さてさて、お久しぶりでございます。
前回の記事では基礎編と題して、一次性の血液ガスの変化(代謝性アシドーシス・アルカローシス、呼吸性アシドーシス・アルカローシス)についてお話させていただきました。
では応用編ってなんなのか??という部分のお話をさせていただこうと思います
さて、では行きましょう。
ようこそ、血液ガスの世界へ
おさらい
さて、前回一次性のpHの変化はどうすれば起きるのか?という前回お話しました。ではそれはなんだったか?
体内へpHの恒常性を担うのは腎臓であり、その相棒として肺があるというという話でした。
下記の式は体内での酸塩基反応を表すヘンダーソン・ハッセルバルヒの式と言われるものです。
$$pH=6.1+\log \frac{[HCO_3^-]}{[0.03×PCO_2]}$$
この式を視覚的に表す式が
$$CO_2 + H_2O ⇔ H^+ + HCO_3^-$$
です。上記の式は血液ガスの話をする際には欠かせない、ブレステッドの酸塩基反応の式です。
この式で、左辺は肺でのガス交換能を、右辺では腎臓での重炭酸、水素イオンの出納を現しています。
ではこの式がどうの様に動くと何になるのか?というお話でした。
pHは低くなると酸性=アシドーシス、高くなるとアルカリ性=アルカローシスと呼称します。
肺でのpHの動き
まずは左辺のお話。つまりは肺の働きです。
肺障害には閉塞性と拘束性がありますが、pHを動かすのは主に閉塞性です。
ガス交換能が落ちることにより、CO2は貯留の一途を辿ります。左辺で言えばCO2が増えることになります。
ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式の式では、分母が大きくなるため、pHは低くなります。
この状態を呼吸性アシドーシスと言いました。
逆にCO2が吐かれすぎる状態=過換気などでは、CO2が少なくなるので、分母が小さくなります。こうなればpHは高くなることになります。
この状態を呼吸性アルカローシスと言いました。
腎臓でのpHの動き
腎障害といっても様々です。
この中で、まず我々臨床工学技士が代表として挙げるのは慢性腎臓病=末期腎不全(ESRD)です。
しかし、無尿・乏尿に至るまでには様々な段階を踏みます。
通常、臨床現場では、乏尿などの尿量減少に対応して、利尿剤や高カリウム血症治療薬などを用いて対処しようと試みます。この場合、尿量の増大に伴い、重炭酸の濾過量は増えます。その為、近位尿細管での重炭酸の吸収増加、及び酸の分泌増加が発生します。そうなれば、細胞外pHは大きく動いてしまいます。
まず重炭酸の吸収増加で血中のHCO3–は大きく増加します。そして、濾過された重炭酸を吸収するために、NHE3という機構により水素イオンー所謂酸が分泌されます。
こうして徐々に相対的にアルカリ性へと傾いていく訳です。
ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式では分子が大きくなります。こうなればpHは大きくなります。
この状態を代謝性アルカローシスと言いました。
この他に、代謝性アルカローシスの主な原因としては下記が挙げられます。
I.水素イオンの喪失
A.消化管からの喪失
1.嘔吐や経鼻吸引による胃液の除去
2.進行した腎不全患者への制酸薬投与
B.尿からの喪失
1.ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬
2.一次性ミネラルコルチコイド過剰状態(高アルドステロン症)
3.高炭酸血症後アルカローシス
4.高カルシウム血症とミルクアルカリ血症
C.細胞内への水素イオン移行
1.低カリウム血症
II.重炭酸塩や重炭酸に代謝されうる有機イオン(例えば、輸液中のクエン酸)の投与
III.体液減少によるアルカローシス
A.浮腫患者へのループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬の投与
B.無酸症での嘔吐や経鼻吸引
C.嚢胞性繊維症での発汗による喪失
では逆の場合はどうなるでしょうか。ここでようやく末期腎不全の登場です。
完全に無尿、もしくは薬剤不応性の乏尿などで尿の生成が行われなくなると、重炭酸の濾過も起こらなくなります。こうなると、近位尿細管での酸の交換、分泌が起こらなくなります。
酸の排泄が行われなくなる、そして体外からの(食事からの)酸の負荷により、体内は酸が貯留傾向となります。この状態では、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式の分母が大きくなるため、pHが大きくなっていきます。
この状態を代謝性アシドーシスと呼称しました。
さて、長々と話してきましたが、これが前回基礎編でお話した内容をコンパクトに集約したアシドーシスとアルカローシスの状態です。
しかし、人間というのはとても絶妙なバランスの上に生きている生き物です。ちょっとやそっとではホメオスタシス(恒常性)は崩れません。
という訳で、次からは応用編。どのようにホメオスタシスを維持するのかをご説明します。
代償性という名のホメオスタシスの維持
生理学の教科書で必ずといって良いほどに最初に習う「ホメオスタシスの維持」ですが、これは血液ガスでも例外ではありません。
細胞外液pHが7.40±0.02の範囲から外れそうになると、その反動で体はこのpHの範囲に戻そうと働きます。この働きを「代償性」と呼びます。
さて、ではどの様なパターンで代償性に血液ガスは働くのでしょうか?
