おはこんばんちはなら
さて、随分間が空いてしまいましたが、前回記事の続きとして、我々臨床工学技士がもっともこの疾患において関わる部分、「人工呼吸管理」について解説していきたいと思います。
前回は定義や管理方法について論ずるに留まりました。当該記事は下記をご参照ください。
薬剤だけでは管理が難しくなったり、HOT(在宅酸素療法)でも間に合わない。となった場合に、一時的、または恒久的に人工呼吸管理が導入されます。
その時、我々医療従事者は何をゴールとして人工呼吸管理を行うべきなのでしょうか。それをエンドポイントとして論じていきたいと思います。
では参りましょう。COPDの人工呼吸管理の世界へようこそ。
人工呼吸管理とは
人工呼吸管理と聞くと、一般的にはついつい挿管管理と思ってしまいがちです。しかし、そこで忘れてはいけないのがNPPV:非侵襲的陽圧換気です。
IPPV:侵襲的陽圧換気とNPPV:非侵襲的陽圧換気
IPPV:侵襲的陽圧管理では、ある程度の鎮静を行い、我々が管理をしやすいように仕向ける(?)節があります。それは患者安全の観点からも必要であることは論を待ちません。
しかし、IPPVはどうしても人手を取り、場所も取ります。管理に関しても、看護師はどうしても敬遠する節があるのが難点です(手間がかかるため)。
これに対し、NPPVは各種マスクを用いて換気を行うため、非侵襲的陽圧換気と呼ばれます。マスク換気を行う事のメリットは、患者のQoLやADLの維持にあります(海外と日本のICUでは様相が全く違う点に注意が必要です)。食事や吸引の際には、一部機器ではHFNCに変更することで負担を減らすなども可能です。また、深い鎮静を掛ける必要もなく、患者の呼吸に適度に同調する点もメリットとして挙がります。
但し、デメリットが無い訳ではなく、非侵襲的なため、患者は覚醒下で人工呼吸管理を受けることになるので、どうしても患者の協力が必要不可欠です。患者が装着を拒めばそれまでであり、それにより呼吸状態が悪化すれば、挿管も已む無しとなるわけです。また、リーク量によってはアラームが頻回になるため、スタッフの慣れにもよりますが、人手が必要となります。
詳しくは、下記の記事などをご参照ください。
人工呼吸管理を難しくしている要因は何なのか?
人工呼吸管理を難しくしている点の一つとしては、各種モードの呼称や理解度だと思います。
上記の記事タイトルにもある通り、換気モードと換気様式とは別物なため、それも混乱を来たす要因の一つです。
各種モード、換気様式についてもそれぞれ特徴があり、患者の呼吸状態にあったモードの選択が必須となるのは間違いありません。
この3+2記事はあくまで換気モードについての説明です。
続いては換気様式のご紹介
これら一つ一つをしっかりと理解した上で、本来は人工呼吸管理を行う必要がある。というのが理想です。
COPDを管理するうえで必要な病態の簡易知識
前回記事でも若干触れている換気障害区分ですが、COPDは重症化することで、閉塞性から混合性へと変化・移行します。
混合性換気障害へと昇華してしまったCOPDは考え得る限り最もきつい呼吸器疾患かもしれません。
酸素を吸おうにも胸郭が膨らまず、また気道抵抗が高いために吸気時間は延長し、息を吐こうとしても、こちらも気道抵抗が掛かり息を吐き切れません。
何もこれは人工呼吸管理下の話ではありません。COPD患者の日常なのです。
さて、理学動作的には上記の様な病態です。
では生理学的にはどうでしょうか。実は血液ガスではとても興味深い現象が起きています。
血液ガスの生理学とCOPD
本来、ヒトの血液ガスの正常値とは何がいくらでしょうか。
- pH(酸塩基平衡):7.35~7.45
- PaO2 (酸素分圧): 90~100 Torr(≒mmHg)
- PaCO2 (二酸化炭素分圧):35~45 Torr
- SaO2(経皮的動脈血酸素飽和度:サチレーション):95~97%
- HCO3–:22~26mmol/L
簡単に1例を示したが、簡易的にはこのようになります。
しかし、COPD患者ではある変化が起きています。それは二酸化炭素の貯留です。
代償性変化は起きていますが、兎にも角にも血液ガス上ではCO2分圧が上昇をしています。本来であれば苦しく感じても可笑しくないCO2の上昇ですが、ヒトの身体というのは優秀で、代償性変化を起こすことで、この状態を正常だと勘違いさせます。その為、患者は高CO2血症でも慣れてしまうのです。この状態の事をCO2ナルコーシスと呼びます。
O2分圧は変わりません。しかし、CO2分圧は普段から高いのです。
具体的にいくらぐらいなのか?というのはありませんが、45Torr以上に普段から慣れている。と考えてもらっていいでしょう。
以上が簡易的な病態の知識です。お医者さんにはごめんなさい。これで許してちょ。
必要な人工呼吸管理とは?
