小分子量?大分子量物質??何のこと??~溶質編~

血液透析

 おはこんばんちわなら

 さてさて、血液透析基礎シリーズもいよいよ佳境に入ってきました(本当か?)。

 今回は透析で除去される溶質シリーズを紹介したいと思います。といっても代表的な溶質(要するに自分が思いつく限りの物質)を紹介していきたいと思います。

 血液浄化といっても、ターゲットは様々です。

 血液透析から血漿交換まで、治療は様々。

 どんな物質が除去されるのか?その物質の分子量はいくらなのか?

 それらを説明できればいいかな~と思っています。

 では行きましょう。分子量の世界へようこそ。

分子量の定義とは

 2023年9月頃からGoogleの検索でAIが活用できるようになったおかげで、定義?を探すこと自体は簡単になりました。

 文献もいくつかヒットするので、そこから読み解いていきましょう。

 分子量の事をmolecular weight: MWと呼び、読み方の単位はDa:ダルトンです。

 そしてその区分けはというと、

  • ~500Da:小分子
  • 500~2000Da:中分子
  • 150,000Da~:大分子

 となっています。1)2)

 書籍などによっては細かい値は違うようですが、大方、血液浄化ー血液透析ーではこの辺りとなっているようです。

血液透析における除去分子量の流れ

 1965年、米国人工臓器学会(ASAIO)でのScriberの、「尿毒症物質の原因は中分子領域(Middle Molecular:MM)にあるのではないか??」という発言により、MMの除去を重視する研究が始まり、Babbらによる「square meter‒hour hypothesis」3)と「middle molecular hypothesis」4)によって確立されました。

 1985年、下条らや別グループであるGejyoらにより手根管症候群の原因物質としてβ2-ミクログロブリンが同定され、分子量1万以上の溶質がターゲットとなり、その目標物質除去のためのダイアライザや透析技術の開発が行われました。

 そのあたりの歴史に関しては以下の記事で詳しく説明していますので、もし興味があればご覧ください。

 ハイフラックス膜、いわゆるハイパフォーマンスメンブレン(HPM)の登場はある意味必然と言っていいのかもしれません。

 最近の提言では、糸球体を通過する溶質である分子量0.5~58kDaのMMが中分子量物質として定義されました。

 そして、新たな分類として

  • 「small‒middle 0.5~15 kDa」,
  • 「mediu-mmiddle >15~25 kDa」
  • 「large‒middle >25~58 kDa」5)

が提唱されています。

 この提言の根拠となっているのが、上記でも述べている通り糸球体濾過上限です。そこが58kDaだということで、これに統一されました。

 今後、血液浄化法のメインターゲットはここへ移っていくと思われます6)

代表的な小分子量は?

さて、ここでは言わずもがなな物質の紹介です。HDで拡散されていく物質たちになりますね。主な物質に

  • BUN(60)
  • クレアチニン(113.12)
  • カリウム(39.0983)
  • リン(30.973762)
  • 尿酸(168.1103)
  • メチルグアニジン(73.099)
  • グアニジノコハク酸(175.144)
  • 非対称性ジメチルアルギニン(500未満<MW)
  • ミオイノシトール(180.16)
  • シュウ酸(90.03)
  • βリポプロテイン
  • グアニジン(59.07)
  • ヒポキサンチン(113.1115)
  • マロンジアルデヒド(72.0636)
  • 破骨細胞形成抑制因子(220KDaと22KDaの2種類がある)
  • 対称性ジメチルアルギニン(380.3)
  • キサチン(152.11) e.t.c…2)

 などが挙げられます。これらの小分子(分子量<500)は遊離型として存在している為、拡散で容易に除去されます。

 遊離型とは別に、問題となるのがタンパク結合型の小分子です。蛋白自体が大きいため、除去をするには濾過の力が必要になります。

 これらタンパク結合型小分子ついて挙げられるのが以下になります。

  • ホモシスチン(268.3536)
  • インドール酢酸(175.184)
  • p-クレゾール(108.14)
  • フェノール(94.11)
  • 馬尿酸(179.18)
  • ペントシジン(378.43)
  • グリオキサール(58.04)
  • メチルグリオキサール(72.06266)
  • フランプロバン酸(72.06266)
  • インドキシル硫酸(213.210)
  • スペルミジン(142.25)
  • キノリン酸(167.12) e.t.c…2)

 これらはあくまで一例にすぎず、体内には様々な物質が存在しており、拡散・ろ過されています。()内は分子量になります。

中分子量物質とは?

