エコー下穿刺の是非を問う~その技術は必要か~(追記あり)

血液透析

 さてさて、今回は若干物騒なタイトルを付けてみました(まぁ内容もちょっと過激に進めていこうかと思いますが)。

 昨今ブームとなりつつある透析に関するエコー手技。その幅はVA管理におけるエコーの活用から、穿刺にまで多岐?に渡ります。

 筆者の知る話では、エコー全般(心臓・腹部・下肢 e.t.c.)に関して臨床工学技士が行っているという施設もあると聞いておったまげました。

 ただ、これらの手技、本当に臨床工学技士に必要なのでしょうか?

 そんな素朴な疑問?について、ちょっと筆者の私見を述べたいと思います。

 では行きましょう。エコーの世界へようこそ。

透析におけるエコーの活用

 さて、まずは透析室でどのように超音波診断装置:エコー検査が活用されているかを整理しましょう

Vascular Access管理

 言わずもがな。まずはVascular Access:VA管理について。

 エコー機器が現場に導入されるまで、シャント血管の管理というのは「見る(視診)」「聴く(聴診)」「触る(触診)」の理学所見だけが頼りでした。

 しかし、エコーの導入により形態学的管理が可能となりました。

 主な管理というのはFlow Volume : FVであったり、Resistance Index : RI 抵抗係数や血管径の測定になります。

 これにより、よりエビデンスを以ってVA管理を行うことが出来るようになり、指標も確立したことで、Vascular Access Intervention Therapy:VAIVT 経皮的バスキュラーアクセス拡張術も成功率は上がったのではないでしょうか。

 開存率の延長などにも寄与できたのかどうなのか。それはこれからデータ報告が待たれますね。

エコー下穿刺

 続いてはエコー下穿刺について。

 これは書いて字の如く、エコーを使って穿刺を行う手技になります。

 この手技は、はじめは二人法で行うことが多く、エコー画像の見方を習得することから始め、慣れてきたら一人法でプローブを自分で操作しながら穿刺を行うというのが一般的な流れになります。

 エコー下穿刺はそれなりに難しい手技だといいます。

 確かに、一人法では血管を固定したり、引っ張ったりすることが出来ないので、その分難易度は上がりそうな気がしますね。

VA管理におけるエコーの立ち位置

 エコー検査というのは、ちょっと前までは臨床検査技師の専売特許といった毛色が強かった分野です。しかし、今では何故か診療放射線技師や臨床工学技士もこの生理検査を担うようになっています(こんな風にどの職種がやってもいいのであれば、国家資格を分けている意味が無くなると思いますけどね)。

 さて、とはいえこれらは専ら専門技術です。その為、ただ働きするわけにはいきません。

 では診療報酬はどうなっているのでしょか?

 2021年9月より、臨床工学技士によるVA管理のための超音波検査が認められるようになりました。

内容としては

 の3段構えとなっています。

 あまりに頻回にエコー検査を実施すると、レセプトの返戻をされてしまうため、基本的には3カ月に一度ほどの検査が推奨されています。勿論、閉塞症例に関してはこの限りではないでしょう。

エコー下穿刺における立ち位置

 エコー下穿刺というのは、先にも話した通り結構高度な技術を必要とする手技(のはず)です。

 しかし、

J-038 人工腎臓(1日につき)注4 カニュレーション料を含むものとする。

 とあるように、今のところエコーを使用しての穿刺に関しても、算定を取ることは難しいのが実情です。

 見方を変えれば、何かしらの政治的な動きでもない限り、この手技を習得することは無駄だと言わざるを得ません。

筆者の私見

 さーてやって参りました筆者の私見コーナーです。

 先に結論から申し上げますと、筆者は「エコー下穿刺に関しては否定派」です。

 VA管理に関しても、理学所見あるしな~…という意味であまり興味がありません。確かにエコーがあることで形態学的所見を得ることが出来るので、無効だとまでは言いませんが。

 ただ、先にも言いましたが「エコー下穿刺に関しては否定派」です。これにはちゃんと?理由があります。

 日本の透析の歴史というのは1968年の保険適応にまで遡ります。

 勿論、世界的な原理や実際の救命例などを考慮すれば、さらに遡ることになります。

 さて、1968年から日本の保険医療が始まったとあります。今2024年ですから、今で56年という歴史があります。

 この56年の歴史の中で、内シャントが開発されて以後、穿刺が出来ずに死亡した。という症例が、いったいどれほどいるのでしょか。おそらくほぼ皆無でしょう。

 ダブルルーメンなどの開発などもあり、内シャントがそもそも作成できない症例に関しても救命例が出たことはあるでしょう。

 しかし、内シャントが作成出来てしまい、余程未発達でもない限りは穿刺出来るでしょうし、未発達症例でも内シャントを更に中枢に作り直したり、のちに人工血管が開発されるなどもあり、穿刺の難易度は確実に下がってきたことでしょう。

 そしてエコー下穿刺が登場するまでの50年、我々医療従事者は理学所見だけでシャントをしっかりアセスメントし、管理・穿刺を行ってきた訳です。

 しかし、ではここ数年で急にシャントが進化し、難易度がぐぐっと上がったとでもいうのでしょか?エコーがないと穿刺が出来ないシャントでも出来たのでしょうか?否。断じて否です。

