おはこんばんちはなら
さてさて、皆さんの施設ではDWはどのように決定しているでしょうか?CTR?血圧?IVC径?
DWの決め方には様々な方法があります。その一つに、心臓から出るホルモンとしてのhANP , BNP , NT Pro-BNPがあるわけです。
今回はそんなホルモンーバイオマーカーについてお話していけたらと思っています。
では行きましょう!いざ、心不全ホルモンの世界へ!
hANPって何?
さて、hANP,hANPとよく連呼するわけですが、これって何なんでしょうね。
学生の時にも、もしかすると臨床実習で聞いたことはあるかもしれません。
hANPというのはヒトに特有のANPです。なので、実際細分化するとhとANPになります。翻訳すると
Human Atrial Natriuretic Peptide : ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド
となります。
hANPの歴史
ホルモンー内分泌系の歴史は、同定されるという意味ではそんなに古くはありません。せいぜい1900年代に突入してからです。
ANPも同様で、歴史的にはそんなに古くはありません。
- 1958年 Kirshらによる心房特異顆粒の発見
- 1979年deBoldがラット心房組織からの抽出物を別のラットに静脈投与をし、ナトリウム利尿、体血圧低下することを発見
- 1984年松尾・寒川らがヒト心房組織からANPの単離に成功し命名
- 1988年同グループよりブタ脳よりBNPを単離のちに、ヒト心房心室にBNPが存在し、主に心室より分泌されていることが示された
- 1990年同グループよりブタ脳よりCNPを単離のちに、血管内皮細胞でも産生されていることが示された
とまぁ、心臓系ホルモンの歴史とはざっとこんなものです。
当時、心臓特異的顆粒の発見はあったのものの、その正体は分からず、世界中の研究者がこぞって探し回ったといいます。そして1984年、当時宮崎医科大学で研究をしていた寒川賢治先生と松尾壽之先生が完全な環状構造を有したホルモンを発見。これをHuman Atrial Natriuretic Peptideと命名しました。この前年にはラットからの単離が成功しており、その時点でAtrial Natriuretic Peptideと命名されていたようです。
分泌機序は?
さて、hANPはどのような場合に、どこから分泌されるのでしょうか。
命名から察するに、どうも心房から分泌されるようです。ですが、心房がどのようになれば分泌されるのでしょか。
実はこのホルモン、心房は心房でも、心房壁とかではなく冠状静脈洞から分泌されるんです。
なんか心房と聞くと、「心房全体からふわっと分泌されるのかな~」とか思ってませんでしたか?違うんですね~。
ANPは心房の進展刺激により、その分泌を亢進させ、利尿を促します。
エンドセリン、バゾプレッシン、カテコラミンなどのホルモンによっても分泌が促進されることが分かっています。
ANPは利尿ペプチドというだけあり、分泌により腎臓に作用し、利尿を促します。
分泌されたANPは腎臓の集合管にあるANP受容体を介して、ナトリウムチャネルの数を減少させることで、ナトリウムの再吸収低下を起こし、利尿を促します。ANP受容体自体は血管側にあるもので、ANPを感受した受容体はサイクリックGMP(環状グアノシン一リン酸)を介して細胞内をマイナスの電位に傾け、管腔側にあるナトリウムイオンチャネルの数をコントロールし、結果としてナトリウムの再吸収を抑制、水分の吸収を制御します。
腎臓におけるナトリウム濾過からの再吸収率は、集合管においては2~3%なので、微々たるものであります。事実、ANPの半減期も2~3分ととても短いのです。
しかし、利尿剤としてのHANPはとても強力なようで、心腎連関の名のもと、二つの臓器保護にも一役買っているようです。利用剤としてのHANPのお話はまたいつか。
基準値
透析患者としての基準値は性差が無く、
- 43.0pg/mL以下
となっています3)。
