透析液の処方について~重炭酸透析液?無酢酸透析とは?~

血液浄化

 さて、今回は透析液の種類やその歴史について解説していこうと多います。

 ただ、組成や定義を話すとあっという間に終わってしまうので、まずは歴史的変遷を解説出来ればなと思います。

 では行きますしょう。いざ透析液の世界へ。

透析液の基本的条件

 末期腎不全では透析を行うか移植を行うかのどちらかになります。

 透析では、中空糸を介して拡散と限外濾過を行い、体液組成を是正する治療法であるので、それに用いられる透析液の組成というのは極めて重要となります。体液組成の是正が目標なので、透析液の組成は細胞外液の組成に近いものを基本に、カリウムやリンのような腎不全で蓄積するものは低濃度に、重炭酸のように補充したい溶質は高濃度に設定されています。

そこで、基本的な条件を示すと、以下のようになります。

  • BUN,Crなどの除去したい溶質を効率よく除去できる
  • 電解質や浸透圧など恒常性が維持されている物質の濃度は著しく変動させない
  • 代謝性アシドーシスの補正が出来る
  • 生体に必要な物質(グルコース、アミノ酸など)は出来るだけ除去しない。
  • 生体に有害な成分は含んでいない
  • 液の組成が長時間安定している

 以上6項目になります。

透析液の歴史

 実験ベースでの透析実施は1912年からAbelにより行われています。

 この時に用いられた透析液は0.6%食塩液だったそうです。

 そこらから様々な研究が重ねられ、現在の透析液組成に近くなったのは1947年の事。Kolffが作成した透析液です。この透析液は低Na,高Caであり、アルカリ化剤として重炭酸を用いて浸透圧を上げ、溶血を防ぐ為にブドウ糖濃度を1500mg/dLまで上げていました。しかし、この透析液では炭酸カルシウムの析出防止に工夫が必要でした。

 そこから約20年後の1964年、Mionらによりアルカリ化剤として重炭酸の代わりに酢酸を導入する改善案が出されました。重炭酸を含まないため、透析液は1剤化し、高濃度原液が作成可能となり、希釈装置で大量・多人数への透析液供給が可能となりました。

 しかし、HPMの普及により、酢酸不耐症が問題として表出するようになります。

※酢酸不耐症とは
 頭痛・全身倦怠感・血圧低下などのアレルギー様症状を引き起こす病態である。現在でも少量酢酸含有透析液を使用した施設があり、少数ながら症例報告がなされています。また、肝機能障害がある場合、酢酸が代謝しきれず不耐症を呈することがあります。

 これにより、より生理的な重炭酸透析液を用いる風潮が高まり、現在ではアルカリ化剤として重炭酸と用いた透析液が主流となっています。

 最近では、pH調整のために使用されている酢酸に変わり、クエン酸ナトリウムを使用した透析液が市販されています。これが無酢酸透析液です。

さぁ、やっとここで「無酢酸透析」という言葉も出てきました。

各種透析液の特徴について

 歴史編で、3種類の透析液が出たことにお気づきでしょうか。

 これら3つの透析液の特徴について、これから説明できればと思います。

酢酸透析液

 酢酸透析液は、現在ではほぼ用いられることが無くなった透析液です。

 CaやMgが炭酸塩として析出・沈殿することが無いため、原液を1剤化でき、電解質濃度、pHが安定しています。また、酢酸が殺菌作用を有するため、長期保存が可能です。

 しかし、重炭酸が入っていないため、血中より除去されてしまいます。

 酢酸は主に肝臓のTCAサイクルで重炭酸に代謝されますが、腎不全患者の酢酸最大代謝速度は健常者よりも30%ほど低下している点に注意が必要です。

 酢酸の作用は末梢血管拡張作用、心機能抑制作用、IL-1産生誘導などの非生理的作用があります。

 また、歴史編でも出ましたが酢酸不耐症(血圧低下、胸内苦悶、頭痛、嘔気など)を呈することがあるため注意が必要です。主に肝機能の低下している高齢者や糖尿病患者で多く見られます。

重炭酸透析液

 こちらは現在主流となる透析液です。重炭酸自体が生理的な溶質でありアルカリ化剤です。

 CaやMgと重炭酸が炭酸塩を作り沈殿が発生するため、原液を2剤化(A剤:重炭酸以外の電解質、B剤:重炭酸Na)する必要があります。また、昔ほどではないにしろ、pH調整剤として少量の酢酸(8~10mEq/L)が添加されています。

 また、毎朝使用直前に多人数用透析液供給装置で混合して密閉度の高いシングルパス方式で供給します。但し、液ライン及び透析監視装置内に炭酸塩の析出が起こるため、酸洗浄など十分な洗浄管理を必要とします。

無酢酸重炭酸透析液

酢酸を全く含まない点が特徴の透析液です。但し、pH調整剤として少量のクエン酸(2mEq/L)が添加されています。

 重炭酸イオン濃度は高く、35mEq/Lで調整されています。

 Caとクエン酸のキレートが生じる点にも注意が必要です。

 A原液のpHが低い(2.0~2.5,実測2.3)ため、溶解槽ステンレスの腐食が起こることがあります。

 また、クエン酸では酢酸と酸解離定数(pKa)が違うため、酢酸不耐症が起こりません。

以上が各透析液の特徴になります。

あとがき

 今回は透析液の処方に関する注意点や特徴について説明させていただきました。

 今回の透析液処方の中に、Acetate Free BioFiltration:AFBFについては解説していないので、いずれ解説出来ればと思います。

 久しぶりにじっくりと血液浄化療法ハンドブックと睨めっこをしましたが、当時は真面目に勉強していたんだな。と感じる本になっていました(笑)

 さ、では今回はこの辺で。

 ではまた~

コメント

タイトルとURLをコピーしました