それはすべからず全てのパターンです。
例えば、呼吸性アシドーシスの場合、CO2が貯留傾向にあるという事です。であれば、腎臓で酸を分泌して血中の酸を低くしてやればいいのです。
その為には尿の生成を増やしたり、重炭酸の濾過量を増やすなどの工夫が必要になります。
このように、様々な症例で代償性のpH上昇下降は遭遇する事になります。
小括すると、
pHは正常で、PCO2が高い場合には、それは代償された呼吸性アシドーシス、もしくは代謝性アルカローシスという状態です。
この逆に、pHは正常でPCO2が低い場合には、代償された代謝アシドーシス、もしくは呼吸性アルカローシスということになります。
通常、実臨床ではこのようにどこかしらが完全に代償される、もしくは部分的に代償されている状態のpHを診療することになります。
部分的な代償というのは、pHは±0.05以内で動いているが、著しくは逸脱していない状態で、且つ酸/塩基が上昇/減少している状態を指します。
例えば、pHが高く、PCO2が通常、もしくは低い場合には、HCO3が高く、部分的に代償された呼吸性/もしくは混合性とされたアルカローシスとなります。
この逆で、pHは低く、PCO2が通常、もしくは高い場合には、HCO3が低くなり、部分的に代償/もしくは混合性とされた呼吸性アシドーシスという病態となるわけです。
アニオンギャップの存在
アニオンギャップ(Anion Gap : AG)とは、代謝性アシドーシスの原因が実際には何なのか?と診断するための計算式となります。
ヒトの血漿には電解質である陽イオン(cation)と陰イオン(anion)がほぼ等量で存在し、バランスを取っています。血漿中に含まれる陽イオンと陰イオンは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、塩素(Cl)、重炭酸(HCO3-)、リン酸(H3PO4)、硫酸(H2SO4)、有機酸などがあります。
$$AG= Na^+-(Cl^-+HCO_3^-)$$
AGを測定するには、測定される陽イオンと測定される陰イオンを引き算してやる必要があります。測定されない陽陰イオンもありますが、上記の簡易式中には関係してきません。
AGの正常値は12±2 mEq/L
とされており、AGの開大は、代表的なもので糖尿病性ケトアシドーシス,アルコール性ケトアシドーシス,乳酸アシドーシス,腎不全およびサリチル酸(アスピリン)中毒などがある。
AGが正常で代謝性アシドーシスを来たしている場合には、尿細管性アシドーシスや下痢のためHCO3–が大量に喪失し、その代償性として同量のCl–が増加することになります。
あとがき
今回は基礎編の復習、そしてそこからの代償性変化の解説と、代謝性アシドーシスに欠かせないAnion Gapの解説を挟むこととなりました。
にしても、自分で書いてて思いますが、振り返りも長い事長い事。そのくせ代償性の部分については説明がさらっとしすぎてやいないか自分?と疑問を挟まざるを得ません。
正直血液ガスはやっぱりというか、奥が深くて苦手感が拭えませんね。
さて、今日はここらへんでお終いにしようと思います。
ではでは~
1)James L. Lewis III MD, Brookwood Baptist Health and Saint Vincent’s Ascension Health, Birmingham;酸塩基平衡障害;MSDマニュアル プロフェッショナル版
2)田中竜馬 (翻訳), 瀬尾龍太郎 (翻訳), 安宅一晃 (翻訳), 新井正康 (翻訳);ヘスとカマレックのTHE人工呼吸ブック
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