今回は新たな透析における栄養指標として最近開発されたNRI-JHというもののご紹介をしたいと思います。
栄養指標シリーズや栄養障害シリーズを勉強するうえで、文献中に新たな単語に遭遇しました。それが「NRI-JH」です。
なので、筆者も新しく勉強する指標になります。
さて、ではこのNRI-JHとはどういうものなのか?頑張って解説していきましょう。
ではようこそ。栄養指標の世界へ。
NRI-JHって??
さてこの栄養指標、一体何の略なんでしょうか。ということで正式名称の時間です。
NRI-JHの正式名称ですが、
Nutritional Risk Index for Japanese Hemodialysis Patients:栄養リスク指標の日本透析患者版
となります。
こんなのあるんだ?という感じです。
NRI-JHの歴史
日本透析医学会学術委員会の栄養問題ワーキンググループでは,統計調査データベースを用い,PEWの診断項目を参考とした血液透析患者の栄養リスク指標(nutritional risk index for Japanese hemodialysis patients:NRI‒JH)を作成しました。
それがNRI-JHです。
PEWの指標自体が国際腎疾患栄養代謝学会と国際腎臓学会が2008年に提唱した概念なため、どうしても欧米人よりの指標になってしまいました。
この事象については前回の記事でも解説しています。
欧米人とは違う、アジア人向けの指標を作ろう!!と立ち上がったのがAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)でした。そしてAWGSより2019年にアジア人向けサルコペニア基準が発表されます。
その少しあと、日本透析医学会でも日本透析医学会 学術委員会 栄養問題検討ワーキンググループから、上記でも解説したように、PEWを参考とした指標が完成します。それがNRI-JH:nutritional risk index for Japanese hemodialysis patientsでした。
サルコペニア・PEW・NRI-JHを用いることで、低栄養状態への確度・特異度はさらに上がることを期待したいですね。
診断基準は?
NRI-JHの診断基準ですが、「この数値だと該当!」という風ではなく、「この数値なら何点な!」というスコア形式のようです。
ちょっとばかし自動化するのが面倒かもしれませんが、そこはなんとか技術力でカバーしたいところですね。
では診断基準を見ていきましょう。
色々と項目がありますね。目がチカチカします。一つ一つの項目を解説するのは野暮…というか、この表一つで解決してしまうので、今回は割愛したいと思います。
Chat-GPT 3.5による自動化
NRI-JHの診断基準自体は明確化されています。それが上記の表です。
ですが、実際に臨床現場でこの基準を活用しようと思うと、集計など中々ハードルが高く感じてしまいます。
特に、専用のソフト(FilemakerやAccess)やプログラミングが不得手な方では、どのようにこの基準を表現していいか全くわからないと思います。
なので今回、AIの力を借りてみました。その名もNRI-JH ver. Chat-GPT3.5です。
今回はExcelでの関数式の作り方について、解説していきたいと思います(と言っても作ったのはChatGPTですが)。
BMI
BMIは比較的簡単で、20.0 kg/m2未満は3点、20.0 kg/m2以上は0点というものです。これはIF式で作ることが出来ます。
=IF(BMIセル<20,3,0)
上記式で完了です。この式を日本語訳すると、「BMIが20以下は3点。それ以外は0点」です。基準の日本語とも相違はありませんよね。
血清アルブミン
・BCG法で測定した場合(BCG法の値のまま判定する)
- 65歳未満:3.7 g/dL未満 4点,3.7 g/dL以上 0点
- 65歳以上:3.5 g/dL未満 4点,3.5 g/dL以上 0点
・BCP 改良法で測定した場合 (BCP改良法の値のまま判定する)
- 65歳未満:3.4 g/dL未満 4点,3.4 g/dL以上 0点
- 65歳以上:3.2 g/dL未満 4点,3.2 g/dL以上 0点
各施設により測定方法は異なるかとは思います、各基準に合わせた表現方法でもちろん構いません。
関数式は以下のようになります。
=IF(AND(年齢セル>=65,血清アルブミン値>=3.7), 0, IF(AND(年齢セル>=65,血清アルブミン値<3.7), 4, IF(AND(年齢セル<65,血清アルブミン値>=3.5), 0, IF(AND(年齢セル<65,血清アルブミン<3.5), 4, “条件を満たしません”))))
上記式で年齢層別の血清アルブミン評価は完了です。これまた日本語訳するとすれば、「もし年齢65歳以上且つ血清アルブミン値3.7mg/dL以上なら0点。もし年齢65歳以上且つ血清アルブミン値3.7mg/dL以下なら4点。もし年齢65歳未満且つ血清アルブミン値3.7mg/dL以上なら0点。もし年齢65歳未満且つ血清アルブミン値3.7mg/dL以下なら4点」という長ったらしい日本語となります。