 先にも述べた通り、我々医療従事者は聴診器と指先を頼りに管理が出来ていたわけですし、穿刺も出来てきたわけです。

 エコーは確かに患者の負担軽減・恐怖心軽減には買っているでしょう。しかし、その分医療従事者のアセスメント力の低下は確実に起きていると言えるでしょう。

 これまで穿刺出来ていたのが、急に出来なくなったなんていうのは道理が通りませんから、そういう意味でもエコーの台頭はおかしな話なのです。

 また、これだけ高度な手技にも拘らず、診療報酬は付きません。CVの挿入程になれば勿論加算は付くでしょうが、これはDr.の手技なので、タスクシフト/シェアが進まない限りは夢のまた夢でしょう。

 正直、臨床工学技士はただでさえ診療報酬を生まない職業です。そこに何か無駄な業務を挟む余地はありません。臨床工学技士連盟がしっかりと働いてくれるのであれば、話は別でしょうが。

これらを根拠として、筆者は「エコー下穿刺は否定派」です。

追記1

 去る9月16日、「Twitter忘年会準備事務局」の題でspaceを開催し、とても多くの方に参加して頂き感謝しております。

 さて、当然ではありますが皆様が集まった理由は当記事の内容についてであります。その為、リプライ欄も大変賑やかなものとなりました。

 その中で、筆者の私見に対しては大変厳しい言葉も交わされたことも事実です。

 さて、エコー下穿刺とはどうあるべきか?そしてこれからどうあるべきなのか?についてですが、筆者の意見はあくまで意見であり私見です。これについてコンセンサスを得ようとはさすがに思いません。今の時代はエコー下穿刺がまだ出たばかりの手技であり、過渡期と言える時期であるとの認識です。その為、いずれ筆者の上の様な私見は淘汰されていくことでしょう。今でさえとてもマイノリティであることは昨日のspaceで実感しました(笑)

 Spaceで出た意見、もとい正論とも言えるでしょうリプや発言ですが、エコー下穿刺はこれからの医療安全としては確かに必要な手技です。CVやAラインの留置に関して、ガイドライン上ではエコー下穿刺を推奨されている点からもそう言えるでしょう。

 ただし、裏を返せば、我々メディカルスタッフに対してはまだそこまで要求はされていません。ガイドラインには載ってませんし、エキスパートコンセンサスが出ているわけでもないからです。

 しかし、患者視点に立った場合にはこの限りではなく、医療訴訟を起こされた場合にもそうですが、「なぜ便利なツールがあるにも拘らず、ブラインドで穿刺を行ったのか。」と言われた場合には反論は難しくなるでしょう。

 そういう意味で、時代はエコー下穿刺を求めています。

 ただ、筆者のアイデンティティとして「穿刺が得意」な人間の意見としては、これまではブラインドで高難易度の血管に穿刺していたにもかかわらず、技術もセンスもない人間が、パッと出のツールに頼って、「僕穿刺できますよー」顔でやってくるのは如何なものかと思うのです。

 但し、エコー下穿刺賛成派(?)の意見も大いに賛同できます。

 謙虚とでもいいましょうか、技士アカウントからの「持たざる者であるスタッフは、エコー下穿刺を覚えておいて損はないですという事を言いたい」という発言には、確かにその通りだと思いました。それに、手法はどうあれ、穿刺の経験ー数を積むという点では、穿刺経験を積みながら成功経験も積めるというのは、一石二鳥なのかもしれません。患者にとってもスタッフにとってもwin-winでありますし、いずれ穿刺のコツ?技法?を肌感覚で掴めるようになれば、エコーなしでも穿刺をしてくれるようになるでしょう。という淡い期待を抱いてもいいのかもしれません。

 これらの点を踏まえ、私見を総括すれば、これは筆者の僻み・嫉妬なのかもしれません。なんせ14年もかけて気付いてきた技術やスキルをほぼ一瞬で奪われる訳ですから。

 穿刺というのは患者と信頼を築くうえで欠かせないものです。そのアドバンテージを奪われることの恐怖を、もしかしたら発言したのかもしれません。

 その他にも、別のアカウントからの発言では「ブラインドでもセンス良く穿刺出来た上にエコー下穿刺も出来たらめちゃくちゃ便利じゃん。」という考えも寄せられました。確かに。その通りですね。考えてませんでした。

 とまぁ、さすがに100人も集まると本当に様々な意見が出たSpaceでしたが、久々に有意義な時間を過ごせたと自負しております。

 皆様、今回は本当にありがとうございました。

 これからも当ブログに対して、叱咤激励の程、よろしくお願い申し上げます。

あとがき

 というわけで、今回は透析室でのエコー活用、及び筆者の意見表明に記事を書いてみました。

 ね?過激だったでしょ?

 まぁ仕事としてやれ。と言われればやりますよ。仕事ですから。大人ですし。

 ただ、じゃあこれで発表しろ。と言われても内容がな~・・・と腰が入りませんねきっと。

 こんな事の発表するくらいなら、筆者は栄養を絡めた透析管理を研究発表しますね。そっちの方が有用ですよ。

 さ、愚痴も混ざりそうなんでそろそろ〆ようかと思います。

 では今回はここら辺で~まったね~ノシ

コメント

  1. 山部 善光 より:

    興味が無いことは、わかりました。
    しかし、それを行う事により誰に良い利益があるのかを、興味の有無に関係無く考える事も必要と思います。

    決して技術的なものを手放し、全てエコー下でという事ではございません

  2. クッキー より:

    僕も最近まではエコー下穿刺は否定派でした。
    でも、「内筒が血管に入ったかどうか」を確認するための装置としては優秀ですよ。
    血管に入ってない状態で内筒抜いたら失敗確定ですからね。
    診療報酬や損得勘定うんぬんより穿刺の成功率を1%でも上げるツールとして僕は使っています。

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