さて、CO2ナルコーシスと酸素分圧、血液ガスの話が出揃ったところで、ようやく人工呼吸管理の話に移れます。
普段、ヒトはCO2分圧が上昇すると、呼吸刺激が起こり、呼吸回数を増やしてCO2を減らす方向へ働きます。逆にCO2が減少すれば、呼吸回数を減らしてCO2を貯留しようと働きます。しかし、CO2ナルコーシスの患者は普段からCO2が貯留傾向にあるため、呼吸刺激が弱まっています。しかし、呼吸刺激自体は必要な刺激なため、ヒトはどうにか刺激を獲得しようとします。そこでターゲットになるのがO2分圧です。
PaO2が上昇することで、必要以上のO2を取り込まなくてもいい。と判断した脳は、呼吸を抑制する方向へ舵を切ります。その為、漫然とした酸素の投与は呼吸停止を招きます。
ここで問題になるのが酸素濃度です。
人工呼吸管理をするうえで、設定項目に酸素濃度(FiO2)は欠かせません。
普段我々が呼吸している空気には、O2が約21%の濃度で構成されています。
健常であれば21%でPaO2が90~100Torrということです。この状態でサチレーションは約95~97,98%を示します。そして健常人の呼吸回数は12回前後、この条件下でPaCO2が35~45Torrをウロチョロするわけです。
しかし、IPPV,NPPVも、どちらも酸素濃度、換気回数は自由自在にコントロール可です。
となると、容易く血液ガスは変動します。
先ほども述べたように、CO2ナルコーシスの患者はPaO2が上昇すると、人体は呼吸抑制の方向へ傾きます。
その為、鎮静をわざと深く掛け(RASS-3~-5)、A/CやCMVとしてIPPV管理をしない限り、人工呼吸管理は危険だという事です。
※RASSについての記事は下記をご参照ください。
また、PaO2を測定するためには動脈血採血が必要です。中々に侵襲的な行為ですね。
その為、簡易的に血中酸素を測る方法としてSpO2モニタが存在します。
で、SpO2はSaO2なので、ターゲット%はどこにすればいいか?はおのずと導かれます。
高すぎてはいけない。という話はしましたね。であれば、低くて、でも低酸素血症でないラインを狙って管理すればいいのです。
となると、幅を持たしたとしも、93~97%がベターとなります。決して100%を目指してはいけないのです。搬送中に、不安だからと100%を目指してしまったがために、途中で呼吸停止なんて、医療事故以外の何物でもありません。
これにて必要な人工呼吸管理は何か?の問いへの答えとなります。
あとがき
さて、これにて簡単ではありますが、COPDに対する人工呼吸管理記事は終わりです。
モード設定や換気様式についても議論ーというか記事は書けますが、それはまたの機会に。
最後の最後で、友人の主張が正しいという事が判明しましたね。
良かった良かった。
看護師の皆さんも、CO2ナルコーシスの事は忘れないであげてくださいね。患者管理には必須の知識です。
さーて。では今回はこの辺で。
まったねー
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