血清クレアチニン
さて、血清クレアチニンの評価式も血清アルブミンと大差ありません。
女性
- 65歳未満:9.7 mg/dL未満 4点, 9.7 mg/dL以上 0点・
- 65歳以上:8.0 mg/dL未満 4点, 8.0 mg/dL以上 0点
男性
- 65歳未満:11.6 mg/dL未満 4点, 11.6 mg/dL以上 0点
- 65歳以上:9.7 mg/dL未満 4点, 9.7 mg/dL以上 0点
以上が基準値となります。これをExcelの関数式に落とし込むと以下のようになります。
=IF(AND(性別=”F”, 年齢<65, 血清クレアチニン<9.7), 4, IF(AND(性別=”F”, 年齢<65, 血清クレアチニン>=9.7), 0, IF(AND(性別=”F”, 年齢>=65, 血清クレアチニン<8), 4, IF(AND(性別=”F”, 年齢>=65, 血清クレアチニン>=8), 0, IF(AND(性別=”M”, 年齢<65, 血清クレアチニン<11.6), 4, IF(AND(性別=”M”, 年齢<65, 血清クレアチニン>=11.6), 0, IF(AND(性別=”M”, 年齢>=65, 血清クレアチニン<9.7), 4, IF(AND(性別=”M”, 年齢>=65, 血清クレアチニン>=9.7), 0, “条件を満たしません”))))))))
上記式で血清クレアチニンの評価は完了です。これも日本語訳するとすれば、血清アルブミン式とほぼ同様ですが、
「もし性別が女性且つ年齢65歳未満且つ血清クレアチニン値が9.4未満の場合は4点。もし女性且つ年齢が65歳未満且つ血清クレアチニン値が9.7以上の場合、0点。もし性別か女性且つ年齢が65歳以上且つ血清クレアチニン値が8.0以下の場合、4点。もし性別が女性且つ年齢65歳以上且つ血清クレアチニン値が8.0以上の場合、0点。
もし性別が男性且つ年齢65歳未満且つ血清クレアチニン値が11.6未満の場合は4点。もし男性且つ年齢が65歳未満且つ血清クレアチニン値が11.6以上の場合、0点。もし性別が男性且つ年齢が65歳以上且つ血清クレアチニン値が9.7以下の場合、4点。もし性別が男性且つ年齢65歳以上且つ血清クレアチニン値が9.7以上の場合、0点。」
となります。いやー長い。長すぎる。VBA組めたらどんだけ楽なんでしょうね。もうちょっとスマートに組みたいものです。
血清総コレステロール
最後は総コレステロールの項。層別としては簡単で
- 130 mg/dL未満 1点
- 130以上220 mg/dL未満 0点
- 220 mg/dL以上 2点
が基準値になります。これを関数式へ変換すると
=IF(総コレステロール<130, 1, IF(AND(総コレステロール>=130, 総コレステロール<220), 0, 2))
日本語訳は「総コレステロールが130未満なら1点。総コレステロールが130以上220未満は0点。それ以外は2点。」となります。
以上でNRI-JHの自動化についての解説項は終了になります。ありがとうございました…
総合的に何を判断するのか?
さて、NRI-JHはscore形式を取っています。その為、この数値ならこれだ!!みたいなのがちょっと言い難いものがあります。
が、Low Risk , Medium Risk , High Riskと3分類することは可能です。
上記の表でもある通り、
- 0~7点:Low Risk
- 8~10点:Medium Risk
- 11点以上:High Risk
としています。
このscoreはJRDRデータにより1年後の生命予後を予測しています。カットオフ値として、先に述べた点数で分けているわけですが、ここをカットオフ値とすると、HRがMediumで1.96( 95% CI 1.77~2.16)、Highで3.91( 3.57~4.29)とLowよりも予後がかなり悪い事を示します。その為、各項目を精査し、食事療法や透析不足を回避するなどの工夫をすることが必要となってきます。
皆さんも、このscoreを用いる際は各項目に気を配り、患者管理に当たっていくようにしましょう。
あとがき
今回は日本発の栄養指標であるNRI-JHについてご紹介しました。
診断基準はありますが、正直患者情報を拾う苦労が半端ないのでは??と思ってしまいます。
その内Excelが完成したら、関数式の解説も載せればと思います。→完成しました!!
では今回はこの辺で。
ではまた~~
1)加藤 明彦 ; 透析患者のProtein‒energy wasting,サルコペニア,フレイルに関する最近の話題 ; 透析会誌55(6):349~355,2022
2)神田英一郎 ; 透析患者の低栄養 ; 日腎会誌 2019;61(5):590‒595.
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