おはこんばんちわなら
今回は前から書こう書こうと思っていた、カルニチンと筋痙攣(いわゆる下肢攣り)についてです。
筆者が初めに勤めていた施設では、筋痙攣が起きた場合には毎回カルチコールを使っていました。
その頃は脳死でカルチコールを使っていたので、何故なのか?なんて考えたことはありませんでした。
しかしその機序について、カルニチンが出て少しした頃にJSDT:日本透析医学会より総説が出されました。
今回はその内容をかいつまんで解説していきたいと思います。
では行きましょう。カルニチンの世界へ
そもそもカルニチンって何?
L-カルニチンはヒトの体内で生合成されるため、ビタミンではない。L-カルニチンは、ヒトにとっての必須アミノ酸であるリジンとメチオニンの2つのアミノ酸から、肝臓や腎臓において生合成される生体成分である。
とあります。注意が必要なのは、上記でも述べているように、体内で生合成される為、ビタミンではない。ということです。
カルニチンの役割
カルニチンでも、それには2種類あります。D-カルニチンとL-カルニチンです。透析臨床で投与されるのはL-カルニチンの方になります。
L-カルニチンの役割というのは意外にも分かっていることが多いです。wikipediaにもその概要はざっくりと書かれています(というより、日本語で検索するとサプリメントサイトの多さに日本の危機感を感じる訳です)。
さて、L-カルニチンは、生体内で脂質を燃焼してエネルギーを産生する際に、脂肪酸をβ酸化する場であるミトコンドリア内部に運搬する役割を担います。体内では骨格筋や心筋などに多く存在し、筋肉細胞で遊離した長鎖脂肪酸のミトコンドリアへの受け渡しなど、脂質の代謝に重要な働きをしています。
ミトコンドリアに輸送された脂肪酸は、β酸化を受けて次第に炭素鎖が短く切断され、酢酸にまで分解されてゆく。そして、β酸化によって生成したアセチルCoAは、ミトコンドリア内でのTCAサイクルを通じて、ATPやGTPの合成のため、または、体温の産生のためなどに使用されます。しかし、長鎖脂肪酸はL-カルニチンと結合していないと、ミトコンドリア膜を通過して、β酸化が行われます。ミトコンドリアのマトリクスまで到達できないのです。これに対して、中鎖脂肪酸はL-カルニチンと結合せずにミトコンドリア膜を通過できることが知られています。しかし、L-カルニチンと結合されてミトコンドリア内部に運搬されている中鎖脂肪酸も存在します。参考までに、脂肪酸にL-カルニチンを結合させる反応は、ミトコンドリア膜に存在する酵素により触媒されています。
なお、脂質代謝に利用されるのはL-カルニチンのみであり、鏡像異性体であるD-カルニチンは活性が無いとされています。むしろ、D-カルニチンは、競合的にL-カルニチンの活性を阻害すると考えられています。
これ以外に、脂肪酸に類似した分子で、生体にとって不要な分子を、L-カルニチンに結合させて、L-カルニチンの水溶性を利用しつつ、尿中に排泄する役割も持ちます。
これらより、L-カルニチンには大きく2つの役割があることになります。
・カルニチンは脂肪酸をミトコンドリア内に輸送するのに必要
・カルニチンは脂肪酸をミトコンドリア外に輸送するのに必要
そして大きな役割として3つ目が存在しています。
・カルニチンは細胞膜の安定化を行う.
ROS(活性酸素種)などにより、体は常に酸化ストレスに晒されています。酸化ストレスに晒された細胞膜 Phospholipid:PLPは過酸化物(ヒドロペロキシド)が生成されます。この過酸化物はホスホリパーゼA2(ALP)によって無害な脂肪酸とリゾリン脂質(Lysophosholipid:LPL)に加水分解されます。このLPLは細胞溶解性があるため、元のPLPに再生する必要があります。再生するためにはLysopholipid acylCoA Transferase(LAT)の活性を増やす為には、一定量のアシルCoAの供給が必要になるが、これはATP依存性のAcylCoA Synthetase(ACS)で活性化されます。LATとACSは互いに活性化することでサイクルを形成するわけですが、その効率というのはLATおよびACSの酵素比率によって厳密にコントロールされています。Carnitine Palmitoyl Transferase(CPT)の存在により、ACS-LATサイクルはAcylCoA/free CoA比は一定に保つことが出来ます。カルニチンの存在が、このCPTの緩衝作用をサポートしています。
以上の様に、カルニチンの生理学的濃度が存在することによって、酸化ストレスによって変性した脂質の再生を助けています。
これが細胞膜の安定化に寄与する訳です。
透析にとってカルニチンとは?
カルニチンはMW:161.199なため、いとも簡単に透析されてしまいます。
薬剤で補充する以外には今のところ手段がありません。
肝臓や腎臓で生合成されるわけですが、腎臓は退廃してしまってるわけですし、肝臓だけでは力不足なようです。
しかし、補充しなければどうなるかというとカルニチン欠乏症となってしまわけです。
このカルニチン欠乏症が透析臨床にとって重要となるわけです。
カルニチン欠乏症と筋痙攣がなぜ繋がるのか??
これは筋肉の収縮メカニズムが関係しています。
筋肉が収縮するためには筋小胞体からカルシウムイオンが放出され、アクチンとミオシンがが相互反応する事が必要となります。
筋小胞体が放出したカルシウムイオンを再取り込みするためにはATPが必要であり、ATPを分解するためにはカルニチンが必要となります。
しかし、カルニチン欠乏症を発症するとATP不足となりカルシウムイオンの再取り込みがかなわず、筋収縮が続くことになります。
これが結果として下肢攣りになります。
但し注意が必要
説明としては上記の項のように理路整然と説明されます。
しかしこれ、エビデンスが乏しいと言われているんです。
その為、筆者の施設のDr.はL-カルニチンの処方をしていません。
使用には長期の連用が必要になりますし、個人差があるので注意が必要です。
透析中の下肢攣りに関するもう一つの機序
筆者の前書きで、カルチコールをi.v.していたという話をしました。実はここにヒントがあります。
一般に、細胞外液(Extracellular Fluid : ECF)量が変化しても、ECF内のHCO3–量に変化はなくほぼ一定で、ECFが減少して濃縮(除水)すると、相対的にHCO3–は増加します。これが除水によって生じる濃縮性アルカローシス(体液量減少性アルカローシス)です。透析液によるアルカリ化剤(重曹)によりアルカローシスに傾き、さらに除水による濃縮性アルカローシスが加わり、より一層アルカローシスに傾く結果、除水量の多い患者に筋攣縮が生じやすくなります。目標体重以下に除水した時も同じように過度の濃縮性アルカローシスを生じるため筋攣縮を生じやすくなります。それらの多くで血圧が低下していますが、血圧低下で循環障害になりこむら返りが生じるのではありません。
これが、透析終盤で起こってしまう下肢攣りの原因なのです。
あとがき
今回はカルニチンの下肢攣りに対する効果に関して記述してみました。
ただし、上記でも述べているようにエビデンスは乏しく、また継続して1カ月ほど施注しなければ効果が分かりにくいという点が賛否の分かれる原因になっています。
次回はカルニチンの心筋に対する見解を書ければいいな~と考えています。
今回はこの辺でお暇致します。
ではまた~~
1)ウィキペディアの執筆者,2023,「カルニチン」『ウィキペディア日本語版』,(2023年10月17日取得,https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%83%81%E3%83%B3&oldid=97384282).
2)高橋 朗 , 透析とカルニチン , 日本透析医学会雑誌 透析会誌 52(2):83~91,2019
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