 さて、ここからはHDでは除去が難しい中分子領域のお話です。基本的にこの領域の物質を除去しようと思うと、HF,HDFの力を借りなければなりません。しかし、濾過が強力なためにそれ以上の物質も除去してしまうという難点もあります。ただこれをデメリットと捉えるか、メリットと捉えるかは人それぞれな所がありますね。

 ではまずは中分子量のご紹介です。

  • 副甲状腺ホルモン(9.5kDa)
  • β2ーミクログロブリン
  • レプチン(11.8kDa)
  • シスタチンC(13kDa)
  • ニューロペプチドγ(42.963Da)
  • IL-1β(17kDa)
  • IL-6(21~28kDa)
  • TNF-α(約17kDa)
  • アドレノメデュリン(6,029Da)
  • 心房性ナトリウム利尿ペプチド(3kDa,6lDa,13kDaの3種類)
  • 補体D因子(不明)
  • エンドセリン(2,491.9Da)
  • ヒアルロン酸(基本単位は400Daの糖の一種)
  • レチノール結合タンパク質(約21kDa) 
  • FGF23(約32kDa)
  • ヘプシジン(2713.2~32kDa)e.t.c…

 これらが中分子量物質の代表です。

 これ以上の物質はlarge‒middle >25~58 kDaとして定義され、Albやα1-ミクログロブリンなどはこの領域となります。

 これらをターゲットに透析掻痒症やレストレスレッグ症候群の改善を目指して、Convention Volume(置換量。以下CV)を60LにしてOre-OHDFを行うという手法も存在しています。

色々なTrialについて

 これまでもHDFとHDを比較検討するTrialは様々行われてきました。その走りとして有名なのが「CONTRAST Trial((後希釈オンラインHDFとlow flux HDの比較)」7)「Turkish study」8)「ETHOL study」9)「French study」10)(ともに後希釈オンラインHDFとhigh flux HD(HFHD)の比較)の4つになります。しかし、これらのRCTでは治療目標としてのCVが定められておらず、増加できた症例の合併症の交絡の可能性を排除することができない。つまり、高いCVの患者は合併症が少なく、自己血管:AVFが多く得られ、元気な患者であった可能性が高く、それらでは死亡率が低いという問題点がありました。

 また、Euro-DOPPS4-5を用いた観察研究では、HDFやそのCV増加の優位性は証明されていません。11)

 これら諸々の問題を解決するためにヨーロッパでは2つの大規模RCTが行われました。一つは「CONVIENCE Trial( comparison of high‒dose HDF with high-flux HD)」です。これに関しては翻訳記事を掲載させていただきました。

 もう一つが「H4RT (High‒volume HDF versus High‒flux HD Registry Trial)」12)です。このTrialに関しても、プロトコル論文は出ているようなので、時間があれば翻訳記事を出したいと思います。但し、やはりPost-OHDFでのTrialになると思われます。乞うご期待ですね。

あとがき

 今回は血液透析で除去される溶質である小分子物質、タンパク結合小分子量物質、中分子量物質について解説?してみました。

 あ!この名前聞いたことある!!という方も居るとは思います。

 各物質の生理活性までは説明しきれていません。それこそ透析ケアに詳しく書かれていると思うので・・・。

 まぁ時間があれば詳しく書かせていただきます(その気になれば)。

 では今回はこの辺りで終わりにしたいと思います。

 ではまた~~

1)創薬における中分子

2)透析処方という概念

3)Babb AL, Popovich RP, Christopher TG, Scribner BH. The genesis of the square meter‒hour hypothesis. Trans Am Soc Artif Intern Organs 1971;17:81‒91.

4) Babb AL, Ahmad S, Bergström J, Scribner BH. The middle molecule hypothesis in perspective. Am J Kidney Dis 1981;1:46‒50.

5) Rosner M, Reis T, Husain‒Syed F, et al. Classification of uremic toxins and their role in kidney failure. Clin J Am Soc Nephrol 2021;16:1918‒28.

6)川西 秀樹 ,総説  新たな中分子分類の血液浄化法の位置づけ , 透析会誌55(9):509~514 2022

7)Canaud B, Köhler K, Sichart JM, Möller S. Global prevalent use, trends and practices in haemodiafiltration. Nephrol Dial Transplant 2020;35:398‒407.

8) Grooteman MP, van den Dorpel MA, Bots ML, et al. Effect of Online Hemodiafiltration on All‒Cause Mortality and Cardiovascular Outcomes. J Am Soc Nephrol 2012;23:1087‒96.

9) Ok E, Asci G, Toz H, et al. Mortality and cardiovascular events in online haemodiafiltration (OL‒HDF) compared with high‒flux dialysis:results from the Turkish OL‒HDF Study. Nephrol Dial Transplant 2013;28:192‒202.

10) Maduell F, Moreso F, Pons M, et al. High‒Efficiency Postdilution Online Hemodiafiltration Reduces AllCause Mortality in Hemodialysis Patients. J Am Soc Nephrol 2013;24:487‒97.

11) Locatelli F, Karaboyas A, Pisoni RL, et al. Mortality risk in patients on hemodiafiltration versus hemodialysis:a ‘real‒world’ comparison from the DOPPS. Nephrol Dial Transplant 2018;33:683‒9.

12)Fergus J. Caskey, Sunita Procter, Stephanie J. MacNeill, Julia Wade, Jodi Taylor, Leila Rooshenas, Yumeng Liu, Ammar Annaw, Karen Alloway, Andrew Davenport, Albert Power, Ken Farrington, Sandip Mitra, David C. Wheeler, Kristian Law, Helen Lewis-White, Yoav Ben-Shlomo, Will Hollingworth, Jenny Donovan & J. Athene Lane , The high-volume haemodiafiltration vs high-flux haemodialysis registry trial (H4RT): a multi-centre, unblinded, randomised, parallel-group, superiority study to compare the effectiveness and cost-effectiveness of high-volume haemodiafiltration and high-flux haemodialysis in people with kidney failure on maintenance dialysis using linkage to routine healthcare databases for outcomes ,

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