参考文献3のコラムにもあるのですが、hANP自体は透析される為、透析前後で濃度が若干変わります。また、Afを有する患者であれば、容易にこの値は変動してしまいます。基準値に関する報告もまちまちで、50pg/mL以下だとする報告もあれな、75pg/dLもあります。
ANPとしての作用機序
hANPはただ心房の負荷=伸展具合を教えてくれわけではありません。心房に何かしらの異常があるから分泌され、是正しようとするわけですよね。ではその働きは何なのか?それについて述べていこうと思います。
利尿作用
名前にも付いているように、このホルモンは利尿を促します。
先にも述べたように、腎臓に直接作用し、集合管内のナトリウムイオンチャネルをコントロールするのがANPの仕事です。Na+を吸収することは、同時に水分も引っ張ることを意味します。逆にNa+が吸収されなければ、水分は再吸収されません。なので、利尿を促すことになります。
血管拡張作用
続いては血管拡張作用です。但し、この血管拡張作用はとても限定的で、target organが決まっています。それが末梢血管抵抗と容量血管、つまりは静脈に対してなのです。その他の主要臓器である脳や心臓などの組織血流は維持されます。上手い事出来てますよね。
血管平滑筋には膜型グアニル酸シクラーゼ酵素(GC)である受容体NPR-Aが存在し,細胞内のcGMP濃度を上昇させます。平滑筋にはNOやニトログリセリンなどの亜硝酸化合物で活性化される可溶性GCも存在し、上昇したcGMPが同様にセカンドメッセンジャーとして作用する。結果として、細胞内Ca濃度を低下させるなどして筋弛緩作用を引き起こします。
ホルモン分泌抑制、交感神経抑制作用
ANPはレニン-アルドステロンの分泌・活性を抑制し、抗利尿ホルモン(ADH)、エンドセリン、α1受容体作用薬などの血管収縮性因子に拮抗します。また中枢神経系にも作用し、口渇への飲水行動やアンジオテンシンIIによる中枢性の昇窪反応、ADHや副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を抑制することが知られています。一方で交感神経系の抑制作用も有しており,血圧降下後の代償性の頻脈や血管収縮反応を抑制します。
透析におけるhANPの役割
hANPは実際の代謝は腎臓で行われます。利尿作用が主ですからね(他にも血管拡張やホルモン分泌抑制もありますが)。なので、ネフロンの廃退した腎臓しかない透析患者においては、その代謝経路が無くなります。Target Organが無い状態です。
となると、血液透析で透析されるのも已む無し。になりそうです。事実、透析前後では、hANPの濃度は前に比べ後は減少しているという事が分かっています。
それでも、採血のタイミングを統一することで心不全評価に耐えうるものではないかという考えです。
なお、ちょこっと先にも述べましたが、心房細動を有する患者に関してはhANPは高値に出てしまうため、注意が必要です。
あとがき
さてさて、今回は心不全のバイオマーカーであり、透析においてもDW決定の指標になるホルモンのお話をさせていただきました。
お気づきの方もおられるとは思いますが、この他にも心不全のバイオマーカーは存在するので、のんびり記事にするつもりです(なんせ筆者も勉強中の身なので)。
さ、というわけでhANPのお話はこれにて一区切り。
薬剤としてのHANPのお話はまたいつか。
ではでは~~
1)中尾 一和 ; ナトリウム利尿ペプチドファミリーのトランスレーショナルリサーチ ; HANPフォーラム2008
2)黒川 清 , 和田 健彦 , 花房 規男 ; 体液異常と腎臓の病態生理 第3版 ; メディカル・サイエンス・インターナショナル
3)黒川 清 , 深川 雅史 , 山田 明 , 秋澤 忠男 , 鈴木 正司 ; 透析患者の検査値の読み方 改訂第2版 ; 日本メディカルセンター
4)武田 憲文 , 平田 恭信 ; III.治療の進歩5.心房性ナトリウム利尿ペプチド ; 日本内科学会雑誌 第94巻 第2号・平成17年2月10日
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