた状態で息を吸ってみてください。吸気時間が極端に伸びるため、結構疲れます。また、呼気で再現するには、風船を膨らませることを想像してください。風船の膨らみ始めは結構力みますよね。あれはいうなれば気道を拡げる作業と同じだからです。そして膨らみ続けるためにも結構な力を要しますよね。気道が収縮しないために、持続してPEEPの様な圧力が必要だからです。

PEEPに関しての解説は、下記の記事でもご紹介しているので復習がてらどうぞ。

 さて、呼吸器の病態については上記の二つを紹介したわけですが、この病態が合わさった病態も存在することは頭に入れる必要があります。

 この二つの病態が合わさった状態を混合性を呼びます。

 息を吸おうにも吸気努力が必要で、しかも吸ったのに酸素化が出来ず、延び切った吸気時間の為に呼気に転じたにも拘らず、今度は過剰な気道抵抗が掛かり、息が吐け切らず、結果としてAuto PEEPの様な状態になってしまうのです。

 これらを判定するためには呼吸器検査:スパイロメーター検査で各項目を調べる必要があります。

 呼吸器検査についてはまた別記事でご紹介できればと思います。

 で、これで全ての換気障害の概説が終わった訳ですが、COPDはどの状態を指すのか。それが問題です。

 COPDはその名称が指し示すように、慢性閉塞性肺疾患であります。

 その為、どの換気障害になるか?と言われると閉塞性換気障害となります。

COPDの定義

 さて、上記の項でCOPDの換気障害について触れました。ではCOPDの定義とはどのようなものなのでしょうか。

 以下は「COPD診断と治療のためのガイドライン」に記載されている、本邦で採用されている定義になります。

 タバコ煙を主とする有害物質長期に吸入曝露することにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流障害を示す。気流閉塞は末梢気道病変気腫性病変が様々な割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難慢性の咳・痰が示すが、これらの症状に乏しいこともある。

COPD診断と治療のためのガイドライン-P.1

 ガイドライン上の定義からも分かる通り、COPDの主な原因はやはり喫煙です。疫学としても、喫煙は受動喫煙も含め、いいことはありませんね。

COPDを疑う所見と診断

 さて、ガイドラインでは診断の前に、理学所見や既往から疾患を疑う事が大事!と述べられています。確かに、診断検索は大事ですね。ではガイドラインでは何が書かれているのでしょか。

 上記の切り抜きの通り、a~fまでの6項目をCOPDを疑う所見として紹介しています。

 そしてこれを基に診断をしていくわけです。診断項目としては以下になります。

 定義にもある通り、長期の喫煙歴は必須ということですね。そしてスパイロメーターを用いた検査を実施し、除外診断を実施した上でCOPDの診断を下すという流れのようです。

COPDの病型

COPDも軽症から重症までスペクトラムを描きます。それが下記の図になります。

 大別すると、COPDはこの2種に分かれます。

a.気腫型COPD:気腫性病変が有意

b.非気腫型COPD:気腫型病変が比較的目立たない

細分化した病型はガイドラインに譲りますが、この2つを覚えておくことが重要であるということです。

COPDの病期分類

 先に述べた通り、COPDとはスペクトラムを持った疾患です。その為、スパイロメーターにより病期を診断することが可能です。具体的には下記の表にある通りとなっています。

 気管支拡張薬投与後でも、気流閉塞を来たす状態であればCOPDであり、そこから更に「では重症度はどの程度なのか?」と診断を付けていくことが病期分類には必要ということが読み取れます。

COPDの治療と管理

 さて、ここまでCOPDの定義やその重症度の診断の仕方をご紹介してきました。では今度はその管理と治療について。

 重症度に応じて、どのように管理し、進展を予防すればいいのか。そして治療に向き合えばいいのかなどをご紹介できればと思います。

 まずは管理目標から。

 表2にあるとおり、如何に進展を予防し、QoLを上げ、将来のリスクを低減するかに重きが置かれています。

 では今度は重症度に応じた治療法について。

 

 定義にもある通り、主原因は喫煙です。その為、非薬物療法としての禁煙・受動喫煙の防止は重要です。また、疾患の増悪から体を守るという意味でも、インフルエンザワクチンなどの定期接種も重要です。図5にある通り、中等症少し前あたりから長時間作用性抗コリン薬(Long Acting Muscarinic Antagonist:LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(Long Acting Beta2-Agonist:LABA)の吸入薬が主に使用されます。また、喘息病態合併・頻回の憎悪かつ末梢血好酸球増多例では吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid:ICS)の併用も行われます。そして最後に、疾患の増悪から体を守るという意味でも、インフルエンザワクチンなどの定期接種も重要です。

 安定期のCOPD管理では、最軽症の管理では短時間作用型β2刺激薬(short-acting β2 agonist:SABA)や短時間作用性抗コリン薬(Short-acting muscarinic antagonist:SAMA)を頓用として用います。

 最重症になれば、酸素療法からの人工呼吸管理、果ては外科的治療まで進展します。

 我々臨床工学技士が携わるのは、この呼吸不全・換気不全状態での在宅酸素療法や院内での人工呼吸管理になります。ここに至るまでには様々な葛藤とでもいうべき道のりがあるということを理解しておく必要があるかもしれません(コンプライアンス不良例なども往々にしてあるでしょうが)。

あとがき

 さて、ここまで長々と換気障害や病態管理、治療法について概説してきました。

 ガイドラインに則った解説をしてきた訳ですが、ガイドラインを丸っと載せたのでは面白くないのは百も承知です。が、そこからズレる訳にもいかず、どれだけエビデンスに沿った解説をするか。というのは医療系ブログの命題なのかもしれません。

 さて、次回は時間が許せば、COPDの酸素療法や人工呼吸管理について概説していければと思います。

 最近は色々とゴタついていて更新頻度が減っていますが、申し訳ないなーと思いつつ。

では今回はこの辺で。

またね~~

1)日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会;COPD診断と治療のためのガイドライン第6版 2022;一般社団法人 日本呼吸器学会

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